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パルティアは、オートリアスを深く愛していたわけではなかった。
ただ長く婚約しており、それなりに情もあったので、このように急に切り捨てられたことが深い傷となって涙が止まらなくなったのだ。
「もう三日も泣き続けておりますわ」
「食事も摂っていないのであろう?」
「ええ、このままでは衰弱してしまいます」
スーラが悲しげに眉を寄せる。
「ここにいるとどうしてもオートリアスのことを思い出してしまうのではないだろうか?一度静養に出してみようか」
カーライルは知る人もなく、またパルティアに何の思い出もない観光地エリシドを選び、貸コテージを準備させると屈強な護衛騎士八人と侍女ニーナたち六人、副料理長と料理人三人を馬車五台に乗せて送り出したのだった。
「パルティア様、あちらに着きましたらごゆっくりなさいませね」
馬車でもニーナがつきっきりで看病するが、うんともすんとも言わず。心が弾けてどこかへ行ってしまったようなパルティアに、侍女たちは皆涙に暮れていた。
丸2日の旅を終え、湖畔にある閑静な町エリシドについて馬車を下ろされたパルティアがようやく一言だけ。
「きれいなところね」
そう呟くと、侍女だけでなく護衛騎士たちまでが
「パルティア様がお話しになられた!」
と泣き出した。
それを見たパルティアは深く反省する。
「皆さん、本当に心配かけてごめんなさい。まだ心から笑ったりはできないのだけど、今までのように黙りこくることはしないように気をつけるわ」
使用人たちひとりひとりの手を握り、謝った。
その夜、とても久しぶりに食事を摂ったパルティアは、料理人たちに美味しかったと礼を言って、また皆を泣かせていた。
あまりたくさんは食べられなかったが、料理人たちの心遣いを感じて一口でも多く食べようと努力して。
翌朝は護衛騎士とニーナと湖畔の散歩から始めた。
早朝にも関わらず、たくさんの人々が歩いている。
半分以上は地元の領民で、ちらほらと貴族らしき者が交じっている。今は避暑の季節ではないので、療養に来ているかリタイヤして住み着いているかのどちらかであろう。
ふと、その中にとても悲しそうな表情の美しい青年を見つけた。今にも崩れ落ちそうに、今にも泣き出しそうに湖畔に佇む青年は、まるで昨日までの自分のように思えて、パルティアは目が離せなくなった。
青年は小石を一つ、湖に投げ込むとふらりふらりと林の中へと消えていく。
その背中を心配気に見守ったパルティアは、自分を支える使用人たちの気持ちを痛感し、別荘に戻るともう一度改めて皆に謝罪と感謝の気持ちを伝えたのだった。
ただ長く婚約しており、それなりに情もあったので、このように急に切り捨てられたことが深い傷となって涙が止まらなくなったのだ。
「もう三日も泣き続けておりますわ」
「食事も摂っていないのであろう?」
「ええ、このままでは衰弱してしまいます」
スーラが悲しげに眉を寄せる。
「ここにいるとどうしてもオートリアスのことを思い出してしまうのではないだろうか?一度静養に出してみようか」
カーライルは知る人もなく、またパルティアに何の思い出もない観光地エリシドを選び、貸コテージを準備させると屈強な護衛騎士八人と侍女ニーナたち六人、副料理長と料理人三人を馬車五台に乗せて送り出したのだった。
「パルティア様、あちらに着きましたらごゆっくりなさいませね」
馬車でもニーナがつきっきりで看病するが、うんともすんとも言わず。心が弾けてどこかへ行ってしまったようなパルティアに、侍女たちは皆涙に暮れていた。
丸2日の旅を終え、湖畔にある閑静な町エリシドについて馬車を下ろされたパルティアがようやく一言だけ。
「きれいなところね」
そう呟くと、侍女だけでなく護衛騎士たちまでが
「パルティア様がお話しになられた!」
と泣き出した。
それを見たパルティアは深く反省する。
「皆さん、本当に心配かけてごめんなさい。まだ心から笑ったりはできないのだけど、今までのように黙りこくることはしないように気をつけるわ」
使用人たちひとりひとりの手を握り、謝った。
その夜、とても久しぶりに食事を摂ったパルティアは、料理人たちに美味しかったと礼を言って、また皆を泣かせていた。
あまりたくさんは食べられなかったが、料理人たちの心遣いを感じて一口でも多く食べようと努力して。
翌朝は護衛騎士とニーナと湖畔の散歩から始めた。
早朝にも関わらず、たくさんの人々が歩いている。
半分以上は地元の領民で、ちらほらと貴族らしき者が交じっている。今は避暑の季節ではないので、療養に来ているかリタイヤして住み着いているかのどちらかであろう。
ふと、その中にとても悲しそうな表情の美しい青年を見つけた。今にも崩れ落ちそうに、今にも泣き出しそうに湖畔に佇む青年は、まるで昨日までの自分のように思えて、パルティアは目が離せなくなった。
青年は小石を一つ、湖に投げ込むとふらりふらりと林の中へと消えていく。
その背中を心配気に見守ったパルティアは、自分を支える使用人たちの気持ちを痛感し、別荘に戻るともう一度改めて皆に謝罪と感謝の気持ちを伝えたのだった。
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