14 / 75
14
しおりを挟む
ランバルディ・セリアズ公爵が嫡男レンドルフに家と領地を任せ、湖畔の町エルシドに現れたのはその二日後。
パルティアがあと三日で帰郷するというぎりぎりのタイミングだった。
こじんまりとしたセリアズ公爵家別邸前をゆっくりと通り過ぎながら、アレクシオスの馬車があるかどうかを確認し、無いと見るとパルティアが宿泊すると聞くコテージへと向かう。
そこでもゆっくりと馬車を走らせて、公爵家の馬車があることに気づくとニンマリとした。
「この辺のどこか目立たないところに停めてくれ」
途中の宿場で買った不味い食事を馬車の中で食しながら、密かにコテージを見張る。
ふたり、アレクシオスとパルティアが並ぶ姿を見てみたかったから。
窓を少しだけ開け、じっと外の様子を覗っていると、話し声や笑い声が聞こえてくる。
「あれはアレクシオスか?」
朗らかで大きな笑い声に、様子を見なくとも二人がどんな様子で笑い転げているかが想像できる。
もちろん貴族ともなれば、特に令嬢があのように大きな声で笑うなどはしたないと叱られて然るべきだが、子どものように屈託なく笑いあう姿が目に浮かび、ほんの数週間前死にかけていた愛息を引き戻し、立ち直らせつつある笑い声だと思うと、それすらも愛おしく思えてくるから不思議なものだ。
「姿を見てみたいな」
窓をもう少し大きく開き、辺りを窺うもそれらしき者はいない。
扉を開けて馬車から下りると護衛がすっと配置について、ランバルディが歩くとおりに影が添えられていく。
「どの辺りにいるのだろうな?」
屋敷の外にいるようだ。
コテージを囲む塀の内側・・・
護衛を何人も引き連れて、立派な身なりだが不審な貴族が覗いているとパルティアに知らせが入り、アレクシオスとふたり、足音を潜めて見に行くと。
「ちっ、父上っ!なななにして?」
「あっ!アレクシオス!しまった」
「父上?え?セリアズ公爵様?」
三人はそれぞれに顔を見合わせて。
「何してるんですかーっ!」
セリアズ公爵はアレクシオスに叱られた。
「まあまあ、アレクシオス様そのへんでね」
しゅんと小さくなったランバルディを見かねて、パルティアが仲裁に入る。
「うむ、すまなかった。アレクシオスが元気になった姿がどうしても一目見たくて、飛んできてしまったのだ」
本当は少し違うが。
「お父上様に大変なご心配をおかけしたのに、アレクシオス様のために遠路を飛ばして来られたのですから、もっとお優しく労って差し上げても罰は当たりませんことよ」
そうアレクシオスを諌めたパルティアに、ランバルディは感動した。
いままでアレクシオスのまわりにいた者たちはランバルディの知る限り皆、アレクシオスの機嫌を取り、常に先回りして何でもしてやっていた。
このようにアレクシオスを諌め、そしてきっと叱咤激励して回復に導いてくれたに違いないと。
実際パルティアはそこまで深く考えていたわけではない。
ただ、自分とほぼ同時に同じ経験をし、より深く傷ついたアレクシオスの心の内が誰より理解できただけ。
心の傷が辛うじて塞がった頃からは、互いに支え合い思いやるうち、相手が元気になり笑ってくれることが嬉しいと思えるようになった。
だから自分も元気にならなくてはと。
パルティアを元気にしたのは、アレクシオスだとも言えるのだった。
パルティアがあと三日で帰郷するというぎりぎりのタイミングだった。
こじんまりとしたセリアズ公爵家別邸前をゆっくりと通り過ぎながら、アレクシオスの馬車があるかどうかを確認し、無いと見るとパルティアが宿泊すると聞くコテージへと向かう。
そこでもゆっくりと馬車を走らせて、公爵家の馬車があることに気づくとニンマリとした。
「この辺のどこか目立たないところに停めてくれ」
途中の宿場で買った不味い食事を馬車の中で食しながら、密かにコテージを見張る。
ふたり、アレクシオスとパルティアが並ぶ姿を見てみたかったから。
窓を少しだけ開け、じっと外の様子を覗っていると、話し声や笑い声が聞こえてくる。
「あれはアレクシオスか?」
朗らかで大きな笑い声に、様子を見なくとも二人がどんな様子で笑い転げているかが想像できる。
もちろん貴族ともなれば、特に令嬢があのように大きな声で笑うなどはしたないと叱られて然るべきだが、子どものように屈託なく笑いあう姿が目に浮かび、ほんの数週間前死にかけていた愛息を引き戻し、立ち直らせつつある笑い声だと思うと、それすらも愛おしく思えてくるから不思議なものだ。
「姿を見てみたいな」
窓をもう少し大きく開き、辺りを窺うもそれらしき者はいない。
扉を開けて馬車から下りると護衛がすっと配置について、ランバルディが歩くとおりに影が添えられていく。
「どの辺りにいるのだろうな?」
屋敷の外にいるようだ。
コテージを囲む塀の内側・・・
護衛を何人も引き連れて、立派な身なりだが不審な貴族が覗いているとパルティアに知らせが入り、アレクシオスとふたり、足音を潜めて見に行くと。
「ちっ、父上っ!なななにして?」
「あっ!アレクシオス!しまった」
「父上?え?セリアズ公爵様?」
三人はそれぞれに顔を見合わせて。
「何してるんですかーっ!」
セリアズ公爵はアレクシオスに叱られた。
「まあまあ、アレクシオス様そのへんでね」
しゅんと小さくなったランバルディを見かねて、パルティアが仲裁に入る。
「うむ、すまなかった。アレクシオスが元気になった姿がどうしても一目見たくて、飛んできてしまったのだ」
本当は少し違うが。
「お父上様に大変なご心配をおかけしたのに、アレクシオス様のために遠路を飛ばして来られたのですから、もっとお優しく労って差し上げても罰は当たりませんことよ」
そうアレクシオスを諌めたパルティアに、ランバルディは感動した。
いままでアレクシオスのまわりにいた者たちはランバルディの知る限り皆、アレクシオスの機嫌を取り、常に先回りして何でもしてやっていた。
このようにアレクシオスを諌め、そしてきっと叱咤激励して回復に導いてくれたに違いないと。
実際パルティアはそこまで深く考えていたわけではない。
ただ、自分とほぼ同時に同じ経験をし、より深く傷ついたアレクシオスの心の内が誰より理解できただけ。
心の傷が辛うじて塞がった頃からは、互いに支え合い思いやるうち、相手が元気になり笑ってくれることが嬉しいと思えるようになった。
だから自分も元気にならなくてはと。
パルティアを元気にしたのは、アレクシオスだとも言えるのだった。
72
お気に入りに追加
999
あなたにおすすめの小説
結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位
2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位
2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位
2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。


《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜
本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。
アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。
ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから───
「殿下。婚約解消いたしましょう!」
アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。
『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。
途中、前作ヒロインのミランダも登場します。
『完結保証』『ハッピーエンド』です!

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……
水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。
相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。
思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。
しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。
それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。
彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。
それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。
私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。
でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。
しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。
一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。
すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。
しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。
彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

【完結】フェリシアの誤算
伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。
正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる