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第47話 冷えた関係
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ルミアス・シルア男爵令息は、メリンダ・イブール男爵令嬢に何度目かの婚約を申し込んだ。
優秀な文官の自分が婿に入ってやると言えば(そのうち断りきれなくなって)有り難く頷く日も来るだろうと軽く考えていたが、今回はどういう訳かオルサガ侯爵が、姪メリンダの婚約は既に決めていると断りの書状を送りつけてきた。
しかし、いつものイブールの使用人に探りを入れるとまだ婚約者が決まったとは公表されていないらしい。
「どういうことだ?断るための嘘か?」
口に出してみると、どうにも腹が立ってきておさまらない。
オルサガ侯爵に一方的にヤラれてムカつくったらないのだが、相手が侯爵では流石に楯突くこともできず。
諦めがつかずにメリンダが行きそうなところに顔を出すと、この前会ったヨルス男爵と頻繁に出くわすようになった。いつも必ず腰巾着のような男がくっついていて、最近ルミアスが孤児院に入れなくなったのは絶対にコイツからの嫌がらせに違いないと思っている。
孤児院に入ろうとすると、護衛のような屈強そうな男が「入れません」と断ってくるのだ。たかが孤児院のくせに護衛?ありえない!誰かの差し金としか思えない!
ヨルスは孤児院でメリンダに会うだけではなく、一緒に孤児院から出かけるところを見かけたりもした。声をかけようとするといつも邪魔が入り、逃してしまうことが続いている。
イブール家はガードが固く、金を握らせた使用人の一人が婚約の有無だけならと教えてくれるのだが、顔は見ることも叶わないまま。
「畜生、メリンダは私のものなのに生意気な!あ、まさかオルサガ侯爵が決めている婚約者ってヨルスじゃ」
そう言いかけて、首を振る。
「いや、違うな。男爵の後継者だから嫁にはやらんだろう。ということはあのいけすかない野郎も断られるのだな。くっくっ」
ルミアスは城のパーティーでエルロール王子を見かけたことがあったのだが、市井に下りるときは髪を染めているので、エルロールが王子だとは気づいていなかった。
自分と同じように、ヨルス男爵もオルサガ侯爵から断られるしかないのだと思うと、何も知らずにメリンダを追いかけているヨルス男爵が滑稽で、おかしくてたまらなくなる。
悔し紛れに呟いた。
「ざまあみろだな」
ルミアスが虚しい妄想に笑い転げていた頃、アラン・オルサガ侯爵はメリンダとミルラの姉妹を養女にするための申請書類を作成していた。
子供ができないのはキナ夫人のせいだろうと思い込み、キナの反対を押し切り、許されていても良く言われることはない第二夫人イレナを娶ったが、とうとう懐妊することはないままこどもは諦めざるを得なくなった。
キナとの諍いのもとだったイレナは、侯爵夫人となる夢も潰えてとっとと出て行き、後にはただ気まずい夫婦の残骸が遺されたのだ。
「結局自分に問題があったということだ。キナは愚かな私を許さないだろう・・・。しかしメリンダたちのことは可愛がっていたから、娘ができたら少しは気持ちが解れるといいが」
養女の書類にはキナ夫人のサインも必要だ。それ以前に、いくら可愛がっていた姪と言え、何の相談もなく養女にするなどさすがにありえない。
アランは執事を先触れに出したあと重い足を引き摺り、キナの部屋へ向かった。
「侯爵様、如何されました?」
冷たいキナの声が部屋の奥から響く。
「キナ・・・、なぜ私を侯爵様などと」
名を呼ばなくなってからどれほど経つだろう。侯爵様と冷たく言われる度にアランの心に影が広がるばかりだ。
「相談がある、王妃様からの」
いつもは何を言っても侯爵様のご自由にとしか言わないキナが、振り向いた。
優秀な文官の自分が婿に入ってやると言えば(そのうち断りきれなくなって)有り難く頷く日も来るだろうと軽く考えていたが、今回はどういう訳かオルサガ侯爵が、姪メリンダの婚約は既に決めていると断りの書状を送りつけてきた。
しかし、いつものイブールの使用人に探りを入れるとまだ婚約者が決まったとは公表されていないらしい。
「どういうことだ?断るための嘘か?」
口に出してみると、どうにも腹が立ってきておさまらない。
オルサガ侯爵に一方的にヤラれてムカつくったらないのだが、相手が侯爵では流石に楯突くこともできず。
諦めがつかずにメリンダが行きそうなところに顔を出すと、この前会ったヨルス男爵と頻繁に出くわすようになった。いつも必ず腰巾着のような男がくっついていて、最近ルミアスが孤児院に入れなくなったのは絶対にコイツからの嫌がらせに違いないと思っている。
孤児院に入ろうとすると、護衛のような屈強そうな男が「入れません」と断ってくるのだ。たかが孤児院のくせに護衛?ありえない!誰かの差し金としか思えない!
ヨルスは孤児院でメリンダに会うだけではなく、一緒に孤児院から出かけるところを見かけたりもした。声をかけようとするといつも邪魔が入り、逃してしまうことが続いている。
イブール家はガードが固く、金を握らせた使用人の一人が婚約の有無だけならと教えてくれるのだが、顔は見ることも叶わないまま。
「畜生、メリンダは私のものなのに生意気な!あ、まさかオルサガ侯爵が決めている婚約者ってヨルスじゃ」
そう言いかけて、首を振る。
「いや、違うな。男爵の後継者だから嫁にはやらんだろう。ということはあのいけすかない野郎も断られるのだな。くっくっ」
ルミアスは城のパーティーでエルロール王子を見かけたことがあったのだが、市井に下りるときは髪を染めているので、エルロールが王子だとは気づいていなかった。
自分と同じように、ヨルス男爵もオルサガ侯爵から断られるしかないのだと思うと、何も知らずにメリンダを追いかけているヨルス男爵が滑稽で、おかしくてたまらなくなる。
悔し紛れに呟いた。
「ざまあみろだな」
ルミアスが虚しい妄想に笑い転げていた頃、アラン・オルサガ侯爵はメリンダとミルラの姉妹を養女にするための申請書類を作成していた。
子供ができないのはキナ夫人のせいだろうと思い込み、キナの反対を押し切り、許されていても良く言われることはない第二夫人イレナを娶ったが、とうとう懐妊することはないままこどもは諦めざるを得なくなった。
キナとの諍いのもとだったイレナは、侯爵夫人となる夢も潰えてとっとと出て行き、後にはただ気まずい夫婦の残骸が遺されたのだ。
「結局自分に問題があったということだ。キナは愚かな私を許さないだろう・・・。しかしメリンダたちのことは可愛がっていたから、娘ができたら少しは気持ちが解れるといいが」
養女の書類にはキナ夫人のサインも必要だ。それ以前に、いくら可愛がっていた姪と言え、何の相談もなく養女にするなどさすがにありえない。
アランは執事を先触れに出したあと重い足を引き摺り、キナの部屋へ向かった。
「侯爵様、如何されました?」
冷たいキナの声が部屋の奥から響く。
「キナ・・・、なぜ私を侯爵様などと」
名を呼ばなくなってからどれほど経つだろう。侯爵様と冷たく言われる度にアランの心に影が広がるばかりだ。
「相談がある、王妃様からの」
いつもは何を言っても侯爵様のご自由にとしか言わないキナが、振り向いた。
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