【完結】おまえを愛することはない、そう言う夫ですが私もあなたを、全くホントにこれっぽっちも愛せません。

やまぐちこはる

文字の大きさ
上 下
6 / 29

第6話

しおりを挟む
「あれ?今日も義姉上だけですか?」

 翌日、久しぶりの帰省だからと暫く滞在することになったトルソーが、執務室に顔を出して首を傾げた。

「・・・兄に渡したいものがあったんですが」
「申し訳ないけど、預かることはできませんわ」

 エリーシャたちは互いになるべく顔を合わせないようにしているのだ。
 食事の時間も仕事が終わらなかった体であえてずらしている。預かりものなど、いつ渡せるかわからないのだから、自分で渡してもらったほうが早いだろう。

「そうですか」
「ええ、ごめんなさいね。部屋にでも行ってご覧になっては?」

 謝る義姉に仕事の邪魔をしたことを詫び、トルソーは勧められたとおりに、兄の部屋へ行くことにしたが。

 手に持っているのは兄へ土産だ。
 新婚夫婦の部屋には行きづらいと思い、食事のときに持って行ったのだが、昨日の夕飯にも朝飯にも兄は姿を見せなかった。

 二日のうち、二日とも執務室にいなかった兄アレンソア。
それを預かることはできないと言う義姉。

「偶々なのかな」

 エリーシャの態度も相当素っ気なかった。
年若くまだ婚約者もいないトルソーが見ても、新婚の甘やかさなど微塵も感じないのは政略結婚のせいだろうか?

「いや、あんなに美しい人が妻なら、政略でもうれしいに決まってるよな」

 義姉への憧れが無意識に口から漏れ、ハッとして辺りを見回すも、誰もいないことにちょっとホッとする。

 執務室にいなかったのはきっと偶々だろうと気を取り直し、トルソーは兄の部屋へと足を早めた。



 コンコン

 ノックに対する返事はない。
 不在かと思い、土産だけ置いて戻ろうと少しドアを開けて驚いた。
カーテンが閉められた室内に寝息が響いているのだ。しかも室内が微かに酒臭い。

 トルソーは何故か勢いよくドアを開けてはだめだと、そんな気がして手を止める。
 そっと音を立てないようにドアを開け、足音を忍ばせて室内に入ると、無防備に寝入る兄の様子を観察した。

 側に寄るとやはり酒の臭いがする。
髭の様子から朝、顔髭剃りもしていないとわかり、まさかの寝坊かと気がついた。
 不快感から鼻に皺を寄せたトルソーは、土産を持ったまま踵を返した。


「酒?あんなに臭うほど、一体いつ飲んだんだ?」

 ツィージャー伯爵家は、酒は社交に付き合える程度は皆嗜むが、トルソーの記憶でも、両親が翌日臭うほど飲んだことはない。
 まして屋敷の夕飯なら尚更、多すぎるほどの飲酒は給仕が止めるはずだ。

 湧いてくる疑問にトルソーは混乱していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

『あなたの幸せを願っています』と言った妹と夫が愛し合っていたとは知らなくて

奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹] ディエム侯爵家には双子の姉妹がいた。 一人が私のことで、もう一人は私と全く似ていない妹のことだ。 両親は私が良いところを全部持って生まれて来たと言って妹を笑っていたから、そんな事はないと、私が妹をいつも庇ってあげていた。 だからあの時も、私が代わりに伯爵家に嫁いで、妹がやりたいことを応援したつもりでいた。 それが間違いだったと気付いたのは、夫に全く相手にされずに白い結婚のまま二年が過ぎた頃、戦場で妹が戦死したとの知らせを聞いた時だった。 妹の遺体に縋って泣く夫の姿を見て、それから騎士から教えられたことで、自分が今まで何をやってきたのか、どんな存在だったのか、どれだけ妹を見下していたのか思い知った。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

処理中です...