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 パルティアはまだ施設に滞在するニーチェルたちを訪ねていた。
先ほどアレクシオスと相談した、女性向けの施設が思いつかず悩んでいる。

「温いお湯?熱くしてくれたらそれでいいじゃない」
「でも沸かし直しをすると、いつ誰が湯浴みに来るかわからないから、ずっと浴槽に誰かいなくてはならないわ」
「駄目なの?」
「ええ、それに人を割くと、他が足りなくなってしまうもの」
「じゃあ雇えばいいじゃない」

 軌道に乗るまではそうもしていられないのだ。しかし、そんなことを説明してもたぶん深窓のご令嬢たちには理解してもらえないだろう。
もっとも爵位の高い、誰より深窓の令嬢という形容詞がぴったりなパルティアは、ここで訊くのを諦めた。

 次は母スーラの元へ向かう。

「お母さま、パルティアですわ」

 声をかけたが返事はなく、そっと扉を開けると、スーラはドレスを膝まで捲りあげて素足をたらいにつけ、うつらうつらしている。
 侍女のエルザがお辞儀をした。お静かにと口が動いている。起こしては可哀想かと、小声でエルザに話しかけた。

「何しているの?」
「奥様は御御足おみあしが冷えやすく、屋敷でもよくたらいにお湯を張って温めていらっしゃるのですわ」

 何かが閃いた。

「お湯の温度は?」
「冷え切ったときは少し熱く、それ以外はほんの少し熱いくらいです」

 にぃっとパルティアの口元が上がる。

「エルザありがとう!」

 それだけ言って、施設に常駐する予定の医師ゲンザイルの元へと駆けていった。

「先生!ちょっとよろしくて?」
「お嬢様、どうぞ。どうかなさいましたか?」
「教えてほしいの。今お母さまがたらいに湯を張って足を温めていらっしゃるのを見たのだけど、うちの温泉くらいの温度で、浅い風呂のようなものを作り、お湯を流しっぱなしにして浸けられるようにしたら効果はあるかしら?」

 ゲンザイルは頷いた。

「流しっぱなしにされるのであれば、温めのお湯がずっと供給されて冷めにくいでしょうし、人肌よりほんの少し熱めでゆっくり温めるのがよろしいのでは」
「ありがとう、先生!」

 踵を返し、アレクシオスの元へと向かう。

「長い時間足をつけているのだから、ゆったり過ごせる座り心地の良い椅子や茶菓子を用意させたらどうかしら。そうだわ、専用の浴衣を準備してもいいわね」

 慌ただしくノックをすると、中からアレクシオスが顔を出した。

「あら、アレクシオス様だけ?」
「ああ、今、コーズは茶を取りに行っているんだ」

 パルティアも急いで来たので侍女を連れていない。侍従もいない部屋にふたりきりになるのはさすがに具合が悪いとそのまま廊下から話そうとしたが。

「コーズもすぐ戻るから中でどうぞ」

 遠慮も無駄だったようで、アレクシオスに誘われるまま部屋に足を留めることになった。
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