【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

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 一向に本宅に戻ろうとしないランバルディに、アレクシオスが相談を持ち掛けたのはその夜のこと。

「ん?執事をひとり?そうだな。ではデリスでも動かしたらどうだ」

 セリアズ家にいる幾人かの執事の中では中堅で、特筆すべきは数字に強いというところ。

「デリスがいれば金の動きも透明化できるから安心だと思うぞ」

 その四日後、セリアズ公爵家から大量の荷物とともに早速デリス・インルーがやってきて。
 テーミア率いる少女たちやエンダラインから来た護衛騎士たち、皆との顔合わせも無事に終えると、デリスは早速動き出す。
 アレクシオスとパルティアがいままで投入してきた資金と、購入してきたものを確認し終えると、アレクシオスが選んだアメニティやリネンなどの消耗品にかかる経費、満室になったとき、空き室があるときの経費、予測される収入と支出を計算した上で、事業が軌道に乗るまでにかかる経費を試算して、それがアレクシオスやパルティアからの資金で補えるものなのか。軌道に乗せるまでに予測より時間がかかったとしたらいつまで様子を見ていられるかのデッドラインも算出して見せた。

「デリス、そんな縁起でもないことまで考えるのはやめてくれ」

 アレクシオスが嫌な顔をすると、

「何をおっしゃいますか!これがなければ知らぬ間に大量の資金を垂れ流して、失敗するだけでこざいますよ!何事も計画が大切なのです!」

デリスは堂々と反論し、アレクシオスとパルティアは帳簿一つつけていなかったことを深く反省した。

「よろしいですか?今後は何かを買い求めるときは私に一声おかけください。買うなとは申しませんが、それによって未来の資金計画を変えねばならなくなることもございますから。進捗を正しく追っていればことが起きてもすぐに対応できますからね」

 とても楽しそうに告げる。

「数字に強いとは聞いていたが、予想以上だ・・・」

 叱られたアレクシオスとパルティアは同時に肩を竦めると、顔を見合わせてくすりと笑いあった。

 金の出入りがはっきりわかるようになると、アレクシオスもパルティアもコスト意識が芽生えて、見た目が良さそうだからと選んだ物よりほんの少しだけ安いが質の良いものに選び変えたり、食材を無駄にしないメニューを料理長と考えて試作したりと、準備を終えたと思っていた物事も見直しができた。

「まだまだ全然わかっていなかったのだわ。デリスの力を借りていなかったら、お金を無駄にしただけで終わっていたかもしれないわね」

 パルティアの言葉はアレクシオスにも沁みた。

「本当にそのとおりだ。私たちはまだ若く、知識も経験も浅い。皆に教わり、誤ちを犯したら素直に反省しながら進むしかないのだろうな。でも必ず成功させよう、ふたりで!」
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