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第12話 ソグ伯爵家にて

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 マイラ・ソグ伯爵夫人は二人の息子を生み、王家に乳母として仕えて三人の王子たちを育ててきた。
 四人目の王女だけは別の乳母がついたが、乳母を辞めたあとも長男テューダーが第一王子の側近として公を、また乳兄弟として私を支えているのが密かな自慢である。

「母上!おにいさまがお戻りになるそうです」

 次男のマシューズは乳母を辞めてからかなり遅くに生まれてまだ6歳と幼い。報せを耳にして急いで母に教えに来たが、憧れの兄の久しぶりの来訪にうれしそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「まあ、マシューってばお行儀悪いですよ」

 そう言いながら、自分もふふっと頬を緩めていた。

「何かあの子の好きな美味しいものを作らせましょう」
「おにいさま、今日はここで泊まるのかなあ」
「そうだといいわね」
「うん!」
「マシュー、うん!じゃなくてはい!でしょ」
「はぁい」



 そんな風に家族が待ち受ける屋敷にテューダーが戻って来ると、母に弟に執事や使用人たちがずらりと迎えてくれた。

「はは、すごいな!みんな元気にしていたか?」
「はいっ!坊ちゃまのご活躍が何よりの励みでございますっ!」

 執事のセーバーが泣きそうな勢いなのを見て笑うと、一番奥にいた母マイラとマシューズに挨拶を交わした。

「母上、マシューズ!息災で何よりです」
「ええ、貴方も」
「おにいさまこんにちは!今日は泊まられるのですか?」

 兄に飛びつきそうな小さな弟を抱き上げ、頭を撫でたテューダーはにこやかに笑って頷いた。

「ああ、そのように届を出してきた。よろしいですか母上?」
「もちろんよ!ここが貴方の家なのだから」

 父であるベッサール・ソグ伯爵は領地を視察中で暫く戻らないというので、三人の晩餐を楽しむことにする。

「王妃様が母上によろしくと」
「パリス様は本当にいつまでもお気にかけてくださって、ありがたいことだわ」
「ええ、まったくです」
「それで?」
「え?」
「何か話があった来たのではないかしら」
「・・・はい。お察しのとおりです」
「お話しってなあに?」
「うん、大人の相談だ」

 幼いマシューズだが、大人の話と言われたら入ってはいけないと理解している。
聞き分けよく、しかし寂しそうな顔をしたのを見てテューダーは付け加えた。

「但しそれはマシューが寝たあとにするから、それまではマシューと遊べるぞ」
「ほんとですか!」
「本当だ。何をしたい?」
「僕、チェスを覚えたんだ」
「チェスを?もう?」
「ベッサール様が教えたら性に合ったようなのよ」
「へえ、すごいなマシュー!では食事のあとは私とチェスをしよう」


 約束通り楽しもうとしたチェスだが、マシューズが想像以上に強く、テューダーは危うく負けるところまで追い込まれた。軽く遊ぶはずがいつしか真剣になって、なんとかひと回り近く年上の兄の面目を保つことができたが。


「母上、マシューはチェスの才能があるのではないでしょうか?師につけてみてはどうでしょう」
「ベッサール様もそんなことを仰っていたわね。私はチェスを嗜まないからわからないけど、テューダーまで勧めるの?」
「ええ、我が家から天才プレイヤーが輩出されるかもしれませんよ」
「まあ、テューダーったら弟馬鹿なのね」

 マイラはいまひとつ本気にしていないが、テューダーは父が視察から戻るまでにマシューズに手解きしてくれる者を探してみたいと考えていた。
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