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第22話
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ロイリー家の四人の男のうち、アニエラの夫トーソルドだけがいないが、当主ジャブリックは構わずに話しだす。
「今日王妃様に呼ばれて城に行ってきたんだ」
「あ!どうでした?」
「ああ、すごいことになったんだよ。アニエラの刺繍を王妃様とメリレア王女様が大変に気に入られてな!アニエラに刺繍師の称号を与えると仰られたんだよ」
ジャブリックが一気に話すと、その息子たちは目を見開いてアニエラを見た。
「えっ?どうしてそのようなことに?」
可愛らしいアニエラの小さな口がぽかんと開いている。
「うむ、王妃様のバザーに出した刺繍のハンカチをメリレア王女が入手されたそうでな」
それをどのように見せびらかして歩いたかを、メリレア姫が教えてくれたとおりに話して聞かせる。
「王妃様もすっかり気に入られていて、それで」
「「「それで?」」」
「アニエラにもっといろいろな物に刺繍をしてほしいそうなんだ」
「「「すごい!」」」
「そうか、だから王妃様が称号を」
「ああ、依頼を出しやすくなるからな」
「それにしてもすごい栄誉だよ、アニエラ?」
男たちが盛り上がっている中、アニエラは夢の中でふわふわしていた。
─私が王妃様の刺繍師になれるの?─
子どもの頃から刺繍は人一倍熱心に取り組んでいた。糸の使い方やステッチも独自に工夫したことがいくつもある。
しかし所詮は貴族令嬢の手習いに過ぎなかった。
ロイリー家に来て、トーソルドのいない結婚生活でぽっかりと空いてしまった心の隙間を埋めるためにと、トーソルドが稼いだ金で教師につき、習い始めたことが花開いたのだ。
─これってトーソルド様のおかげ・・・かしら─
皮肉なものである。
しかしいずれ白い結婚を申し立てたあと、刺繍師として身を立てられるなら何よりだ。
「アニエラ?王妃様とメリレア姫様がアニエラに会いたいと仰られているのだが?」
「あ、ええっ?は、はい。あまりのことにぼんやりしてしまいましたわ」
「ははは、それは仕方ないことだ。私だって王妃様を前に固まってしまったからな」
自分の姿を思い出してジャブリックはくすくすと笑い、義兄たちは大きく頷いて見守っている。
「でもとても光栄で、幸せすぎて怖いほどですわ」
頬を染めたアニエラを、家族たちは温かな目で見守った。
「今日王妃様に呼ばれて城に行ってきたんだ」
「あ!どうでした?」
「ああ、すごいことになったんだよ。アニエラの刺繍を王妃様とメリレア王女様が大変に気に入られてな!アニエラに刺繍師の称号を与えると仰られたんだよ」
ジャブリックが一気に話すと、その息子たちは目を見開いてアニエラを見た。
「えっ?どうしてそのようなことに?」
可愛らしいアニエラの小さな口がぽかんと開いている。
「うむ、王妃様のバザーに出した刺繍のハンカチをメリレア王女が入手されたそうでな」
それをどのように見せびらかして歩いたかを、メリレア姫が教えてくれたとおりに話して聞かせる。
「王妃様もすっかり気に入られていて、それで」
「「「それで?」」」
「アニエラにもっといろいろな物に刺繍をしてほしいそうなんだ」
「「「すごい!」」」
「そうか、だから王妃様が称号を」
「ああ、依頼を出しやすくなるからな」
「それにしてもすごい栄誉だよ、アニエラ?」
男たちが盛り上がっている中、アニエラは夢の中でふわふわしていた。
─私が王妃様の刺繍師になれるの?─
子どもの頃から刺繍は人一倍熱心に取り組んでいた。糸の使い方やステッチも独自に工夫したことがいくつもある。
しかし所詮は貴族令嬢の手習いに過ぎなかった。
ロイリー家に来て、トーソルドのいない結婚生活でぽっかりと空いてしまった心の隙間を埋めるためにと、トーソルドが稼いだ金で教師につき、習い始めたことが花開いたのだ。
─これってトーソルド様のおかげ・・・かしら─
皮肉なものである。
しかしいずれ白い結婚を申し立てたあと、刺繍師として身を立てられるなら何よりだ。
「アニエラ?王妃様とメリレア姫様がアニエラに会いたいと仰られているのだが?」
「あ、ええっ?は、はい。あまりのことにぼんやりしてしまいましたわ」
「ははは、それは仕方ないことだ。私だって王妃様を前に固まってしまったからな」
自分の姿を思い出してジャブリックはくすくすと笑い、義兄たちは大きく頷いて見守っている。
「でもとても光栄で、幸せすぎて怖いほどですわ」
頬を染めたアニエラを、家族たちは温かな目で見守った。
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