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外伝 リリアンジェラ
可愛いらしい王女はニヤリと笑う22 ─リリアンジェラ─
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その声の大きさに、リリアンジェラは心臓が止まってしまうかと思ったほどだ。
貴族令嬢は普通、このような場面に出くわすことはないから。
バクバクする心臓を落ち着かせようと、胸に手を当てて、心のなかで自分を落ち着かせる。
「陛下、リリアンジェラ王女が」
エルロールが国王の意識をこちらに引き戻すと、ハッとしたように厳しい表情を緩めて、父の顔でリリアンジェラに笑いかける。
「いきなり驚かせたなリリアンジェラ。怖がらなくとも大丈夫だぞ」
「は、はい」
成績優秀でそつなくいろいろこなす王女だが、法に触れた者の責任を問うため、厳しい態度を取る王の姿は、本で読んだことはあっても現実感が無かった。
想像以上の圧が込められ、自分に向けられたものでないとわかっていても、体の震えが止まらないことに気がつく。
─なんでもわかったつもりだった、なんでも私なら上手くやれるし立ち回れると思っていたけど─
本で読んだ知識だけしかない、偏った自分に今気づかされていた。
そして思い込みを取り払った目で、セラを、メンジャー侯爵夫妻を、副学院長を見ると。
今になって漸く、自分たちがたいしたこともないと思ってやったことが、国王の怒りを呼び覚ます大変なことだったと理解したようだ。
明らかに先程までとは違う顔色と震え。
副学院長は目が虚ろに彷徨っている。
「其方らが、軽く考えて仕出かしたことは、優秀な者を各学院の柵や爵位に関係なく見出すための文集編纂を貶めた。本来ならその称賛はチュリンヌ・テルア嬢が手にすべきだったと確認したが、不正な手段でそれを奪っただけでなく、彼女の作品まで汚したのだ。しかし、残念ながら法に照らし合わせると大した罪に問えんようだ。運が良かったな」
ホッと誰かか息を吐いた。
国王が目配せをすると扉が開けられて、一人の令嬢が招き入れられ、椅子に座る。
チュリンヌ・テルア伯爵令嬢だった。
そのあと、腕章をつけた文官が数名入室して、国王は言葉を続けた。
「まずメンジャー侯爵は公平公正であらねばならぬ貴族学院の教師を買収した罪により伯爵に降爵、それに伴い領地の一部を取り上げ、それはチュリンヌ・テルア嬢へ慰謝料の一部として移譲する。また侯爵家固有の現金資産より国が指定する金額を慰謝料として支払い、此度の謝罪文を公表することと、夫人とともに一年の勤労奉仕を命じる。そのあいだ領主として務めることが適わなくなるので、爵位は即刻次代に継承すること」
たいした罪に問えないと言ったその口は、安心させたのもつかの間、侯爵を叩き落とした。
「次にソミルス副学院長。其方は教職に相応しいとは言えぬ。学院より追放とし、今後教職に就くことは許さん。家庭教師であってもだ。爵位は返上せよ。今現在持つ侯爵家固有財産のうち国が指定する金額を、其方に作品を盗まれ、掴むはずだった栄誉を奪われたテルア嬢への慰謝料として支払うこと。文集編纂部には次年度の文集に謝罪文を載せること、ニ年の勤労奉仕を命じる」
侯爵家の財産と言われるものは、厳密には殆どが領地領民を守るべきものである。 そのため、国王は侯爵家固有財産のうちとメンジャー侯爵には指定したが、ソミルス副学院長は領地のない貴族なので、持てうる財産のうちと言い、それはメンジャー侯爵より大きく払う可能性があった。
「なっ!そんな、厳しすぎる」
うっかり口走ったソミルスに、国王は冷たい視線で射抜くように睨みつけた。
貴族令嬢は普通、このような場面に出くわすことはないから。
バクバクする心臓を落ち着かせようと、胸に手を当てて、心のなかで自分を落ち着かせる。
「陛下、リリアンジェラ王女が」
エルロールが国王の意識をこちらに引き戻すと、ハッとしたように厳しい表情を緩めて、父の顔でリリアンジェラに笑いかける。
「いきなり驚かせたなリリアンジェラ。怖がらなくとも大丈夫だぞ」
「は、はい」
成績優秀でそつなくいろいろこなす王女だが、法に触れた者の責任を問うため、厳しい態度を取る王の姿は、本で読んだことはあっても現実感が無かった。
想像以上の圧が込められ、自分に向けられたものでないとわかっていても、体の震えが止まらないことに気がつく。
─なんでもわかったつもりだった、なんでも私なら上手くやれるし立ち回れると思っていたけど─
本で読んだ知識だけしかない、偏った自分に今気づかされていた。
そして思い込みを取り払った目で、セラを、メンジャー侯爵夫妻を、副学院長を見ると。
今になって漸く、自分たちがたいしたこともないと思ってやったことが、国王の怒りを呼び覚ます大変なことだったと理解したようだ。
明らかに先程までとは違う顔色と震え。
副学院長は目が虚ろに彷徨っている。
「其方らが、軽く考えて仕出かしたことは、優秀な者を各学院の柵や爵位に関係なく見出すための文集編纂を貶めた。本来ならその称賛はチュリンヌ・テルア嬢が手にすべきだったと確認したが、不正な手段でそれを奪っただけでなく、彼女の作品まで汚したのだ。しかし、残念ながら法に照らし合わせると大した罪に問えんようだ。運が良かったな」
ホッと誰かか息を吐いた。
国王が目配せをすると扉が開けられて、一人の令嬢が招き入れられ、椅子に座る。
チュリンヌ・テルア伯爵令嬢だった。
そのあと、腕章をつけた文官が数名入室して、国王は言葉を続けた。
「まずメンジャー侯爵は公平公正であらねばならぬ貴族学院の教師を買収した罪により伯爵に降爵、それに伴い領地の一部を取り上げ、それはチュリンヌ・テルア嬢へ慰謝料の一部として移譲する。また侯爵家固有の現金資産より国が指定する金額を慰謝料として支払い、此度の謝罪文を公表することと、夫人とともに一年の勤労奉仕を命じる。そのあいだ領主として務めることが適わなくなるので、爵位は即刻次代に継承すること」
たいした罪に問えないと言ったその口は、安心させたのもつかの間、侯爵を叩き落とした。
「次にソミルス副学院長。其方は教職に相応しいとは言えぬ。学院より追放とし、今後教職に就くことは許さん。家庭教師であってもだ。爵位は返上せよ。今現在持つ侯爵家固有財産のうち国が指定する金額を、其方に作品を盗まれ、掴むはずだった栄誉を奪われたテルア嬢への慰謝料として支払うこと。文集編纂部には次年度の文集に謝罪文を載せること、ニ年の勤労奉仕を命じる」
侯爵家の財産と言われるものは、厳密には殆どが領地領民を守るべきものである。 そのため、国王は侯爵家固有財産のうちとメンジャー侯爵には指定したが、ソミルス副学院長は領地のない貴族なので、持てうる財産のうちと言い、それはメンジャー侯爵より大きく払う可能性があった。
「なっ!そんな、厳しすぎる」
うっかり口走ったソミルスに、国王は冷たい視線で射抜くように睨みつけた。
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