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第19話 教会にて

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 メリンダ・イブールは毎週水曜日、必ず王都外れにあるロメルア教会に行って、孤児院で奉仕することに決めている。
 学生だった頃は学院帰りに寄っていたが、卒業して父の手伝いをするようになってからは、昼食後に来て以前より少し長い時間を過ごしていた。

 孤児院で奉仕活動を始めたのは、学生時代の課題の視察で訪れたことがきっかけだ。
 平民の孤児の貧しさに衝撃を受けた。
まともに読み書きもできず、身分を保証する者もいない孤児たちは、成長して院を出なくてはいけなくてもまともな仕事に就くことができずにいると知った。
親が事故で亡くなった途端、親戚に財産を奪われてそのような境遇になった孤児もいた。
 許せないと思ったが、男爵令嬢の自分が世の中を変えられるわけではない。
 せめてできることをと、孤児たちに読み書きやマナーを教え、少しでもよいところに勤められるようにと手助けを始めたのだ。

 王都の中でも、貴族街に近い教会は寄付が多い。貴族の目が向きやすいのだろう。
 しかし、都の外れの裏通りにある小さな教会はそうではない、今の神父は寄付集めに力を入れている。来てくれないなら出かけていけばよいという考えなので、メリンダが知るこの数年でももっとも孤児院の経営が安定していた。
 とは言え、潤沢な資金があるわけではない。

「そういえばこの前いらしたヨルス男爵様だったかしら?かなり寄付されたと神父様が仰っていたわ。ああいう方がもっといらっしゃるとよろしいのに」

 薄っすらと遠い記憶で思い出したエルロールが、まさかまた孤児院に来るとは思いもしなかった。

「メリンダさま、絵本読んで」

 小さなロリーが汚れて端が捲れた絵本を差し出すと。

「次に来るときは新しい絵本を持ってきましょうね」
「本当に?うれしーいっ!」

 ロリーがメリンダの足に抱きつくと、他の孤児たちが寄ってくる。

「ロリーだけずるーい!」

 メリンダのまわりを孤児たちがずらりと囲んで座り、絵本の読み聞かせを開始した。



「見えました?ねえ、エル」
「う、うん、見えたぞ!こどもたちに本を読んでやっている!なんてやさしい令嬢なんだ!」

 蕩けるような顔で窓の中を覗き込む怪しいエルロールと、誰かに見咎められないよう背後を見張るテューダーである。

「このまま孤児院に行ってもよいものだろうか」
「気になるなら教会で神父に声をかけてから、またこどもたちと遊びたいとでも言ったらどうです」
「よし、それで行こう」

 普段と違いえらく臆病なエルロールを見たテューダーは恋とはこういうものなのかと、では自分はアリスに恋をしていたわけではないのだなと苦笑をもらしている。

「い、行くぞテュー!」

 声が震えているのはきっと寒さのせいだろう。
 まさか王子が片思いの令嬢に会うのに声が震えるほど緊張するなんてありえないと、今度は楽しそうに笑ったテューダーだった。
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