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 パルティアが張り切ってエルシド行きの支度をしていたとき、カーライルは腹心の部下ソダル・ランデを呼びつけていた。

「お呼びと伺い罷り越しました。しかし帰参が遅れ、申し訳ございませんでした」
「よい。任務なのだからな。ところでパルティアのことは聞いているか?」

 伸び切った真っ赤な髪をまとめたソダル・ランデの目つきは鋭く、逃走者を無数に覚え込んで人混みの中から見つけ出したり、僅かなヒントから追い詰めたりと、その能力から赤い猟犬と呼ばれている。

「パルティア様が婚約を解消されたという話でしょうか?」
「ああ。胸糞悪い話だが、逃げた本人から謝罪を受けていないのでな。何が何でも断罪してやりたいのだ」
「私もそう思っております。当時私がいればすぐに捕まえられたでしょうに」
「今からでも遅くない。やってくれるか?」
「もちろんでございます。まあ、追わずとも貴族の子どもがそう簡単に平民の中に混じって暮らしていけるものではございませんから、すぐ見つけられると思います」

 自信満々に答えるソダルにカーライルが訊ねる。

「しかしベンベローではまだ見つけられていないようだぞ」
「まあ、私のようにはいかないだけでしょう、どうかお任せください」

 深く頭を下げて軍人らしく礼をすると、ソダルは踵を返して出ていった。

「新しい獲物を見つけて実にうれしそうな顔をしていたな。いつも思うが敵にはしたくない男だ」

 ベニーも頷いた。



 エンダライン侯爵家を出立したソダルは、まず市井にいる手の者に平民にしては言動などに浮いたところのある若い男女がいなかったかを探させた。本人たちだという確証までは求めていない。噂レベルでいいと言うと、面白いように報告が来た。
 その中から精査し、どのルートを追うか決めるのがソダルの勘働きなのである。

「ふむ。ではこれかこちらかを追ってみるか」
「え?これですか?こっちのほうが怪しくないですか?」

 そばにいた部下の異に、ソダルは指先を振る。

「金のある奴等だ。怪しまれないように徹底的に手を打って逃げただろう。しかし、時間が経つとボロが出る。生粋の高位貴族が平民に交ざって暮らすなんていつまでもできるものじゃないからな。
そこで問題だ。逃げてから時間経った今、探すとしたら?」

 部下はなるほどと小さく呟き、俯いた。

「追うときは逃げる者の気持ちになって考える。一月以上経つと当初の緊張は薄れ、手持ちの金は少なくなり、荒れてくるものさ。直後なら如何にも裏がありそうに見えるものを追うが、一月追手の気配がなければ警戒も緩んでいるだろうから、私なら素直に怪しい奴を追う」
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