【完結】おまえを愛することはない、そう言う夫ですが私もあなたを、全くホントにこれっぽっちも愛せません。

第一話

　その日、ツィージャー伯爵家では嫡男アレンソアとエリーシャ・イグラルド子爵令嬢殿。結婚披露宴が行われていた。


「エリーシャ様、とってもお美しいですわ」

　招待客から声をかけられ、新妻の初々しさを感じさせる楚々とした笑みで応えている。

「本当にアレンソアは果報者だ。このように美しい花嫁を娶るのだからな」

　アレンソアの友人たちは口々にエリーシャを褒め称える。

　実際エリーシャはとびきり美しい令嬢である。
艶のある銀髪に透けるような真っ白い陶器肌。琥珀のような煌めく瞳で月夜の妖精と呼ばれている。

　彼女に恋い焦がれる者も多くいたが、政略でこどもの頃から決められていた婚約者のアレンソアは、事もあろうにエリーシャのその容姿を陰気臭いと蔑んでいた。

　そんなことを言われれば、当然エリーシャだってアレンソアを好きにはならない。
しかし、不貞などがない限り、言い出したほうが慰謝料を払わねばならない契約のため、互いにムキになり、とうとう結婚式を迎えてしまったのだった。



「おいエリーシャ！おまえ、ちょっと褒められたくらいでいい気になるなよ。おまえは美しくなんかない！何が月夜の妖精だ！陰気臭いおまえなど、闇夜に紛れて現れる死神の間違いだろうよ！
いいか！私に愛されるなどこれっぽっちの期待もするなよ」


　アレンソアはふたりだけの時は徹底的にエリーシャを蔑み罵る。
　そんなこととは知らない屋敷の使用人たちが、心を込め初夜の準備をしたにも関わらず、寝室では新郎がまたも新婦を罵り、挙げ句の果てに新婦のためのコネクティングルームへ、エリーシャを追い出したのだった。



　バタン！



　力いっぱい叩きつけられた扉を冷めた目で見ると、エリーシャはフン！と鼻を鳴らす。

「嫌いなのはあなただけじゃない！そっちこそ、私に愛されるなんて思わないことね」

　前途多難の新婚生活が始まってしまったことが、エリーシャは残念でならなかった。


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本日３話更新します。
朝昼夜みたいな感じで。
よろしくお願いします。