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64 新しい思いつき
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「彼女は出会ったこともないソルベート様がいつ運命の人だと思われたのでしょうね」
「ん?ああ、兄の忘れ物を届けに来たときに私を見かけたらしい」
「それだけですか?」
「ああ」
「一目惚れされたのですねえ」
リイサが悪戯っぽくニッと笑う。
「いや、別にそんなの嬉しくも何ともないぞ」
ないないと両手を大袈裟に振って否定するソルベートがかわいくて
「からかってごめんなさい」
にっこりしながらリイサが謝り、口角だけあげてソルベートも返したと思うと、真面目な顔で呟く。
「城に出入りする基準を見直さないと。
門番はいるが、これでは身内と嘯いた敵も簡単に入れてしまうな」
「そうですわね」
ふと、前世で祖母の見舞いに行った病院を思い出した。
見舞客用の受付があり、名前と来た時間と誰に用かを書くと、受付係が番号のついた札を渡し、自分が書いた欄にその番号を書き加える。院内では札を胸につけておかねばならず、訪問者だといつでも一目でわかるようになっていて、帰るときに札を返すと退出した時間を受付が書き加えるのだ。
「門番とは別に受付ゲートを作ってはいかがかしら?名札を作って、城で働く者はその者の名札をつけさせる。来城者は基本貴族かその家の者のはずですから先触れと一致している領主や当主からの書状がある者、また招待状や召喚状、来城予約票を持つ者のみ通し、必ずビジター用の名札をつけさせる。受付で来城者記録を作り、札と照合させてみては?」
「・・・んむ。いいとは思うが・・・」
「なんですの?」
「名札を付けるというのはなあ。それに使用人以外で登城する場合、そう例えばサレンドラ公爵閣下などはときどきいらしているが、毎回受付させるのか?」
「貴族当主と当主夫人のように定期的に登城が見込まれる者は、事前に申請して名札を作成しておけばよろしいのではなくて?それをつけて見せれば通れると。それか頻繁な登城があると認めた貴族には名札を与えておく。それ以外の者は受付ゲートで手続きを踏むというのはいかがです?」
「ふむ。それなら検討できそうだな・・・」
リイサは自分の袖に縫い付けられた美しいレースを見て、ふと思いついたことがあった。
「ドレスなどに名札をつけるのは意匠的に不快というのであれば、コサージュやブローチを名札にしてもよろしいかもしれませんわね。あっ!ブローチの意匠をいろいろ用意してそれに名札を嵌め込めるようにすれば、ドレスに合わせることができますわ」
リイサが止まらない。
思いつくまま、いろいろとあげていくのを見ていると、楽しそうでソルベートにも止められない。
「ねえ!ソルベート様はどう思われますかしら?」
途中からソルベートはもうリイサの言うとおりでいいなと思って、無心でくるくると変わる表情を眺めていた。
急に訊ねられて、珍しくポカンとした顔を見せる。
「ん?そうだな、いいと思う」
「ソルベート様にそう仰って頂けると自信が持てますわ」
「そうか?私が言わずとも皆リイサ嬢を認めている」
「他の方に言われるのと、ソルベート様に言われるのとでは嬉しさが全然違うんですもの」
ズキン!
ソルベートは胸に痛みが走って、思わず手で押さえる。鼓動が早まるが、しかしなぜか幸せな気持ちがソルベートを満たしていった。
リイサが恥ずかしそうに目を伏せる。
─愛おしいとはこういう気持ちなのだな─
心の底を切なく揺さぶられて苦しくさえ思う、ソルベートは彼女が婚約者で良かったと幸せな気持ちに浸っていた。
「ん?ああ、兄の忘れ物を届けに来たときに私を見かけたらしい」
「それだけですか?」
「ああ」
「一目惚れされたのですねえ」
リイサが悪戯っぽくニッと笑う。
「いや、別にそんなの嬉しくも何ともないぞ」
ないないと両手を大袈裟に振って否定するソルベートがかわいくて
「からかってごめんなさい」
にっこりしながらリイサが謝り、口角だけあげてソルベートも返したと思うと、真面目な顔で呟く。
「城に出入りする基準を見直さないと。
門番はいるが、これでは身内と嘯いた敵も簡単に入れてしまうな」
「そうですわね」
ふと、前世で祖母の見舞いに行った病院を思い出した。
見舞客用の受付があり、名前と来た時間と誰に用かを書くと、受付係が番号のついた札を渡し、自分が書いた欄にその番号を書き加える。院内では札を胸につけておかねばならず、訪問者だといつでも一目でわかるようになっていて、帰るときに札を返すと退出した時間を受付が書き加えるのだ。
「門番とは別に受付ゲートを作ってはいかがかしら?名札を作って、城で働く者はその者の名札をつけさせる。来城者は基本貴族かその家の者のはずですから先触れと一致している領主や当主からの書状がある者、また招待状や召喚状、来城予約票を持つ者のみ通し、必ずビジター用の名札をつけさせる。受付で来城者記録を作り、札と照合させてみては?」
「・・・んむ。いいとは思うが・・・」
「なんですの?」
「名札を付けるというのはなあ。それに使用人以外で登城する場合、そう例えばサレンドラ公爵閣下などはときどきいらしているが、毎回受付させるのか?」
「貴族当主と当主夫人のように定期的に登城が見込まれる者は、事前に申請して名札を作成しておけばよろしいのではなくて?それをつけて見せれば通れると。それか頻繁な登城があると認めた貴族には名札を与えておく。それ以外の者は受付ゲートで手続きを踏むというのはいかがです?」
「ふむ。それなら検討できそうだな・・・」
リイサは自分の袖に縫い付けられた美しいレースを見て、ふと思いついたことがあった。
「ドレスなどに名札をつけるのは意匠的に不快というのであれば、コサージュやブローチを名札にしてもよろしいかもしれませんわね。あっ!ブローチの意匠をいろいろ用意してそれに名札を嵌め込めるようにすれば、ドレスに合わせることができますわ」
リイサが止まらない。
思いつくまま、いろいろとあげていくのを見ていると、楽しそうでソルベートにも止められない。
「ねえ!ソルベート様はどう思われますかしら?」
途中からソルベートはもうリイサの言うとおりでいいなと思って、無心でくるくると変わる表情を眺めていた。
急に訊ねられて、珍しくポカンとした顔を見せる。
「ん?そうだな、いいと思う」
「ソルベート様にそう仰って頂けると自信が持てますわ」
「そうか?私が言わずとも皆リイサ嬢を認めている」
「他の方に言われるのと、ソルベート様に言われるのとでは嬉しさが全然違うんですもの」
ズキン!
ソルベートは胸に痛みが走って、思わず手で押さえる。鼓動が早まるが、しかしなぜか幸せな気持ちがソルベートを満たしていった。
リイサが恥ずかしそうに目を伏せる。
─愛おしいとはこういう気持ちなのだな─
心の底を切なく揺さぶられて苦しくさえ思う、ソルベートは彼女が婚約者で良かったと幸せな気持ちに浸っていた。
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