【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

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 エンダライン侯爵家で、当主カーライルがパルティアからの便りに目を通していた。

「世にも不思議。こんなことがあるのだな」

 執事のベニーに妻スーラを呼ぶよう申し付け、もう一度読み直して肩を揺らしている。

「あなた、お呼びと伺いましたが」

 ベニーにいざなわれたスーラが現れると、読み終えた手紙を渡してやる。

「これ?まあ、パルティアからの!」

 読み始めたスーラの目が丸くなっていく。

「まあまあ!こんなことがあるなんて」
「私も驚いたよ」

 執事がきょとんとしているので、スーラが手紙を渡してやる。

「よろしいのですか?」
「ええ、構わないわ」

 勧められるまま、読み始めた執事が顔を上げるとにっこりと微笑みを浮かべていた。

「これはなかなかにすごい偶然ではございませんか?」
「ああ。我らの時代は派閥の垣根が高く、セリアズ公爵とは行き合うこともなかったが、二人は親交を深めているようだ」

 真実の愛と逃避行に洒落込んだオートリアスとライラは世間で応援されていて、被害者のパルティアが悪役のように言われているのがカーライルもスーラも面白くない。

「愛していた婚約者に裏切られ、失意の中入水自殺するほどの令息を、すんでのところで助け上げた令嬢も実は、同じように婚約者に裏切られ、その傷を癒そうとその地を訪れた被害者だった。
ふたりはお互いを支え合い、同志となって共同出資の事業を起こす。それは地元の皆を雇用し、その土地の雇用を増やし、経済を活性化して恩返しをするため。
そして自分たちと同じような傷を抱えた者がゆるりと休めるよう、回復できるようにともらった慰謝料を惜しげもなく投入し、世間にそれを還元しようとする。
そんなパルティアやセリアズ公爵の令息と、愛を貫いたかも知れぬが皆を傷つけた自分勝手なオートリアスたち。

社交界はどちらを良しとするだろうな?
言うまでもないが。
うまく導けば、ベンベロー侯爵家やシリドイラ侯爵家への壮大な意趣返しになる。

セリアズ公・・・も、さすがに今回は我らと手を組むだろうから一度相談して来よう」

 カーライルとスーラはパルティアがエルシドに向かって以来初めて、晴れやかに心から笑うことができた。

 その夜、カーライルはランバルディ・セリアズ公爵に訪問を打診する書状をしたため、翌朝使いを出そうと考えていたのだが。

 夜が明けて、のんびり朝食を楽しんでいたカーライルの元にベニーが書状を持って来た。

「カーライル様、先触れの使者が参りまして、返事を持ち帰りたいと」
「それはまた慌ただしいことだな」

 差出人を見て、カーライルが慌てて立ち上がる。

「ベニー!セリアズ公からではないか!それを早く言え!」

 返事を渡すため、茶を飲み過ぎてたぷたぷした腹を抱えながら、カーライルが執務室へと走って行った。
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