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第4話 出逢い
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「次の視察はどう致しますか?」
王族は定期的に各地に視察に行かねばならない。領主がいるからよいということではなく、王家に隠していることやそもそも問題に気づかずにいることを視察で見つけ出すことがあるためだ。
「たまには王都に下りてみるかな」
「それは視察というには近すぎます」
「くだらん社交のせいで仕事が溜まっているから遠出は難しいだろう?別に繁華街を歩きたいわけではない。孤児院あたりならいいだろう?」
「では城から近いところに致しましょう」
「いや、王都でも城から離れたところにしてくれ」
「ええ!城から近い方が警備もしやすいのですからそういう事情も理解してくださらないと」
「テューは何を言ってるんだ?近くてはダメだとか、遠くてはダメだとか、いい加減にしろ!護衛は皆優秀だからどんなところであっても大丈夫だ。
城近くの十分整備されているところを、時間を割いて回っても意味はない」
確かにこのところ仕事が溜まってきているが、王都の外れに行ったからと言って、往復一時間ほど移動に時間がかかるくらいの話である。
「選ぶのはテューに任せる、あとその気持ち悪い話し方やめろ」
テューダーはニッと笑って頷いた。
それから十日ほどあと。
テューダーが選んだ王都の外れにある小さな教会へ、エルロールたちは向かっていた。護衛は少し離れたところから見守っている。
背後の守りを確認し、テューダーの勧めにより洗えば落ちる染め粉で金髪を黒色を変えたエルロールは、新たな寄付先を探す貴族の体を装ってふらりと教会を訪れた。
「ようこそいらっしゃいませ」
小さな教会であるが神父は清潔な服を纏い、掃除も行き届いている。
「急にすまぬな」
「いえ、御寄進を検討くださるならいつでも歓迎致します」
─神に仕える身の割には、随分世慣れたことを言うのだな─
エルロールは少し呆れて口角を上げたのだが、神父は微笑みを返されたと感じたらしい。揉み手摺り手というが、まさにそんな風に手を揉みながらペコペコする神父に、相手をする気が失せていた。
「こちらの教会は孤児院を併設しておりまして、寄付金で子どもたちを育てておりますので、多少でもお心遣いを頂けますと大変にありがたいのです」
「ほう、では孤児院を見せてもらおう。その上で寄付について考えよう」
神父が教会の裏手にある孤児院へ先導する、ついて行くと明るい笑い声が聞こえた。
「マーサ、だめよ!そんなに走っちゃ危ないわ」
「メリンダさまぁ、手をつないでぇ」
「だめだよ、メリンダさまはぼくと手をつなぐんだから」
「じゃあふたりとも手をつなぎましょう」
神父が木戸を開けて院庭に入ると、声の主が子どもたちと両手をつないで笑っていた。
遠目でもわかる、それは艷やかな黒髪とやさしい光を放つ翠の瞳の美しい令嬢だった。
地味なワンピースを着ているが、隠しようもないほど輝いている。
少なくともエルロールにはそう見えた。
─なんて美しい人なんだ─
「あ、おにいちゃんがきたよ」
エルロールに気づいたこどもたちが、駆け寄って来る。令嬢もこどもに手を引かれてやって来た。
「これはメリンダ様、いつも御奉仕くださいまして、ありがとうございます」
「いえ神父様、こんなことでしかお役に立てず申し訳ないことでございますわ」
「なかなか子どもたちと遊んでやることもできませんから、とても助かっています」
「そう仰って頂けますとうれしいですわ」
「神父殿、こちらのご令嬢は?」
ふたりの話しがなかなか終わりそうになく、焦れたエルロールは不躾にも会話に割り込んだ。
王族は定期的に各地に視察に行かねばならない。領主がいるからよいということではなく、王家に隠していることやそもそも問題に気づかずにいることを視察で見つけ出すことがあるためだ。
「たまには王都に下りてみるかな」
「それは視察というには近すぎます」
「くだらん社交のせいで仕事が溜まっているから遠出は難しいだろう?別に繁華街を歩きたいわけではない。孤児院あたりならいいだろう?」
「では城から近いところに致しましょう」
「いや、王都でも城から離れたところにしてくれ」
「ええ!城から近い方が警備もしやすいのですからそういう事情も理解してくださらないと」
「テューは何を言ってるんだ?近くてはダメだとか、遠くてはダメだとか、いい加減にしろ!護衛は皆優秀だからどんなところであっても大丈夫だ。
城近くの十分整備されているところを、時間を割いて回っても意味はない」
確かにこのところ仕事が溜まってきているが、王都の外れに行ったからと言って、往復一時間ほど移動に時間がかかるくらいの話である。
「選ぶのはテューに任せる、あとその気持ち悪い話し方やめろ」
テューダーはニッと笑って頷いた。
それから十日ほどあと。
テューダーが選んだ王都の外れにある小さな教会へ、エルロールたちは向かっていた。護衛は少し離れたところから見守っている。
背後の守りを確認し、テューダーの勧めにより洗えば落ちる染め粉で金髪を黒色を変えたエルロールは、新たな寄付先を探す貴族の体を装ってふらりと教会を訪れた。
「ようこそいらっしゃいませ」
小さな教会であるが神父は清潔な服を纏い、掃除も行き届いている。
「急にすまぬな」
「いえ、御寄進を検討くださるならいつでも歓迎致します」
─神に仕える身の割には、随分世慣れたことを言うのだな─
エルロールは少し呆れて口角を上げたのだが、神父は微笑みを返されたと感じたらしい。揉み手摺り手というが、まさにそんな風に手を揉みながらペコペコする神父に、相手をする気が失せていた。
「こちらの教会は孤児院を併設しておりまして、寄付金で子どもたちを育てておりますので、多少でもお心遣いを頂けますと大変にありがたいのです」
「ほう、では孤児院を見せてもらおう。その上で寄付について考えよう」
神父が教会の裏手にある孤児院へ先導する、ついて行くと明るい笑い声が聞こえた。
「マーサ、だめよ!そんなに走っちゃ危ないわ」
「メリンダさまぁ、手をつないでぇ」
「だめだよ、メリンダさまはぼくと手をつなぐんだから」
「じゃあふたりとも手をつなぎましょう」
神父が木戸を開けて院庭に入ると、声の主が子どもたちと両手をつないで笑っていた。
遠目でもわかる、それは艷やかな黒髪とやさしい光を放つ翠の瞳の美しい令嬢だった。
地味なワンピースを着ているが、隠しようもないほど輝いている。
少なくともエルロールにはそう見えた。
─なんて美しい人なんだ─
「あ、おにいちゃんがきたよ」
エルロールに気づいたこどもたちが、駆け寄って来る。令嬢もこどもに手を引かれてやって来た。
「これはメリンダ様、いつも御奉仕くださいまして、ありがとうございます」
「いえ神父様、こんなことでしかお役に立てず申し訳ないことでございますわ」
「なかなか子どもたちと遊んでやることもできませんから、とても助かっています」
「そう仰って頂けますとうれしいですわ」
「神父殿、こちらのご令嬢は?」
ふたりの話しがなかなか終わりそうになく、焦れたエルロールは不躾にも会話に割り込んだ。
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