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 ゾロア・ドルアド男爵がエルシドに到着すると、待ち受けたパルティアにすぐ施設を引きずり回された。
 途中、廊下を行くメニアに会い、その所作の美しさに見惚れたが、パルティアが支配人、メイド長と護衛騎士以外平民と言っていたのを思い出し、念のために訊ねてみた。

「彼女はメイド長でしょうか?」
「いいえ、メイドの一人ですわ」
「では平民?あれほどの所作を身につけるとは何年も訓練されたのでしょうか」
「いえ、一年もかけておりませんわ。エンダライン家から副メイド長を連れてきて指導させましたの。良い仕事に就けると聞けば、真剣に、そう私たちが考えるよりはるかに真剣に取組んでくれるのです」

 驚きに固まるゾロアに、パルティアはさらに続ける。

「プライドだけが高い使えない貴族をしがらみで雇うより、素質と素養のよい平民を雇い育てる方が世のためになると思いませんこと?」

 プライドでは飯は食えんと思っているゾロアは、高位貴族で次期侯爵となるパルティアからそんな言葉が発せられるとは思わなかったが、しかしまったくそのとおりだと激しく頷いていた。

「よかったわ、貴方も同じ考えで。メンシアの施設も同じように平民を雇うのだけれど、支配人が平民を小馬鹿にするような人では困りますものね」

 ニッと笑ったパルティア。
 視線が合うと、パルティアが何かを期待する目で圧をかけてきているのをゾロアは感じた。

「支配人、引き受けてくださるわよね?」
「・・・・え?私がですか?」
「ええ。アレクシオス様に了解を取ってからではありますけれど。面会が終わったら、お返事聞かせてくださいね」

 あれよあれよと言う間に、ゾロアはパルティアが敷いた道を歩かされて、自分の仕事はどうなってしまうだろうと心配になるが。

「ああ、そうだわ。貴方の仕事は続けてくれて構わないですわ。毎日施設にいなくとも大丈夫なように使用人たちを教育すればいいのだから」

 施設を巡り終えると、噂のメイド長と出逢った。

「テーミア、こちらメンシアのゾロア・ドルアド男爵よ」
「メイド長のテーミア・シンスルでございます」
「彼をメンシアの支配人に引き抜きます。テーミア、あちらの準備ができたらまた貴女に教育を担ってもらうから、よろしくね」

 ゾロアはまだやると返事はしていないのだが、もうパルティアはやる前提で外堀を埋めに埋めている。

 ─断るという選択肢はないのだな。まあ、やってみたい・・・うむ、このメイド長の手腕にも興味がある─

 そんなことをぼんやり考えていると、パルティアに呼ばれていることに気づいた。

「ほら、セリアズ公爵邸に参りますわ!早く馬車にお乗りなさい」

 どう見ても十代のパルティアに指示され振り回されているが、ゾロアは二十代半ば。
ちょっぴり複雑な気持ちを抱えながら、逆らうなんてとんでもないと馬車に飛び乗った。
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