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外伝 リリアンジェラ
可愛いらしい王女はニヤリと笑う5 ─リリアンジェラ─
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さて。
そんな早熟過ぎる王女を心から心配していた母パリス王妃は、乳母選びを失敗したと密かに後悔していた。
乳母モリーン・テルドはパリスの女官経験者だったが、子を亡くした悲しみを夫が愛人で紛らわし、そちらに子が生まれたことで夫と疎遠になってしまった。
家に居づらくなり女官に戻りたがっていると耳にして気の毒に思い、侍女として呼び戻したのだ。
偶々マイラ・ソグが双子王子抱えていて、リリアンジェラを委ねることができなかったため、モリーンに任せたのだが。
パリスの誤算は、女官だった頃のモリーンの快活さはこどもを亡くした恐怖により失われており、リリアンジェラのちょっとした言動に必要以上に怯え、守るためとはいえ、王女の生活をがんじがらめにしたことだ。
「散歩はよろしいですが、花に触れてはなりません。ああ、姫様なりませんわ、御手が汚れます!水はお部屋で用意したもの以外に触れてはなりません!」
なりません!なりません!なりません!
叫ぶようにくり返すモリーンに首を傾げる女官も増え始めたが、幸い、リリアンジェラは本さえ与えられていれば不満を覚えることがなかった。
しかし優秀さ故か、偏った生活の中でどんどんと頭でっかちになり、多少なりともあったはずのこどもらしさが失われていく。
それに気づいたパリスが、年若い女官フューリーとデリアを新たに付けて、多少行儀が悪くてもリリアンジェラと楽しく遊ぶようにと言いつけたのだが既に手遅れであった。
大人ではダメかと、次に同い年のこどもをリリアンジェラと遊ばせることにする。
しかし乳母モリーンは自分の身辺から王女以外のこどもを徹底的に排除していた。
まあ、誰だって妾の子など身近に置きたくはないだろうが。
それにしても普通は、王族の最初の遊び相手は乳母の子やその親族の子が多いが、モリーンには該当する者が誰もいないので、パリスはマイラ・ソグに頼み込んだ。
「こどもらしく、元気いっぱいの令嬢に心当たりはないかしら?」
マイラが姪のラミル伯爵令嬢カテナを連れて来たのは、その2日後。
カテナはリリアンジェラと同い年で、パリスの願いどおり物怖じしない元気いっぱいの、でもマナーは弁えた令嬢だった。
「ラミルはくしゃくけのカテナともうしましゅ」
舌足らずな口調が一際幼さを強調するも、好奇心の強そうなブラウンの瞳の、同い年の初めての友だち。
カテナはお勉強はそこそこだったが、頭の回転は早かった。自分の役割をこどもながらに理解したカテナが現れたことで、リリアンジェラは葉の汁や花ふんで手を汚しながら摘んだ花でかんむりを作ったり、絵の具を飛ばしながら絵を描いたり、人生で初めてのおままごとを庭で楽しんだりするようになったのだ!
「アハハ!ダメよカティ、ドレスが汚れちゃったわ」
無造作に摘んでまとめた花束の茎から汁が垂れて、リリアンジェラのドレスにいくつもの染みが着いている。
モリーンなら決して許さない。
そもそも土の上に座り込んで花を摘むなど、決して許さないのだが、フューリーたちは王妃の命令を盾にこどもたちの遊びを守り抜いた。
フューリーとデリアが、リリアンジェラが大きな声をあげて屈託なく笑うのを初めて見たとパリスに報告すると、王妃は自分が決めたことを覆す。
情に流され、決断が遅すぎたと後悔した。
「モリーン・テルドを呼びなさい」
モリーンは、パリス王妃にフューリーたちを外すよう、そして行儀の悪いこどもを王女から遠ざけるよう進言するつもりだった。
ちょうどよく王妃から呼ばれたのはきっと、王妃自身が呼んだ女官やこどものせいで王女の言葉遣いが乱れたことに気づいたからだろうと。
やっぱりモリーンに任せなくてはダメだ!
そう言われると信じていた。
そんな早熟過ぎる王女を心から心配していた母パリス王妃は、乳母選びを失敗したと密かに後悔していた。
乳母モリーン・テルドはパリスの女官経験者だったが、子を亡くした悲しみを夫が愛人で紛らわし、そちらに子が生まれたことで夫と疎遠になってしまった。
家に居づらくなり女官に戻りたがっていると耳にして気の毒に思い、侍女として呼び戻したのだ。
偶々マイラ・ソグが双子王子抱えていて、リリアンジェラを委ねることができなかったため、モリーンに任せたのだが。
パリスの誤算は、女官だった頃のモリーンの快活さはこどもを亡くした恐怖により失われており、リリアンジェラのちょっとした言動に必要以上に怯え、守るためとはいえ、王女の生活をがんじがらめにしたことだ。
「散歩はよろしいですが、花に触れてはなりません。ああ、姫様なりませんわ、御手が汚れます!水はお部屋で用意したもの以外に触れてはなりません!」
なりません!なりません!なりません!
叫ぶようにくり返すモリーンに首を傾げる女官も増え始めたが、幸い、リリアンジェラは本さえ与えられていれば不満を覚えることがなかった。
しかし優秀さ故か、偏った生活の中でどんどんと頭でっかちになり、多少なりともあったはずのこどもらしさが失われていく。
それに気づいたパリスが、年若い女官フューリーとデリアを新たに付けて、多少行儀が悪くてもリリアンジェラと楽しく遊ぶようにと言いつけたのだが既に手遅れであった。
大人ではダメかと、次に同い年のこどもをリリアンジェラと遊ばせることにする。
しかし乳母モリーンは自分の身辺から王女以外のこどもを徹底的に排除していた。
まあ、誰だって妾の子など身近に置きたくはないだろうが。
それにしても普通は、王族の最初の遊び相手は乳母の子やその親族の子が多いが、モリーンには該当する者が誰もいないので、パリスはマイラ・ソグに頼み込んだ。
「こどもらしく、元気いっぱいの令嬢に心当たりはないかしら?」
マイラが姪のラミル伯爵令嬢カテナを連れて来たのは、その2日後。
カテナはリリアンジェラと同い年で、パリスの願いどおり物怖じしない元気いっぱいの、でもマナーは弁えた令嬢だった。
「ラミルはくしゃくけのカテナともうしましゅ」
舌足らずな口調が一際幼さを強調するも、好奇心の強そうなブラウンの瞳の、同い年の初めての友だち。
カテナはお勉強はそこそこだったが、頭の回転は早かった。自分の役割をこどもながらに理解したカテナが現れたことで、リリアンジェラは葉の汁や花ふんで手を汚しながら摘んだ花でかんむりを作ったり、絵の具を飛ばしながら絵を描いたり、人生で初めてのおままごとを庭で楽しんだりするようになったのだ!
「アハハ!ダメよカティ、ドレスが汚れちゃったわ」
無造作に摘んでまとめた花束の茎から汁が垂れて、リリアンジェラのドレスにいくつもの染みが着いている。
モリーンなら決して許さない。
そもそも土の上に座り込んで花を摘むなど、決して許さないのだが、フューリーたちは王妃の命令を盾にこどもたちの遊びを守り抜いた。
フューリーとデリアが、リリアンジェラが大きな声をあげて屈託なく笑うのを初めて見たとパリスに報告すると、王妃は自分が決めたことを覆す。
情に流され、決断が遅すぎたと後悔した。
「モリーン・テルドを呼びなさい」
モリーンは、パリス王妃にフューリーたちを外すよう、そして行儀の悪いこどもを王女から遠ざけるよう進言するつもりだった。
ちょうどよく王妃から呼ばれたのはきっと、王妃自身が呼んだ女官やこどものせいで王女の言葉遣いが乱れたことに気づいたからだろうと。
やっぱりモリーンに任せなくてはダメだ!
そう言われると信じていた。
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