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13話
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後日。
タケリードとナナリーの婚約はタケリードの有責で解消され、ザンバト伯爵家から相当な慰謝料が払われた。
そしてタケリードへの処分は・・・ナナリーが望んだことで勘当は免れたが、学院は退学させられ、マードルの提案で、ザンバト伯爵家のゼネラルコントラクター事業の現地監督として、一番遠い辺境の現場へと追いやられた。
成果を出すのがもっとも厳しいところだが、もし逃げずくじけずに頑張り通せたらどこかの代官にでもしてやるといいと、マードルがユードに囁いているのをナナリーは見ていた。
(なんだかんだ言って父上も人が良いのだわ)
マードルがタケリードに寛大な措置を与えたのは、遅きに失したとは言え自ら自業自得と非を認め、他の者たちのために自分の処分が重くなってもいいと言い切ったからだ。
そんなことは当たり前とも言えるが。
それまでマードルは微塵も許す気はなかったのだが、気力を振り絞り立ち上がったタケリードの目を見て、ふと潰すのは惜しいと思った。ナナリーも勘当まではと言っていたので、彼に未来を残しつつ厳重に償わせるにはどうしたらいいだろう?と考えが変わった。
考えた末に思いついたのは、辺境の土木現場の監督。気の荒い者しかいない現場で、甘やかされてきた貴族の令息がやっていけるとは思えないが、もしやり遂げたら一皮もふた皮も剥けていることだろう。
ザンバト伯爵ユードは歯を食いしばって息子に処分を言い渡したが、タケリードはもっと重い処分を覚悟していたそうで、何度も頭を下げ、最後はしっかりと顔をあげて旅立って行った。
ザンバト家も傘下の貴族も、それらが事業から抜けてしまうと影響があるかもしれない(いやそれほどでもないのだが)とマードルの考えで特にお咎めなしとなり、その寛大さに感激したザンバト家はメリエラ傘下に下りたいと言って断られていた。
アルメ子爵家では。
ヨドル・アルメ子爵はティミリの母イルマと離婚した。こんな迷惑をかけて、とてもこのままいられないと謝罪し続けたイルマは心を病んでしまったのだ。そのような状態で離婚して放り出したら生きてはいけないだろう。
ヨドルはイルマの心の平安のために離婚には応じたが、領地の中にある自分の目が行き届いた修道院に入ることを条件にした。
そうしてイルマは静かな日々を過ごしている。彼女の中では、自分の病で会えなくなった娘はまだ小さく可憐なままらしい。
慰謝料として子爵家が払ったものは、今ティミリを働かせて返済をさせている。
どこで?と訊ねられたとき、ヨドルは重労働をする場所とだけ言っていたらしい。
けっして逃げられないところで、厳重に管理されて金を稼ぐためだけに一日中働く毎日。
ティミリに耐えられるかはわからないが、返せずに塵と消えてくれるのでもよい、そう言っていたそうだ。
その後ヨドルは、引退にはだいぶ早くに嫡男に爵位を譲り渡し、イルマがいる修道院のそばに小さな家を建てた。
時折塀越しに聞こえるイルマの鼻歌に、聞き耳を立てるのが楽しみらしい。
─二年後。
ナナリーは学院も卒業したが、まだ次の婚約者は決まっていない。
メリエラ伯爵家の一人娘の婿と聞いたら、多少の傷ありでもいくらでも手を上げる者がいる。次はどんな人がいいかと楽しみにもしていた。
だが、タケリードから届き続ける謝罪の手紙を読むうち、絶対に許さないと決めていた気持ちが少しだけ揺らいだのだ。
タケリードは馬鹿だ。
あの子爵の令嬢でもなんでもなかった娘に騙された。
もちろん、その前から態度はひどいものだったが、今は真摯に反省をしているのが手紙から読み取れる。
貴族社会に生きているナナリーは、今タケリードが時折くれる謝罪と近況報告が交ざった手紙が楽しみでしようがない。
乱暴な、でも人間味溢れる男たちに囲まれ、精神的にひ弱だったタケリードがどう彼らと向き合っているのか。
作り話の小説よりずっと新鮮で面白い。
タケリードの書く彼らがとても生き生きとしていて、その姿が目に浮かぶようなのだ。彼にこんな才能があったとは知らなかった。
ふと。
ナナリーは手紙に出てくる人物たちのエピソードを集めて本にしてみたらどうかと思いついた。
きっとこれからもタケリードはたくさんの手紙をくれる。謝罪を続けなくてはいけないと思い込んでいるに違いないから。
「何しろバカみたいに正直なところがあるからね、彼は」
そう話しながらナナリーは、既に何十通とある手紙の束に、先程届いて読み終えたばかりの手紙も入れ、角を揃えると丁寧に美しいリボンでまとめていく。
その愛情溢れる手紙の扱いを見たルムリは言った。
「ねえ?ナナ。あなた、やっぱり本当はタケリード様が好きなんじゃないの?」
完
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
これにて完結です。
余韻を残して終わりにするか、その後を書くか、考えているところですが。
拙い文章でしたが、毎日ブックマークやしおりをはさんでくださる方が増えて、とてもうれしかったです。
最後までお読みくださって、本当にありがとうございました。
自分では使いこなせないチートスキルを持つ、とびっきりかわいい少年が主人公のほのぼのファンタジー「神の眼を持つ少年です。」を連載中です。そして、恋愛カテの次作を掲載予定です。
ぜひまたお立ち寄りくださいませ、お待ちしております。
タケリードとナナリーの婚約はタケリードの有責で解消され、ザンバト伯爵家から相当な慰謝料が払われた。
そしてタケリードへの処分は・・・ナナリーが望んだことで勘当は免れたが、学院は退学させられ、マードルの提案で、ザンバト伯爵家のゼネラルコントラクター事業の現地監督として、一番遠い辺境の現場へと追いやられた。
成果を出すのがもっとも厳しいところだが、もし逃げずくじけずに頑張り通せたらどこかの代官にでもしてやるといいと、マードルがユードに囁いているのをナナリーは見ていた。
(なんだかんだ言って父上も人が良いのだわ)
マードルがタケリードに寛大な措置を与えたのは、遅きに失したとは言え自ら自業自得と非を認め、他の者たちのために自分の処分が重くなってもいいと言い切ったからだ。
そんなことは当たり前とも言えるが。
それまでマードルは微塵も許す気はなかったのだが、気力を振り絞り立ち上がったタケリードの目を見て、ふと潰すのは惜しいと思った。ナナリーも勘当まではと言っていたので、彼に未来を残しつつ厳重に償わせるにはどうしたらいいだろう?と考えが変わった。
考えた末に思いついたのは、辺境の土木現場の監督。気の荒い者しかいない現場で、甘やかされてきた貴族の令息がやっていけるとは思えないが、もしやり遂げたら一皮もふた皮も剥けていることだろう。
ザンバト伯爵ユードは歯を食いしばって息子に処分を言い渡したが、タケリードはもっと重い処分を覚悟していたそうで、何度も頭を下げ、最後はしっかりと顔をあげて旅立って行った。
ザンバト家も傘下の貴族も、それらが事業から抜けてしまうと影響があるかもしれない(いやそれほどでもないのだが)とマードルの考えで特にお咎めなしとなり、その寛大さに感激したザンバト家はメリエラ傘下に下りたいと言って断られていた。
アルメ子爵家では。
ヨドル・アルメ子爵はティミリの母イルマと離婚した。こんな迷惑をかけて、とてもこのままいられないと謝罪し続けたイルマは心を病んでしまったのだ。そのような状態で離婚して放り出したら生きてはいけないだろう。
ヨドルはイルマの心の平安のために離婚には応じたが、領地の中にある自分の目が行き届いた修道院に入ることを条件にした。
そうしてイルマは静かな日々を過ごしている。彼女の中では、自分の病で会えなくなった娘はまだ小さく可憐なままらしい。
慰謝料として子爵家が払ったものは、今ティミリを働かせて返済をさせている。
どこで?と訊ねられたとき、ヨドルは重労働をする場所とだけ言っていたらしい。
けっして逃げられないところで、厳重に管理されて金を稼ぐためだけに一日中働く毎日。
ティミリに耐えられるかはわからないが、返せずに塵と消えてくれるのでもよい、そう言っていたそうだ。
その後ヨドルは、引退にはだいぶ早くに嫡男に爵位を譲り渡し、イルマがいる修道院のそばに小さな家を建てた。
時折塀越しに聞こえるイルマの鼻歌に、聞き耳を立てるのが楽しみらしい。
─二年後。
ナナリーは学院も卒業したが、まだ次の婚約者は決まっていない。
メリエラ伯爵家の一人娘の婿と聞いたら、多少の傷ありでもいくらでも手を上げる者がいる。次はどんな人がいいかと楽しみにもしていた。
だが、タケリードから届き続ける謝罪の手紙を読むうち、絶対に許さないと決めていた気持ちが少しだけ揺らいだのだ。
タケリードは馬鹿だ。
あの子爵の令嬢でもなんでもなかった娘に騙された。
もちろん、その前から態度はひどいものだったが、今は真摯に反省をしているのが手紙から読み取れる。
貴族社会に生きているナナリーは、今タケリードが時折くれる謝罪と近況報告が交ざった手紙が楽しみでしようがない。
乱暴な、でも人間味溢れる男たちに囲まれ、精神的にひ弱だったタケリードがどう彼らと向き合っているのか。
作り話の小説よりずっと新鮮で面白い。
タケリードの書く彼らがとても生き生きとしていて、その姿が目に浮かぶようなのだ。彼にこんな才能があったとは知らなかった。
ふと。
ナナリーは手紙に出てくる人物たちのエピソードを集めて本にしてみたらどうかと思いついた。
きっとこれからもタケリードはたくさんの手紙をくれる。謝罪を続けなくてはいけないと思い込んでいるに違いないから。
「何しろバカみたいに正直なところがあるからね、彼は」
そう話しながらナナリーは、既に何十通とある手紙の束に、先程届いて読み終えたばかりの手紙も入れ、角を揃えると丁寧に美しいリボンでまとめていく。
その愛情溢れる手紙の扱いを見たルムリは言った。
「ねえ?ナナ。あなた、やっぱり本当はタケリード様が好きなんじゃないの?」
完
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
これにて完結です。
余韻を残して終わりにするか、その後を書くか、考えているところですが。
拙い文章でしたが、毎日ブックマークやしおりをはさんでくださる方が増えて、とてもうれしかったです。
最後までお読みくださって、本当にありがとうございました。
自分では使いこなせないチートスキルを持つ、とびっきりかわいい少年が主人公のほのぼのファンタジー「神の眼を持つ少年です。」を連載中です。そして、恋愛カテの次作を掲載予定です。
ぜひまたお立ち寄りくださいませ、お待ちしております。
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