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エンダライン侯爵カーライル卿と妻スーラ夫人は、揃って一人娘パルティアの元にいた。
「ティア、なんてかわいそうに」
スーラが慰めるよう優しく背を撫でてやっている。
「私が必ず断罪してやるからな、あの不届き者めが」
ぐっと拳を握り、低い声で吐き出すカーライルにスーラも頷く。
「旦那様、書状が届きました」
ベニーがベンベロー侯爵からの先触れを持って現れ、カーライルは腰を上げた。
「スーラはティアについてやっていてくれ」
最近は世情が落ち着いて戦闘が行われることは無くなったが、軍人でもあるカーライルは久しぶりに敵を迎え撃つ怒りと興奮で、我が身の武者震いを感じている。
「旦那様」
ベニーが皆まで言わず、短く来客を告げた。
「うむ、参る」
応接間に通されていたゾーナ・ベンベロー侯爵も、固く拳を握りしめている。
逃げたオートリアスへの怒りと、幾多の歴戦を勝利に導いてきた勇猛果敢さで国内最強とも言われる軍人、カーライル・エンダラインの怒りに立ち向かわねばならない恐怖とで。
同じ侯爵であっても、家格も力もエンダライン家にはまったく及ばない。カーライルと対等に渡り合うなど、ゾーナには厳しい注文であった。
「待たせた」
ノックもせずに扉を開けて入ってきたカーライルに、心臓が縮み上がったゾーナはガバっと頭を下げて絶叫した。
「申し訳ございません!」
カーライルは憤怒の顔のまま、ゾーナに言う。
「何を謝っておられるのかなゾーナ殿。まずは顔を上げよ」
怒鳴られると怯えていたゾーナは、あれ?と思いながらそろりと顔を上げた。
「ひっっ!」
落ち着いた声に聞こえたのだが、カーライルのその顔は怒れる魔王のようで、ゾーナは間違いなく1メーターは後ろに飛び退った。
「何故いきなり謝ったのだ?」
「あ、あの、実は愚息が・・・」
「ああ、そなたの愚かな息子がどうなされたのだ?確か私は二人で共に参るよう書状を認めたはずだがな」
ゾーナは、カーライルがもちろんオートリアスの出奔を知った上で二人を呼びつけたと理解している。いや、正確にはそうではないとよいがと、少し期待してもいたのだがあっという間に打ち砕かれた。
「も、申し訳ございません。愚息は出奔いたしました」
「ほお、出奔とな?ではそなたの愚かな息子と婚約していた我が愛娘はどうなるのだろうな」
ゾーナの歯は、恐怖に噛み合わなくなりカチカチと音を立て始めていた。
「ティア、なんてかわいそうに」
スーラが慰めるよう優しく背を撫でてやっている。
「私が必ず断罪してやるからな、あの不届き者めが」
ぐっと拳を握り、低い声で吐き出すカーライルにスーラも頷く。
「旦那様、書状が届きました」
ベニーがベンベロー侯爵からの先触れを持って現れ、カーライルは腰を上げた。
「スーラはティアについてやっていてくれ」
最近は世情が落ち着いて戦闘が行われることは無くなったが、軍人でもあるカーライルは久しぶりに敵を迎え撃つ怒りと興奮で、我が身の武者震いを感じている。
「旦那様」
ベニーが皆まで言わず、短く来客を告げた。
「うむ、参る」
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同じ侯爵であっても、家格も力もエンダライン家にはまったく及ばない。カーライルと対等に渡り合うなど、ゾーナには厳しい注文であった。
「待たせた」
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「申し訳ございません!」
カーライルは憤怒の顔のまま、ゾーナに言う。
「何を謝っておられるのかなゾーナ殿。まずは顔を上げよ」
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「ひっっ!」
落ち着いた声に聞こえたのだが、カーライルのその顔は怒れる魔王のようで、ゾーナは間違いなく1メーターは後ろに飛び退った。
「何故いきなり謝ったのだ?」
「あ、あの、実は愚息が・・・」
「ああ、そなたの愚かな息子がどうなされたのだ?確か私は二人で共に参るよう書状を認めたはずだがな」
ゾーナは、カーライルがもちろんオートリアスの出奔を知った上で二人を呼びつけたと理解している。いや、正確にはそうではないとよいがと、少し期待してもいたのだがあっという間に打ち砕かれた。
「も、申し訳ございません。愚息は出奔いたしました」
「ほお、出奔とな?ではそなたの愚かな息子と婚約していた我が愛娘はどうなるのだろうな」
ゾーナの歯は、恐怖に噛み合わなくなりカチカチと音を立て始めていた。
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