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第3話 空回り
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「エルロール殿下、メンジャー侯爵家のご令嬢セラ様から先触れが届いておりますが」
メッセンジャーが顔を顰めたテューダーに書状を渡すと、エルロールの代わりに一瞥する。
「ああ、またか!」
エルロールは自らメッセンジャーに告げた。
「今後、彼女からのはすべて漏れなく断ってくれ。使いにはそうだな、今から外出だとでも言っておいてくれ」
「畏まりました」
「それでいいなテュー?セラ嬢はしつこい、正直もううんざりだよ。昨日の茶会は呆れたものだった!私なら恥ずかしくて顔を出せなくなるんだがな」
「そうだなぁ、あれは酷かった」
たくさんの令嬢を招待していたにも関わらず、庭園の一番奥のガゼボに設えた小さなティーテーブルに、セラとエルロールだけの席を用意し、他の令嬢たちを排除して親しげな二人の姿を見せつけようとしたのだ。
その席に案内されたエルロールはすぐその意図に気づいたが、その場で指摘して断るわけにもいかず、早めに離席することにしてとりあえず一口めの茶を飲んだ。
「さもマナーができているような顔で茶を淹れたが、とにかく渋くて吐き出さずにいるのが大変だった」
「ああ、本当に苦虫噛んだような顔をしていたよ」
「え!本当か?顔に出さないようにしていたはずだったんだがなあ」
エルロールが顔をくしゃりと顰めて首を傾げる。
「いや。だってあの後、あのセラ嬢が一言もエルに話しかけられなかったのは、そんな顔していたからだよ」
王家のすぐ下は公爵となるが、いくつかある公爵家には丁度良い年齢の令嬢がいない。そうなると国内なら侯爵がもっとも爵位が高い貴族家だ。
「年頃の令嬢がいる侯爵家の中でも家格が高いほうだから、自分で決まりくらいに思い込んでいるんじゃないか」
「そうかもしれないな。でも私はセラ嬢は絶対にお断りだ」
エルロールははっきり好き嫌いを言わないようにしているのだが、テューダーとふたりのときは別。
「参考までに聞きたいんだが、具体的にどういうところが嫌なんだ」
「何もかもだ。あのけばけばしい化粧もぷんぷん臭う香水も、びらびらしたドレスの趣味もだが、何より押し付けがましくて既に婚約者になったみたいな態度が許せない!」
その気持ちが痛いほどわかってしまうテューダーは、セラの顔を思い出すと指先でこめかみを揉みほぐしながらため息をついた。
そんなことを言われているとは知らないセラはその頃、行くと言えばさすがに会ってくれるだろうと昨日の挽回のために城へ行く仕度をしているところだった。
「セラ様、こちらをお着けになりますか」
エルロールの美しい緑の瞳と同じエメラルドのネックレスを、首元にあてがって小さく頷く。
「ええ、エルロール様の色ね」
ふふっと笑って、侍女に首に鎖をまわさせた。
「そろそろ馬車の用意を」
言いかけたセラに使いが戻ってきた。
「セラお嬢様、エルロール殿下から」
「今すぐ行くわ」
「いえ、実はこれから外出なさるそうで」
首を動かすことなく、セラはその目だけでギロっと使いを睨む。
「なんですって?」
とてつもなく低い声に使いは震えた。
「は、はあ、外出なさるので面会はできないと」
「なんですってっ!」
「は、はあ」
激昂したセラは、手元にあった香水瓶を使いに投げつけてやる。
ガシャっと瓶が割れ、甘い花の香が部屋中に漂い充満するが、セラの怒りは癒やされるどころか高まるばかり。
「わたくしが行くとお伝えしたの?ちゃんと言ったのかと聞いてるのよっ!」
「い、言いました」
「だれに?」
「表門の受付です。書状を渡したときにそう伝えるよう頼みましたが、外出ではしかたありませんので」
「受付なんかじゃ適当に扱われるに決まってるじゃない、このバカっ!プライベートな付き合いの者が使える門があるでしょ、まさか知らないわけじゃないわよね?」
外出なんてどうせ言い訳なのに、それでおめおめと帰ってきた使用人に怒り心頭のセラは青筋を立てた。
「この役立たずーっ!」
今度は化粧品の瓶を使いに投げつけた。
メッセンジャーが顔を顰めたテューダーに書状を渡すと、エルロールの代わりに一瞥する。
「ああ、またか!」
エルロールは自らメッセンジャーに告げた。
「今後、彼女からのはすべて漏れなく断ってくれ。使いにはそうだな、今から外出だとでも言っておいてくれ」
「畏まりました」
「それでいいなテュー?セラ嬢はしつこい、正直もううんざりだよ。昨日の茶会は呆れたものだった!私なら恥ずかしくて顔を出せなくなるんだがな」
「そうだなぁ、あれは酷かった」
たくさんの令嬢を招待していたにも関わらず、庭園の一番奥のガゼボに設えた小さなティーテーブルに、セラとエルロールだけの席を用意し、他の令嬢たちを排除して親しげな二人の姿を見せつけようとしたのだ。
その席に案内されたエルロールはすぐその意図に気づいたが、その場で指摘して断るわけにもいかず、早めに離席することにしてとりあえず一口めの茶を飲んだ。
「さもマナーができているような顔で茶を淹れたが、とにかく渋くて吐き出さずにいるのが大変だった」
「ああ、本当に苦虫噛んだような顔をしていたよ」
「え!本当か?顔に出さないようにしていたはずだったんだがなあ」
エルロールが顔をくしゃりと顰めて首を傾げる。
「いや。だってあの後、あのセラ嬢が一言もエルに話しかけられなかったのは、そんな顔していたからだよ」
王家のすぐ下は公爵となるが、いくつかある公爵家には丁度良い年齢の令嬢がいない。そうなると国内なら侯爵がもっとも爵位が高い貴族家だ。
「年頃の令嬢がいる侯爵家の中でも家格が高いほうだから、自分で決まりくらいに思い込んでいるんじゃないか」
「そうかもしれないな。でも私はセラ嬢は絶対にお断りだ」
エルロールははっきり好き嫌いを言わないようにしているのだが、テューダーとふたりのときは別。
「参考までに聞きたいんだが、具体的にどういうところが嫌なんだ」
「何もかもだ。あのけばけばしい化粧もぷんぷん臭う香水も、びらびらしたドレスの趣味もだが、何より押し付けがましくて既に婚約者になったみたいな態度が許せない!」
その気持ちが痛いほどわかってしまうテューダーは、セラの顔を思い出すと指先でこめかみを揉みほぐしながらため息をついた。
そんなことを言われているとは知らないセラはその頃、行くと言えばさすがに会ってくれるだろうと昨日の挽回のために城へ行く仕度をしているところだった。
「セラ様、こちらをお着けになりますか」
エルロールの美しい緑の瞳と同じエメラルドのネックレスを、首元にあてがって小さく頷く。
「ええ、エルロール様の色ね」
ふふっと笑って、侍女に首に鎖をまわさせた。
「そろそろ馬車の用意を」
言いかけたセラに使いが戻ってきた。
「セラお嬢様、エルロール殿下から」
「今すぐ行くわ」
「いえ、実はこれから外出なさるそうで」
首を動かすことなく、セラはその目だけでギロっと使いを睨む。
「なんですって?」
とてつもなく低い声に使いは震えた。
「は、はあ、外出なさるので面会はできないと」
「なんですってっ!」
「は、はあ」
激昂したセラは、手元にあった香水瓶を使いに投げつけてやる。
ガシャっと瓶が割れ、甘い花の香が部屋中に漂い充満するが、セラの怒りは癒やされるどころか高まるばかり。
「わたくしが行くとお伝えしたの?ちゃんと言ったのかと聞いてるのよっ!」
「い、言いました」
「だれに?」
「表門の受付です。書状を渡したときにそう伝えるよう頼みましたが、外出ではしかたありませんので」
「受付なんかじゃ適当に扱われるに決まってるじゃない、このバカっ!プライベートな付き合いの者が使える門があるでしょ、まさか知らないわけじゃないわよね?」
外出なんてどうせ言い訳なのに、それでおめおめと帰ってきた使用人に怒り心頭のセラは青筋を立てた。
「この役立たずーっ!」
今度は化粧品の瓶を使いに投げつけた。
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