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第54話 見守られる

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 その熱さには違いがあるにしても互いに想い合っていたことを知り、しあわせに包まれたエルロールとメリンダがガゼボに戻ってくると、何食わぬ顔をした王妃とキナ夫人、ミルラがにっこにこで盛り上がっていた。

「楽しそうですね」

 エルロールがそれは幸せそうに笑いかけると、メリンダもその視線を受け止めて微笑み返している。

 ─熱っ!さっきまでの唐変木ぶりはどこにいったのかしら!でもいい感じだわ、とってもいいっ!─

 パリスはにやけた。
 ふと見るとキナはミルラと手を繋ぎ、耳元でこそこそと内緒話をしている。

 ─キナ様とっても楽しそうだわ。娘って・・・いいわねえ─

 いやいや、パリスにも娘はいる。
 キレッキレのしっかり者、リリアンジェラだ。

 ─リリアンジェラと恋バナ?うーん、どちらかというと腹黒い策略って感じだわね─

 リリアンジェラなら純粋な恋より、自分に役立つ資産や力のある令息を夫にし、ビシビシと尻に敷くことを選ぶだろう。
ロマンスより権力、愛より金。
ある意味。四兄弟の中でもっとも王に馴染みやすい性格かもしれないが、あまりに合理的過ぎることが適性を欠くと見られていた。

 そんなリリアンジェラも、エルロールの求める愛を否定することはない。
自分にはいらないが、兄には空気や水と同じくらい必要なものだと理解していたから。




「庭園でエル兄様が令嬢をエスコートして歩いていたそうよ、メル兄様カル兄様!」

 耳聡い女官の噂を聞くと、チェスを楽しんでいた双子の兄に報せに行く。

「嘘っ!」

 兄妹は顔を見合わせてにんまりすると、チェスを放り出して庭を覗きにいった。

「見えたか?」
「うん、母上と一緒にいるな」
「ええ?あんな令嬢いらしたかしら?わたくしお会いしたことがないわ」
「あれってさ、オルサガ侯爵夫人じゃないか?」

 カルロイドは記憶を絞り出して続けた。

「オルサガ家は確か後継者が生まれなくていろいろと噂があったんだよ」
「噂ってなんですの?」
「ん、あー、まあ、なんとかこどもができないか侯爵がやらかしちゃったみたいな」
「妾でも持たれたのかしら?」
「リリ~!一応第二夫人と呼ばれてたんだぞ」
「そんな言葉で誤魔化すのはお止めになって。正妻でなければ妾に違いございませんでしょ」

 妹に、そういう言葉を使いたくなくて誤魔化そうとしたカルロイドだったが、リリアンジェラの方がバッサリと言ってのけた。

「ということは養子でも取られたのかしら?」
「「「あっ!」」」

 エルロールが隣りに座った令嬢と見つめ合っている!

「「「うわあ、とろけそう~」」」

 大好きな長兄に、とうとう幸せがやってきたことを知った弟妹たちは心から喜んでいた。



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いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本編は次話が最終回となります。
最後までよろしくお願い致します。
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