35 / 75
35
しおりを挟む
「お父さま、昨夜は良く眠れまして?」
カーライルを食堂で見かけ、パルティアが声をかけている。
「ああ、いつになくぐっすり眠れたぞ」
そう聞いてにっこりと笑ったパルティアはドヤ顔で言った。
「支配人のデリスが来てから、グレードを落とした物もあるのですけれど、寝具と眠る前のお茶にはよりコストをかけたのですわ。今回寝具は特に、アレクシオス様といろいろ試してみて、なんとか気に入るものを特注したのですけれど、今後はただフカフカしているのではなく、眠りやすいものを開発してはどうかと相談を始めましたの。もちろん枕も」
「なるほど!確かに今朝は首が痛くないぞ」
「たぶん家で使っているものより、ほんの少し固めだと思いますわ」
パルティアは施設に宿泊した者たちに、微に入り細に入りヒアリングを行なった。
客を迎え入れる前に、改善できるところは徹底して手を入れるため。
実際、メニアたちの茶があまり上手くないという声があり、テーミアの特訓が開始されていた。
それと体調の悪い者が長い逗留をするために、もう一つやりたいことがあったのだが、未完のままのものが残されている。
温泉だ。
近くに源泉がいくつもあるため、楽観的に考えて掘ってみたが、ニ度とも失敗した。
資金計画を考えるとチャンスはあと一度。祈るような気持ちで、結果を待ち侘びているところだった。
「温泉はどうかしら」
「諦めるのか?」
「諦めたくはないけれど」
「二つのどちらかをより深く掘るか、新しいところを掘る?」
菫色の瞳が、心配そうにパルティアを見つめている。
「深く・・・今の土地の中で掘るなら深くしかないわ。それとも近隣の土地を買い増しする?」
「いや、それでダメだったら、それこそ資金計画が成り立たなくなるだろう。デリスが怒り出しそうだ」
パルティアの脳裡に怒る猿が浮かんできて、笑いを噛み殺す。
「ではあと一度だけどちらかをもう少し深く掘ってみて、駄目なら諦めるわ」
結果、温泉は出た。
しかし思ったほど熱くはなく、人肌より熱いくらい。手を入れると熱いと思うが、肩まで浸かるなら冬なら沸かし直しが必要な温度である。
「一日中沸かし直していたら大変だわ」
「ああ。これを活かすとしたら・・・プールはどうだろうな」
「プールって何?」
アレクシオスの口からパルティアの知らない言葉が現れた。
「ああ、女性は知らないのか。海や川、湖ではなく、人工的に大きな水溜りを作り、泳げるようにしたものだよ。紳士倶楽部などにはスポーツ施設として併設されていることが多いんだ」
「まあ!全然存じませんでしたわ。古式ゆかしい貴族のご令嬢が泳ぐなどありえないですもの」
「そうだね。でも男性には需要があると思うな。信仰や健康のためと言って寒中に海で泳ぐ人もいるくらいだからね」
「確かにそうですけれど」
「では、男性と女性と分けて、男性はプール、女性は何か別の施設を考えてみたらどうだろう?」
「ええ、そう、ちょっと考えてみますわ」
カーライルを食堂で見かけ、パルティアが声をかけている。
「ああ、いつになくぐっすり眠れたぞ」
そう聞いてにっこりと笑ったパルティアはドヤ顔で言った。
「支配人のデリスが来てから、グレードを落とした物もあるのですけれど、寝具と眠る前のお茶にはよりコストをかけたのですわ。今回寝具は特に、アレクシオス様といろいろ試してみて、なんとか気に入るものを特注したのですけれど、今後はただフカフカしているのではなく、眠りやすいものを開発してはどうかと相談を始めましたの。もちろん枕も」
「なるほど!確かに今朝は首が痛くないぞ」
「たぶん家で使っているものより、ほんの少し固めだと思いますわ」
パルティアは施設に宿泊した者たちに、微に入り細に入りヒアリングを行なった。
客を迎え入れる前に、改善できるところは徹底して手を入れるため。
実際、メニアたちの茶があまり上手くないという声があり、テーミアの特訓が開始されていた。
それと体調の悪い者が長い逗留をするために、もう一つやりたいことがあったのだが、未完のままのものが残されている。
温泉だ。
近くに源泉がいくつもあるため、楽観的に考えて掘ってみたが、ニ度とも失敗した。
資金計画を考えるとチャンスはあと一度。祈るような気持ちで、結果を待ち侘びているところだった。
「温泉はどうかしら」
「諦めるのか?」
「諦めたくはないけれど」
「二つのどちらかをより深く掘るか、新しいところを掘る?」
菫色の瞳が、心配そうにパルティアを見つめている。
「深く・・・今の土地の中で掘るなら深くしかないわ。それとも近隣の土地を買い増しする?」
「いや、それでダメだったら、それこそ資金計画が成り立たなくなるだろう。デリスが怒り出しそうだ」
パルティアの脳裡に怒る猿が浮かんできて、笑いを噛み殺す。
「ではあと一度だけどちらかをもう少し深く掘ってみて、駄目なら諦めるわ」
結果、温泉は出た。
しかし思ったほど熱くはなく、人肌より熱いくらい。手を入れると熱いと思うが、肩まで浸かるなら冬なら沸かし直しが必要な温度である。
「一日中沸かし直していたら大変だわ」
「ああ。これを活かすとしたら・・・プールはどうだろうな」
「プールって何?」
アレクシオスの口からパルティアの知らない言葉が現れた。
「ああ、女性は知らないのか。海や川、湖ではなく、人工的に大きな水溜りを作り、泳げるようにしたものだよ。紳士倶楽部などにはスポーツ施設として併設されていることが多いんだ」
「まあ!全然存じませんでしたわ。古式ゆかしい貴族のご令嬢が泳ぐなどありえないですもの」
「そうだね。でも男性には需要があると思うな。信仰や健康のためと言って寒中に海で泳ぐ人もいるくらいだからね」
「確かにそうですけれど」
「では、男性と女性と分けて、男性はプール、女性は何か別の施設を考えてみたらどうだろう?」
「ええ、そう、ちょっと考えてみますわ」
66
お気に入りに追加
999
あなたにおすすめの小説

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位
2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位
2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位
2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜
本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。
アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。
ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから───
「殿下。婚約解消いたしましょう!」
アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。
『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。
途中、前作ヒロインのミランダも登場します。
『完結保証』『ハッピーエンド』です!


婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に
柚木ゆず
恋愛
※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。
伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。
ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。
そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。
そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。
「そう。どうぞご自由に」

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……
水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。
相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。
思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。
しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。
それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。
彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。
それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。
私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。
でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。
しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。
一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。
すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。
しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。
彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる