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外伝 リリアンジェラ

可愛いらしい王女はニヤリと笑う8 ─リリアンジェラ─

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「リリ様、双子殿下に厳しすぎませんかぁ」

 ふわぁと出かかった欠伸を飲み込みながら、カテナが訊ねると、決然とした顔でリリアンジェラは首を横に振る。

「とんでもない!足りないくらいよ、この前の試験結果見たでしょ?そういえばカティももう少し頑張ったほうがいいわ!私が見てあげるから一緒に勉強しましょ!」
「えっ⁉」

 ヤブから蛇を突いてしまったカテナは、ぶんぶんと首を振って固辞しまくった。

「ぷっ」
「え?ああ、冗談ですか?も~リリ様のって全然笑えないんですけど」
「同じ言葉でも、その場の雰囲気や、相手の反応に寄って冗談で流したり、真面目な話として対応したりできるように練習しておかないとね」

 十ニ歳の令嬢の言うこととは思えないが、リリアンジェラにすっかり慣れているカテナはハイハイと聞き、肩を竦めた。

「私には難しすぎーっ」




 双子王子をせめて20番以内になるようにとしごきながら、リリアンジェラは王女の庭で茶会を開催するようになっていた。
いずれ兄たちや自分も婚約しなくてはならない。王族貴族の避けられない宿命だ。
 恋愛小説をたくさん読んだリリアンジェラは、「真実の愛」とか「浮気」「不貞」という言葉に敏感だ。忌むべきものと感じているのがリリアンジェラらしいところ。

「ねえカティ、エル兄様は想い合う方と出逢って結婚したいそうなのよ。どう思う?」
「えー、エルロール殿下はロマンチストなんですね」
「ロマンチスト?王族にはそんな言葉は不要よ。でも愛を捧げる令嬢を見つけるまではって、縁談も絶対嫌だって引かないらしいわ」
「うわぁ・・・。でも、エルロール殿下なら出逢ったら浮気なんかしなさそう」
「まあ、そうね。きっと真面目に一途にお相手を愛するとは思うけど。王族の義務と責任を誰より理解されているから、意外と見合いの相手でも誠実に愛されると思うのよね」

 エルロールならそうだろうなと、リリアンジェラとカテナ、女官たちは優しく慈悲深く、真面目な第一王子を思い浮かべていた。
 ふと、リリアンジェラの脳裡に何かがかすめる。

「義務と責任を重く受け止めているエル兄様がそこまで言うのだから、それだけが譲れないこと、ということかしらね」

 いつでも国と国民のためと、自分の希望は後回しにし、自分に割り当てられた予算さえ民の金だと使いたがらない。スキップして卒業できるほど勉強し、王太子教育と執務もこなしている素晴らしい兄王子のただ唯一の望みであり、夢。
 俯き考え込んでいた王女が、顔を上げたと思うと一際大きな声で言った。

「でもやっぱり馬鹿らしいわそんな夢。王族には相応しくない!権力を安定させ、利益を生む婚姻こそが王族の結婚なのよ!でも、それなら利益となる令嬢と出逢えればいいのよ!そうだわ」

 可愛いのは見た目だけだと陰口を言われる自分にも、分け隔てのない兄王子がリリアンジェラは大好きだ。その夢を叶え、皆が幸せになる相手を探し出せばいいのだと王女は閃いた。

「カティ、伯爵家以上で兄上と釣り合う年齢の令嬢を調べてくれないかしら?」

 幼馴染の伯爵令嬢は、王女の腹の中を理解してニッと笑う。

「お任せを!リリ姫様」
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