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外伝 リリアンジェラ

可愛いらしい王女はニヤリと笑う4 ─リリアンジェラ─

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昨日更新されていなかったことに気づき、よく見たら予約投稿日がなぜか6月になっておりました。
申し訳ありませんでした(_ _;)



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 リリアンジェラ王女は、たぶん頭が良すぎたのだろう。

 あれほどたくさんの書物を読み、活字中毒と囁かれながら、一番好きな勉強は数学である。
実は割り切れないものは好きじゃない。
理論的なことが好きである。
ざまぁな恋愛小説など、リリアンジェラの対極にあるものなのだが、理解できないからこそ学ぼうと読んでいた。
様々な勉強を重ねるうちに、何につけ効率を上げるためには、数字で表すとわかりやすいと知ったし、金を増やすにしても帳簿は数字の塊だ。

「小説もいいけど数学が大切だわ」

 外交を担う王族は語学も学ばされるが、リリアンジェラは兄妹の中でもっとも熱心であった。語学を学べばさらに世界が広がると気がついたから。

 学問ではエルロールか、四つ下のリリアンジェラかと言われるほどの優秀さ。
ということはつまり、リリアンジェラこそが四人の王子王女の中で優秀だということ。
 ただ優秀なら王太子になれるわけではない。まだ幼く成長過程とは言え、リリアンジェラには大きな欠点があった。
 大好きな効率化である。
 こどものうちからあまりに合理的過ぎて、人間味に欠けるところがあると云われていた。何でも出来る人間ばかりではない。不器用な者がいたり、不出来な者がいたりするのが世の中なのだ。
 切り捨てるばかりのリリアンジェラは、このまま変わることがなければ国の統治は難しいと、ちょっと真面目すぎるが、優秀で人間味溢れるエルロールが王太子候補と見做されていた。

 権力は好きだが、別に女王になりたいとは思っていないリリアンジェラは、どーぞどーぞと長兄に道を譲る。

「いや最高権力なのにいいのか?」とカルロイドに訊ねられたが、国を背負うほどの権力が欲しいわけではないとちいさな王女はニヤリと笑った。

「私が権力が好きなのは、国を治めたいからではありませんわ。好きなことをやり続けたいのです。本を読み、学ぶ。誰にも邪魔されたくないから権力を手にしたい」
「え?そんなの権力なくたってできるだろう?」
「カル兄様、自分専用の図書館を建てさせたり、国交のない国から密かに禁書本を取り寄せたりするのは相当な力がなければできませんわ」
「む、ま、まあそうかもしれんが。リリおまえ、そんなことやりたいのか?」
「はいっ!そのへんの貴族如きじゃできないと思いませんか?王族ってやっぱりすごいと思いますわ!」

 リリアンジェラの口元がむにむにと動き、悪そうに笑んだ。

「ん?リリ、国交のない国からって、それってみつゅぅっ!」

 カルロイドの口を白魚のような細い手が塞ぐ。

「しっ!ダメよカル兄様ってばお止めになって」
「だ、だって」
「しーっ!いいことカル兄様!外交が上手くいっている国だけに囲まれているのではないのよ!関係の良くない国の資料となるものこそ集めて研究するべきだわ」
「いや、だけど今禁書って」
「私はあらゆる方面からたっくさんの資料を集めて国の役に立ちたいですわ。でもカル兄様が仰るように、今の時点ではアルストロにあってはいけないものもあると理解しております。だからこそ、王女である私専用の図書館を作り、他の者の目に触れないよう保管したいのですっ!」

 エヘンと言いそうなくらい胸をそらしたリリアンジェラが、珍しく幼く見えた(いや本当に幼いのだが)カルロイドである。
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