12 / 99
第12話 ソグ伯爵家にて
しおりを挟む
マイラ・ソグ伯爵夫人は二人の息子を生み、王家に乳母として仕えて三人の王子たちを育ててきた。
四人目の王女だけは別の乳母がついたが、乳母を辞めたあとも長男テューダーが第一王子の側近として公を、また乳兄弟として私を支えているのが密かな自慢である。
「母上!おにいさまがお戻りになるそうです」
次男のマシューズは乳母を辞めてからかなり遅くに生まれてまだ6歳と幼い。報せを耳にして急いで母に教えに来たが、憧れの兄の久しぶりの来訪にうれしそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「まあ、マシューってばお行儀悪いですよ」
そう言いながら、自分もふふっと頬を緩めていた。
「何かあの子の好きな美味しいものを作らせましょう」
「おにいさま、今日はここで泊まるのかなあ」
「そうだといいわね」
「うん!」
「マシュー、うん!じゃなくてはい!でしょ」
「はぁい」
そんな風に家族が待ち受ける屋敷にテューダーが戻って来ると、母に弟に執事や使用人たちがずらりと迎えてくれた。
「はは、すごいな!みんな元気にしていたか?」
「はいっ!坊ちゃまのご活躍が何よりの励みでございますっ!」
執事のセーバーが泣きそうな勢いなのを見て笑うと、一番奥にいた母マイラとマシューズに挨拶を交わした。
「母上、マシューズ!息災で何よりです」
「ええ、貴方も」
「おにいさまこんにちは!今日は泊まられるのですか?」
兄に飛びつきそうな小さな弟を抱き上げ、頭を撫でたテューダーはにこやかに笑って頷いた。
「ああ、そのように届を出してきた。よろしいですか母上?」
「もちろんよ!ここが貴方の家なのだから」
父であるベッサール・ソグ伯爵は領地を視察中で暫く戻らないというので、三人の晩餐を楽しむことにする。
「王妃様が母上によろしくと」
「パリス様は本当にいつまでもお気にかけてくださって、ありがたいことだわ」
「ええ、まったくです」
「それで?」
「え?」
「何か話があった来たのではないかしら」
「・・・はい。お察しのとおりです」
「お話しってなあに?」
「うん、大人の相談だ」
幼いマシューズだが、大人の話と言われたら入ってはいけないと理解している。
聞き分けよく、しかし寂しそうな顔をしたのを見てテューダーは付け加えた。
「但しそれはマシューが寝たあとにするから、それまではマシューと遊べるぞ」
「ほんとですか!」
「本当だ。何をしたい?」
「僕、チェスを覚えたんだ」
「チェスを?もう?」
「ベッサール様が教えたら性に合ったようなのよ」
「へえ、すごいなマシュー!では食事のあとは私とチェスをしよう」
約束通り楽しもうとしたチェスだが、マシューズが想像以上に強く、テューダーは危うく負けるところまで追い込まれた。軽く遊ぶはずがいつしか真剣になって、なんとかひと回り近く年上の兄の面目を保つことができたが。
「母上、マシューはチェスの才能があるのではないでしょうか?師につけてみてはどうでしょう」
「ベッサール様もそんなことを仰っていたわね。私はチェスを嗜まないからわからないけど、テューダーまで勧めるの?」
「ええ、我が家から天才プレイヤーが輩出されるかもしれませんよ」
「まあ、テューダーったら弟馬鹿なのね」
マイラはいまひとつ本気にしていないが、テューダーは父が視察から戻るまでにマシューズに手解きしてくれる者を探してみたいと考えていた。
四人目の王女だけは別の乳母がついたが、乳母を辞めたあとも長男テューダーが第一王子の側近として公を、また乳兄弟として私を支えているのが密かな自慢である。
「母上!おにいさまがお戻りになるそうです」
次男のマシューズは乳母を辞めてからかなり遅くに生まれてまだ6歳と幼い。報せを耳にして急いで母に教えに来たが、憧れの兄の久しぶりの来訪にうれしそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「まあ、マシューってばお行儀悪いですよ」
そう言いながら、自分もふふっと頬を緩めていた。
「何かあの子の好きな美味しいものを作らせましょう」
「おにいさま、今日はここで泊まるのかなあ」
「そうだといいわね」
「うん!」
「マシュー、うん!じゃなくてはい!でしょ」
「はぁい」
そんな風に家族が待ち受ける屋敷にテューダーが戻って来ると、母に弟に執事や使用人たちがずらりと迎えてくれた。
「はは、すごいな!みんな元気にしていたか?」
「はいっ!坊ちゃまのご活躍が何よりの励みでございますっ!」
執事のセーバーが泣きそうな勢いなのを見て笑うと、一番奥にいた母マイラとマシューズに挨拶を交わした。
「母上、マシューズ!息災で何よりです」
「ええ、貴方も」
「おにいさまこんにちは!今日は泊まられるのですか?」
兄に飛びつきそうな小さな弟を抱き上げ、頭を撫でたテューダーはにこやかに笑って頷いた。
「ああ、そのように届を出してきた。よろしいですか母上?」
「もちろんよ!ここが貴方の家なのだから」
父であるベッサール・ソグ伯爵は領地を視察中で暫く戻らないというので、三人の晩餐を楽しむことにする。
「王妃様が母上によろしくと」
「パリス様は本当にいつまでもお気にかけてくださって、ありがたいことだわ」
「ええ、まったくです」
「それで?」
「え?」
「何か話があった来たのではないかしら」
「・・・はい。お察しのとおりです」
「お話しってなあに?」
「うん、大人の相談だ」
幼いマシューズだが、大人の話と言われたら入ってはいけないと理解している。
聞き分けよく、しかし寂しそうな顔をしたのを見てテューダーは付け加えた。
「但しそれはマシューが寝たあとにするから、それまではマシューと遊べるぞ」
「ほんとですか!」
「本当だ。何をしたい?」
「僕、チェスを覚えたんだ」
「チェスを?もう?」
「ベッサール様が教えたら性に合ったようなのよ」
「へえ、すごいなマシュー!では食事のあとは私とチェスをしよう」
約束通り楽しもうとしたチェスだが、マシューズが想像以上に強く、テューダーは危うく負けるところまで追い込まれた。軽く遊ぶはずがいつしか真剣になって、なんとかひと回り近く年上の兄の面目を保つことができたが。
「母上、マシューはチェスの才能があるのではないでしょうか?師につけてみてはどうでしょう」
「ベッサール様もそんなことを仰っていたわね。私はチェスを嗜まないからわからないけど、テューダーまで勧めるの?」
「ええ、我が家から天才プレイヤーが輩出されるかもしれませんよ」
「まあ、テューダーったら弟馬鹿なのね」
マイラはいまひとつ本気にしていないが、テューダーは父が視察から戻るまでにマシューズに手解きしてくれる者を探してみたいと考えていた。
10
お気に入りに追加
740
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
花婿が差し替えられました
凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。
元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。
その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。
ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。
※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。
ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。
こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。
出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです!
※すみません、100000字くらいになりそうです…。
【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】昨日までの愛は虚像でした
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる