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第1章
第36話 いざ別邸へ
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「そんな酷い毒、誰がトリーに」
リラが核心に触れた。
「・・・」
誰もが言い淀む中、マーカスが口を開いた。
「毒を入れたのはメイドのセルだが、指示したのはミイヤだ」
「うそ?何を言っているの?嘘よ、う、嘘でしょう?そんなことをするような子じゃないわ」
「そうだな」
マーカスがそう言うと、リラはホッとした顔を見せたが。
「私たちも最初はそう思っていたよ。信じられない、信じたくなかった。だが残念ながらミイヤが犯人で間違いない」
リラが持っていたハンカチを落とした。
「ど、どうして?証拠はあるの?」
「今調べているところだが、ミイヤが部屋に毒薬を隠しているのを確認しているし、トローザー殿下と繋がっていることはわかっている」
だらんと両腕を落とし、ぼんやりと立つリラは、あまりのことに頭が追いつかなくなったようだ。
「うそ・・・何故トローザー殿下と?」
ソイスト侯爵家は王妃派。
つまりゴールダイン第一王子を王太子に推している派閥である。ユートリーがナイジェルスと婚約を結んだことからはっきり舵を切ったのだが、トローザー第三王子の成長とともに、キャロラ妃の政治への過干渉や権力志向が知れてくると、侯爵夫妻は娘の相手がナイジェルス王子で良かったと胸を撫で下ろしたのだった。
避けられない社交はともかく、極力トローザー王子やキャロラ妃とは距離を置いていたはずなのだが。
「ミイヤは、私たちがどれほど愛おしみ可愛がっても、常に不満があったようだ。それにしてもまさか、ユートリーに毒を盛るとはな」
「で、でもいつもトリーを心配して、私と見舞いに」
そう言いかけたリラの頭の中に、ふとミイヤの声が蘇った。
『感染?しないわよ、するわけないじゃない!』
─何故あの時、あんなことを言ったのかしら。ユートリーがどうして倒れたのか、原因がわからないと聞いていたのに。感染するわけがない?感染しないと知っていた、それは何故?─
記憶を遡り、聞いていた言葉を整理していくと、どうやっても一つの結論に辿り着く。
「・・・ゆ・・るさ・・ない」
低い思い詰めた声が、リラのものだと気づいたサルジャンは寒気がした。
体から視えない氣を発しているような、これほど怒った母を見たのは、人生で初めてだろう。
「私のユートリーを害するなんて許さない」
顔を上げたリラは、怒りに顔を赤く染め、手を握りしめて、今にも叫び出しそうだ。
「お母様落ち着いてください、今はミイヤに怒りをぶつける時ではありませんわ。ナイジェルス様の襲撃と繋がっているかもしれないのですから。木ではなく森を見て動きましょう」
狙われたユートリー本人に諌められているリラに、やはりギリギリまで秘密にしていて正解だったと皆が思った。
「お母様って本当にわかりやすいですわねえ。悪だくみは絶対にできませんわ」
うふふとうれしそうにユートリーが笑うと、つられてしかたなさそうにリラも笑う。
「そんなお母様にお願いがございます。これから私、儚くなったふりを致しますの。ほら、これを使って棺を偽装するんですのよ」
蝋で作った、やせ衰えて絶命したユートリーの顔を、にっこにこの本人が両手で持ち上げて見せると。
ひっ!と呻いたリラはあまりに精巧なそれに、ユートリーを失う想像をして胸を押さえる。
「まだミイヤに知られるわけには行かないのです。だからお母様は私が儚くなったショックで倒れてしまい、葬儀にも立ち会えそうにないほどだから別邸で療養なさるのです。よろしいでしょうか?」
「・・・そうね。私はすぐに顔に出てしまうし、今ミイヤに会ったら気持ちが抑えられる自信はないわ。計画の邪魔になるなら別邸でもどこでも隠れていることにする」
リラの承諾を得ることができ、蝋人形を身代わりに棺に詰めたユートリーとリラは別邸へと逃れて行った。
リラが核心に触れた。
「・・・」
誰もが言い淀む中、マーカスが口を開いた。
「毒を入れたのはメイドのセルだが、指示したのはミイヤだ」
「うそ?何を言っているの?嘘よ、う、嘘でしょう?そんなことをするような子じゃないわ」
「そうだな」
マーカスがそう言うと、リラはホッとした顔を見せたが。
「私たちも最初はそう思っていたよ。信じられない、信じたくなかった。だが残念ながらミイヤが犯人で間違いない」
リラが持っていたハンカチを落とした。
「ど、どうして?証拠はあるの?」
「今調べているところだが、ミイヤが部屋に毒薬を隠しているのを確認しているし、トローザー殿下と繋がっていることはわかっている」
だらんと両腕を落とし、ぼんやりと立つリラは、あまりのことに頭が追いつかなくなったようだ。
「うそ・・・何故トローザー殿下と?」
ソイスト侯爵家は王妃派。
つまりゴールダイン第一王子を王太子に推している派閥である。ユートリーがナイジェルスと婚約を結んだことからはっきり舵を切ったのだが、トローザー第三王子の成長とともに、キャロラ妃の政治への過干渉や権力志向が知れてくると、侯爵夫妻は娘の相手がナイジェルス王子で良かったと胸を撫で下ろしたのだった。
避けられない社交はともかく、極力トローザー王子やキャロラ妃とは距離を置いていたはずなのだが。
「ミイヤは、私たちがどれほど愛おしみ可愛がっても、常に不満があったようだ。それにしてもまさか、ユートリーに毒を盛るとはな」
「で、でもいつもトリーを心配して、私と見舞いに」
そう言いかけたリラの頭の中に、ふとミイヤの声が蘇った。
『感染?しないわよ、するわけないじゃない!』
─何故あの時、あんなことを言ったのかしら。ユートリーがどうして倒れたのか、原因がわからないと聞いていたのに。感染するわけがない?感染しないと知っていた、それは何故?─
記憶を遡り、聞いていた言葉を整理していくと、どうやっても一つの結論に辿り着く。
「・・・ゆ・・るさ・・ない」
低い思い詰めた声が、リラのものだと気づいたサルジャンは寒気がした。
体から視えない氣を発しているような、これほど怒った母を見たのは、人生で初めてだろう。
「私のユートリーを害するなんて許さない」
顔を上げたリラは、怒りに顔を赤く染め、手を握りしめて、今にも叫び出しそうだ。
「お母様落ち着いてください、今はミイヤに怒りをぶつける時ではありませんわ。ナイジェルス様の襲撃と繋がっているかもしれないのですから。木ではなく森を見て動きましょう」
狙われたユートリー本人に諌められているリラに、やはりギリギリまで秘密にしていて正解だったと皆が思った。
「お母様って本当にわかりやすいですわねえ。悪だくみは絶対にできませんわ」
うふふとうれしそうにユートリーが笑うと、つられてしかたなさそうにリラも笑う。
「そんなお母様にお願いがございます。これから私、儚くなったふりを致しますの。ほら、これを使って棺を偽装するんですのよ」
蝋で作った、やせ衰えて絶命したユートリーの顔を、にっこにこの本人が両手で持ち上げて見せると。
ひっ!と呻いたリラはあまりに精巧なそれに、ユートリーを失う想像をして胸を押さえる。
「まだミイヤに知られるわけには行かないのです。だからお母様は私が儚くなったショックで倒れてしまい、葬儀にも立ち会えそうにないほどだから別邸で療養なさるのです。よろしいでしょうか?」
「・・・そうね。私はすぐに顔に出てしまうし、今ミイヤに会ったら気持ちが抑えられる自信はないわ。計画の邪魔になるなら別邸でもどこでも隠れていることにする」
リラの承諾を得ることができ、蝋人形を身代わりに棺に詰めたユートリーとリラは別邸へと逃れて行った。
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