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「へえ、足だけ浸ける温泉?」
「ええ、お母さまがそうして体を温めているのを見て思いついたのですけど」
「足だけ温まるのではないの?」
「足を温めると、体全体が温まるのですって」

 思いついた、浅い浴槽の縁に座って足を湯に浸ける意匠を紙に描いてみる。
縁にリラクゼーションチェアを設置し、ブランケットを置いてうたた寝だってできるように。その隣にミニテーブルを置けば、ティーを飲んだりもできる。
 ふと、思いついたことが口から溢れ出た。

「宿泊者用だけではなく、施設の外にも温泉を引いて平民も利用できる浴槽を作ったら、もっとたくさんの人に使ってもらえるのではないかしら。外ではうんとお安くして。湧いて出るのを止められるわけではないのだから、使わないともったいないですものね。アレクシオス様はどう思われます?」

 パルティアはどんどんとアイデアが湧き上がるのが楽しくてたまらないのだが、アレクシオスはかちかちの真面目のせいか、どうもこれというものが浮かばない。
 パルティアはすごいなと思うと同時に、パルティアには敵わないという劣等感にも苛まれ始めていた。

「うん」

 元気が急に萎んでしまう。
パルティアは繊細なアレクシオスの変化に敏感なので、すぐにそれに気がついた。

「アレクシオス様?どうなさいました?」
「何も・・思いつかない・・・私は駄目だな」

 そのしょんぼりぶりに、パルティアは胸が痛くなるほど。

「駄目なんてこと、決してございませんわ!素敵なリネンを揃えてくださったでしょう?私、とっても気に入っておりますわ」
「そんなの、商会に見繕わせただけで、私は三つのうち一つ選んだだけだよ」

 パルティアにはアレクシオスが萎れた理由がわからない。
何がどうしてこうも萎んでしまったのだろう?

「私はパルティア様のパートナーに相応しくない」

 そんなことまで言い始めた。

「ちっ、違うわ、そんなことありません!いいですか?よく聞いてください、私がパートナーに選ぶのは後にも先にもアレクシオス様だけですわ!」

 勢い余って、まるで告白のようなことを言ってしまったとパルティアが気がつくのは、あとで思い出してから。
 しかし、アレクシオスはパルティアの言葉に慰められ、励まされていた。

「うん・・・、ありがとう。パルティア様にいつも助けられているな私は」
「いえ、私もアレクシオス様に助けられておりますわ。うまく言えないのですけれど、アレクシオス様に話すとなぜかきっと大丈夫って思えるのです。私一人では、何かを決めて進めていく勇気などなかったと思いますわ」

 ダメダメだと自分を貶めるだけのアレクシオスだったが、パルティアが気弱そうにアレクシオスを頼りにしていると呟いた一言で一気に浮上する。

 ─私がパルティア様を守れるようになりたい。そのためにはもっと賢く、もっと強くならなくては─

 胸に決意の火を灯していた。
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