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第20話
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ロイリー伯爵家に珍しい書状が届いたのはその翌日。
「王妃様から呼び出された」
深刻そうなジャブリックをテューリンが慰める。
「トーソルドの件とは限りませんよ、父上」
「・・・だが、他に思い浮かぶことがない」
ジュールも言っていたように、城でも不貞で辺境に飛ばされた近衛騎士の噂はかなり広まっていた。
「お叱りを受けることになるのか」
騎士爵位を授して独立したとはいえ、家門を率いるのはジャブリックなのだ。
ハァと大きくため息をつくと、城に向かう支度を整えて馬車に乗り込んだ。
重い足取りで王妃からの召喚を告げると、しばらく待たされたあと女官が迎えに来る。
「王妃様とメリレア姫様が庭園にてお待ちしております」
ん?とジャブリックは疑問に思う。
庭園でお咎めを受けるのか?
内々の注意で済ませてくださるおつもりだろうかと小さな期待を胸に、女官のあとをついて行った。
美しい庭園は、王妃の好きな白い花が咲き乱れる透明感漂わせた庭だ。その中の四阿で、王妃とメリレア姫が茶を楽しんでいる。
「ロイリー伯爵、よく来てくれました」
王妃が手招きをする。
ジャブリックは深く礼を捧げると、王妃のいるテーブルの近くに歩み寄った。
「そこにお座りなさいな。見てもらいたいものがあります」
てっきりトーソルドのことだと思っていたジャブリックは、拍子抜けした。
「これを」
テーブルに差し出された一枚のハンカチには素晴らしい刺繍が施されている。
─どこかで見たような?─
「あ!」
「誰が刺繍をしたかおわかり?」
「はい、我が家のアニエラの作と思われます」
「そう!アニエラね。してアニエラはロイリー伯爵とはどのような繋がりかしら」
「はあ、三男に嫁いだ義娘でございます」
ここでもジャブリックは義娘とアニエラを位置づけた。
「そうなの!良き刺繍師を迎えられたわね」
「刺繍師ですか?」
「ええ。これほどの腕前の者はそうはいないわよ、それにこの技法!細やかで美しい上に素晴らしい色彩感覚だわ。刺繍師と呼ばれるのに相応しいと思うから、私がその称号を与えましょう。そうすればアニエラに、私とメリレアの刺繍を依頼しやすくなるわね。受けてもらえるかしら」
「お母様!素晴らしいお考えだわ!」
盛り上がる王妃と王女を前にジャブリックは理解が追いついていない。
てっきりお叱りを受ける覚悟で来たが、アニエラに称号を与えると最上級の褒め言葉を賜ったばかりか、その腕を見込んで注文を依頼したいと言われたのだ。
「あ、あの光栄に存じます。きっとアニエラも喜ぶことと存じます」
「ではアニエラに改めて城へ来るよう手配して頂戴」
ジャブリックは椅子から立ち上がると、頭が床につくのではないかと心配になるほど腰を深く折って礼をした。
「王妃様から呼び出された」
深刻そうなジャブリックをテューリンが慰める。
「トーソルドの件とは限りませんよ、父上」
「・・・だが、他に思い浮かぶことがない」
ジュールも言っていたように、城でも不貞で辺境に飛ばされた近衛騎士の噂はかなり広まっていた。
「お叱りを受けることになるのか」
騎士爵位を授して独立したとはいえ、家門を率いるのはジャブリックなのだ。
ハァと大きくため息をつくと、城に向かう支度を整えて馬車に乗り込んだ。
重い足取りで王妃からの召喚を告げると、しばらく待たされたあと女官が迎えに来る。
「王妃様とメリレア姫様が庭園にてお待ちしております」
ん?とジャブリックは疑問に思う。
庭園でお咎めを受けるのか?
内々の注意で済ませてくださるおつもりだろうかと小さな期待を胸に、女官のあとをついて行った。
美しい庭園は、王妃の好きな白い花が咲き乱れる透明感漂わせた庭だ。その中の四阿で、王妃とメリレア姫が茶を楽しんでいる。
「ロイリー伯爵、よく来てくれました」
王妃が手招きをする。
ジャブリックは深く礼を捧げると、王妃のいるテーブルの近くに歩み寄った。
「そこにお座りなさいな。見てもらいたいものがあります」
てっきりトーソルドのことだと思っていたジャブリックは、拍子抜けした。
「これを」
テーブルに差し出された一枚のハンカチには素晴らしい刺繍が施されている。
─どこかで見たような?─
「あ!」
「誰が刺繍をしたかおわかり?」
「はい、我が家のアニエラの作と思われます」
「そう!アニエラね。してアニエラはロイリー伯爵とはどのような繋がりかしら」
「はあ、三男に嫁いだ義娘でございます」
ここでもジャブリックは義娘とアニエラを位置づけた。
「そうなの!良き刺繍師を迎えられたわね」
「刺繍師ですか?」
「ええ。これほどの腕前の者はそうはいないわよ、それにこの技法!細やかで美しい上に素晴らしい色彩感覚だわ。刺繍師と呼ばれるのに相応しいと思うから、私がその称号を与えましょう。そうすればアニエラに、私とメリレアの刺繍を依頼しやすくなるわね。受けてもらえるかしら」
「お母様!素晴らしいお考えだわ!」
盛り上がる王妃と王女を前にジャブリックは理解が追いついていない。
てっきりお叱りを受ける覚悟で来たが、アニエラに称号を与えると最上級の褒め言葉を賜ったばかりか、その腕を見込んで注文を依頼したいと言われたのだ。
「あ、あの光栄に存じます。きっとアニエラも喜ぶことと存じます」
「ではアニエラに改めて城へ来るよう手配して頂戴」
ジャブリックは椅子から立ち上がると、頭が床につくのではないかと心配になるほど腰を深く折って礼をした。
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