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 エルシドにパルティアが到着した夜、夕餉をともにしたアレクシオスとセリアズ公爵ランバルディは、設計士ダルディーンとの出逢いと考えていた意匠をうまく伝えられたという話を聞いて、アレクシオスは次の工程を考え、ランバルディはドアランの名を頭に刻んでいた。

 ─ジーン・ドアランめ、ちょっと人気があるからと思って調子に乗りおって。子爵の分際で我らセリアズ公爵家とエンダライン侯爵家の共同事業を下に見ただと?嫌というほど思い知らせてやろうではないか─

 彼を優しい人だと言うパルティアがまだ知らない、これこそがランバルディらしさである。

 ドアランも、最初から二家共同事業と知っていたら、パルティアを小馬鹿にするようなことはしなかっただろうが。

 食後、小さなテーブルに席を移してティーを楽しむ。
 いや、楽しむどころか腹の中を燃え立たせているランバルディとは違い、アレクシオスとパルティアは胸の中を熱くしていた。
久しぶりに顔を合わせると、アレクシオスの繊細な美貌は以前と違い、明るく輝いているのがわかる。

 ─公爵様にはあまり似ていらっしゃらない。お母さま譲りなのね─

 透明感のある菫色の瞳とそれを縁取る長い白銀色のまつ毛が印象的だ。
良く見たらそれこそとんでもなく整った容姿をしており、性格は生真面目すぎるが穏やか、思慮深く知的な青年だ。
 パルティアはライラが何故、アレクシオスではなくオートリアスを選んだのだろうと首を傾げた。

 ─どちらでも選んで良いと云われたら、私なら絶対アレクシオス様だわ!─

 そう頭に浮かんで、ハッとしてパッと頬を赤らめた。

 ─いやだ、私ってば何考えているのかしら─


 アレクシオスは急に顔を赤くしたパルティアに気づいて、無意識に手を伸ばした。指先がパルティアの額に触れると、自分の行動に驚いて手を引っ込める。

「あ、すまないっ。顔が赤いから疲れで熱でも出たのかと思ったらつい手が伸びてしまった」

 パルティアは自分の顔を赤らめた理由がわかっている。それを見逃さず心配してくれたアレクシオスに、胸が熱くなった。
 ドアランにカッカッとしていたランバルディも、ふたりの様子に気づくと、さすがに自分が邪魔だと思い至る。

「ちょっと手紙を書きたいので、先に失礼する。パルティア嬢、ゆっくりしていきなさい」

 そう言って、席を立った。
 気を利かせたのは本当だが、手紙を書くのは嘘ではない。
友人たちにドアラン子爵について書き送り、パルティアに不快な思いをさせたことを後悔させてやろうと企んでいた。
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