【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

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 エンダライン侯爵家は、今大変に珍しい来客を迎えていた。

 ランバルディ・セリアズ公爵閣下。
 エンダライン侯爵家とは別の派閥の筆頭貴族で、これまでニ家は決して相容れないとされてきた。
 所謂、敵対している相手の親玉である。
どこかのパーティーで会うことがあっても、最低限の挨拶くらいしかして来なかった相手が今、カーライルの前のソファに座って茶を飲んでいた。

「さすが、エンダライン侯爵家の皆様が愛飲されるだけのことはありますな、素晴らしい香りと味だ」

 ランバルディは、鷹揚な物言いで茶を褒めてから居住まいを正し、頭を下げた。

「本日伺いましたのは、ご令嬢パルティア様に我が次男アレクシオスをお助け頂いたことに感謝の意をお伝えするためでございます」

 カーライルは度肝を抜かれていた。
公爵が下位貴族にかける言葉や態度としては破格なほどに丁寧で、心のこもったものだったから。

「いや、娘は人として当然のことをしたまでのこと、どうかお顔をお上げください」

 ランバルディがゆっくりと顔を上げたが、視線は落としたまま口を開く。

「ご令嬢が息子をお助けくださらねば、間違いなく儚くなっておりましたでしょう。大切に想うていた婚約者に裏切られた傷は深刻で、医者の勧めに応じて婚約者との思い出深い家から引き離し、静養に出したのですが・・・。実はその医者からも回復の見込みは少ないと言われていたほどだったのですから。使用人の目を掻い潜り、何度もひとり抜け出しての結果、パルティア様がいらっしゃらねば、我が家は永久に次男を失ったことでしょう。
それにしてもエンダライン侯爵家の当のご令嬢にお力添えを頂くとはなんという皮肉、なんという偶然なのでしょうな」

 カーライルもその言葉に素直に頷いた。

「息子アレクシオスが、パルティア様が考えられている事業に共同出資したいと申して参りまして」
「はい、パルティアからもその知らせが届いており、実は本日公爵閣下に面会を申し込もうと書状を整えたところでございました」

 テーブルにカーライルが書いた自分宛ての書状が置かれているのを見て、ランバルディがふっと穏やかな笑いを浮かべた。

「我らは何故にああもいがみ合っておったのですかな。こうして腹を割って話せば、むしろ何もかもがうまく噛み合うというのに、誠にもったいないことをいたしましたな」

 ランバルディから手を組もうと申し出るなどカーライルには予想外だったが、この機を逃す気はさらさらない。

「そうですな。幸い子どもたちは助け合いながら親交を深め、今ではお互いを同志と呼んでいるそうですから。私たちも足並みを揃え、あの忌々しきベンベロー侯爵家やシリドイラ侯爵家を何とかしたいものでございます。ところで閣下、シリドイラ家とは切っても切れぬ仲と伺っておりましたが、よろしいのですか」

 その名を聞いた瞬間、ランバルディの表情はガラリと厳しく変わった。
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