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外伝 リリアンジェラ

可愛いらしい王女はニヤリと笑う1 ─リリアンジェラ─

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 アルストロ王国の国王夫妻には、三人の王子と一人の王女がいた。
エルロール、カルロイド、メルケルト、リリアンジェラである。

 リリアンジェラは紅一点のそれは可愛らしい姫様だったので、家族中、いや国中から愛され、普通なら傲慢なり我儘なりになってもおかしくなかったが、リリアンジェラの言動はそれとはほど遠いものであった。

 三歳で文字が読めるようになると、自分で本を読みたがるようになる。

「なんて優秀な王女様なのだ!」

 侍女や家庭教師たちは大喜びで国王夫妻に報告したが、どれほど褒められてもリリアンジェラは「ふーん」としか言わなかった。

 リリアンジェラは、まわりの声から自分がかなり早くから文字が読めるようになったことを知り、自身が優れたこどもなのだと理解した。だから褒められるなど当たり前で、いちいち喜ぶほどのことではなかったのだ。
 なんて可愛げのないガ・・・いや、利発な王女なのだろうと、城の中で密かに有名になる。

 リリアンジェラがその容姿と違い、可愛げなく育ったのは、三人の兄と乳母の影響も大きかった。

 三人の兄のうち、長兄は見目麗しく優秀で優しいエルロール。
次兄と三兄は双子、容姿はいいがちょっとちゃらんぽらんで、勉強が嫌い。
但し、エルロール兄にはない面白さが双子にはあり、遊ぶには楽しい相手である。
そして、悪いことはだいたいこの双子たちから教えられた。

 例えば、どの女官が噂好きか。誰が誰を嫌っているか、誰が悪口を言うか。
手癖が悪いとか、不平不満が多いのは誰か。

 双子たちはどうやら腹黒いというやつらしく、気に入らない女官を辞めさせるために人の噂を利用したり、女官に苛められたふりをしたりと散々なことをしていた。
ただ、半分以上は母である王妃に見破られていたが、それを面白おかしく妹に話して聞かせるのだ。

 もともと利口なリリアンジェラは、兄たちの悪戯というにはあくどい様々を見て、やっていいこと悪いこと、ぎりぎり許される、許されないを学んでいった。

 それに対し、長兄エルロールは純粋で生真面目で、いつも弱い者の立場に立とうと考える。正統派の王族らしさをリリアンジェラに教える善き兄であった。


「白と黒ってこういうのを言うのかしらね?」


 三歳の王女に聞かれた女官は目を白黒させながらも、どうせ誤魔化しても無駄だと諦め「まあある意味では」とだけ答えた。
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