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 エンダライン侯爵家にパルティアが戻る日。
 アレクシオスと、まだ別邸に滞在しているランバルディの二人が見送りにやって来た。

「まあ、セリアズ公爵様まで恐れ入ります」

 ずっとシンプルなデイドレスでラフに過ごしていたパルティアが、エルシドで初めてドレスを纏い、美しいカーテシーを見せる。気品溢れる姿にやはり侯爵令嬢なのだと改めて皆に知らしめた。

「私はまだしばらくこちらに滞在するよ、そうすれば何か足りないことがあっても私がすぐに補えるだろうからね」
「助かりますわ!ただ共に資金を出すのですから、設計士との打ち合わせはアレクシオス様もご一緒頂きたいのですけれど」
「あ、ああ、考えてはみるが、私はパルティア様が決められたものでいいと思っているよ」
「んんんっ!では、家具などのインテリアやリネン、アメニティ類はすべてアレクシオス様にお任せしてもよろしくて?」
「もちろんだ!」

 パルティアが頭の中にある建物のイメージを伝えると、アレクシオスはメモを取り、例えばソファのファブリックは無地がいいかボタニカルか幾何学か、色のイメージなど、パルティアの希望を確認する。
 二人が逐一相談しながら、コテージなどよりずっと手軽に宿泊でき、かといって平民が泊まるような安普請なものではない施設の開業に向け、手を取り合う様を微笑みながら見ているのはランバルディ・セリアズ公爵。
 しかしパルティアの侍女ニーナは出発時刻を過ぎても話に夢中なパルティアに、声をかけようか待つか迷ったあげく、おずおずと二人の時間を断ち切った。

「そうか、いくら優秀な護衛がついていても、暗い時間に山や森を走るのは危ないから次の宿泊地に着く時間も考えなければいけないな」

 パルティアを慮りながら、名残惜しそうに自分から一時の別れを告げるアレクシオスの様子に、安心させるようパルティアがまたすぐに戻って来ると告げる。

「ああ、待っている。または私が待ちきれずにそちらに行ってしまうかもしれないんだが、そのときは許してくれるかな」

 パルティアは仕事の話が待ち切れないと受け止めてにこにこしながら「もちろん!」と答えているが。
 ニーナは「恋しい人が待ち切れない」と、アレクシオスが言ったように聴こえてドキドキしていた。
 そしてそれはランバルディも同じである。
このふたりが手を携えて幸せになれば、セリアズ公爵一門もエンダライン侯爵の一門も、政略的な企みなどしなくとも皆が幸せになれると確信を抱き始めていた。
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