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第1章
第21話 王子、荷馬車に隠れる
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ビブラスは荷馬車をカタカタと走らせ、翌日夕方にナイジェルスの潜伏する森に到着した。
「ピーッピッピッピッ」
合図の口笛を吹くと、森の中から同じように口笛が聞こえる。
「よし、無事でいらっしゃるな」
もし答えがなければ、追手が来て次の潜伏先に向かったことになる。
安堵したビブラスは、隠れ家に馬車を進めた。途中、農民から藁と着古した服を買い足して、荷台は服を隠した藁で溢れている。
「只今戻りました」
「うむ、ご苦労」
「こちらを、あ、この暗がりでは読めないか」
ソイスト侯爵からの書状を渡そうとして、初めて気がついた。
「そうだな。月明かりは、書くことは何とかなっても読むのはきついな。口頭で頼む」
「運良く侯爵家暗部の者と早々に出会うことができまして、無事連絡が取れました。落ち合うのは明日、あの古小屋にて」
「ではすぐに出立しなければならないな」
話の行く先に聞き耳を立てていた侍従や護衛たちが一斉に動き出した。
皆、ビブラスが買い集めてきた服に着替え、山積みの藁の一番下に着ていた服を隠し入れ、痕跡を残さぬように焚き火の跡を徹底的に散らした。そして最低限の護衛と侍従は荷馬車に、他の者はナイジェルス王子と馬を駆る。
「先に行く、気をつけて参れよ」
後続の侍従たちに気遣いを見せたあと、その背はどんどんと小さく遠ざかって行った。
サルジャンはマーカスの立てた計画を遂行するため、ジュランたちを連れて別邸に来ていた。
侯爵家の緊急避難先として密かに管理されているこの別邸は、領地の森の奥まったところにある。管理人はマーカスの乳兄弟だったパーミル男爵で、森の道は様々な目隠しがあり、初めて来た者にはその道を見つけることはできないだろう。今ここより安全と言えるところはないと考え、ナイジェルス王子を匿う準備に入った。
家族でこのことを知るのは、侯爵のマーカスと後継者のサルジャンのみ。万が一にでもミイヤに察知されてはならぬと、ユートリーにさえ知らせずに動き始めていた。
サルジャンが別邸を整えた頃、ニイズはナイジェルスたちとの合流地点に向かっていた。
ソイスト侯爵家に縁のある商会に幌馬車を引かせ、約束の場所で無事落ち合う。
「お待たせして申し訳こざいませんでした、キイス様」
「ニーザー様!お待ちしておりました。一昨日は良い取引をさせていただき、お礼申し上げます」
町と町の中間にある街道上の広場では
商人同士の取引がよく見受けられる。今のビブラスとニイズは、道中で待ち合わせていたごく普通の商人のやりとりにしか見えない。
と、ビブラスとニイズに緊張が走る。
捜索に当たる騎士団が見えたのだ。
一呼吸すると、商人らしい如才ない笑顔のニイズがよく通る声で言った。
「それでは品物を見せてくださいますか?」
馬に乗った数人の騎士がちらりと視線を寄越したが、荷馬車から粗末な服を着た男が飛び降り、かごに詰め込まれたカボチャや芋を持って運び始めると興味を失ったように通り過ぎた。
「おお、いいですね!色艶も大きさも申し分ない。約束の値段で買い取りましょう。しかし思ったより多いのですが」
「はい、多く収穫できましたので、よろしければこちらもいかかでしょうか」
「この品質ならすぐに売れると思いますが、私どもの馬車は既に荷物があるので、こんなにはとても乗せ切れませんなあ」
近くを通った商人が馬車の速度を落としてじろじろと見ている。
「では私の荷馬車で途中までお送りしましょう。このままついて行かせますので」
視線を送っていた商人は、入る余地がなさそうだとわかると馬に鞭を当てて行ってしまった。
「ではお言葉に甘えてそうさせて頂こう」
騎士団をやり過ごし、ビブラスは無事ナイジェルスが潜む荷馬車をソイスト侯爵家の手に渡すことに成功した。
煌めく容貌が目立ち過ぎるナイジェルスを安全に移動させるために、近くで荷馬車を買い上げ、荷物の中に潜ませていた。ナイジェルスさえ無事であれば、あとの者はバラけてソイスト領で合流すれば良い。
ビブラスは漸く安堵のため息を吐くことができた。
「ピーッピッピッピッ」
合図の口笛を吹くと、森の中から同じように口笛が聞こえる。
「よし、無事でいらっしゃるな」
もし答えがなければ、追手が来て次の潜伏先に向かったことになる。
安堵したビブラスは、隠れ家に馬車を進めた。途中、農民から藁と着古した服を買い足して、荷台は服を隠した藁で溢れている。
「只今戻りました」
「うむ、ご苦労」
「こちらを、あ、この暗がりでは読めないか」
ソイスト侯爵からの書状を渡そうとして、初めて気がついた。
「そうだな。月明かりは、書くことは何とかなっても読むのはきついな。口頭で頼む」
「運良く侯爵家暗部の者と早々に出会うことができまして、無事連絡が取れました。落ち合うのは明日、あの古小屋にて」
「ではすぐに出立しなければならないな」
話の行く先に聞き耳を立てていた侍従や護衛たちが一斉に動き出した。
皆、ビブラスが買い集めてきた服に着替え、山積みの藁の一番下に着ていた服を隠し入れ、痕跡を残さぬように焚き火の跡を徹底的に散らした。そして最低限の護衛と侍従は荷馬車に、他の者はナイジェルス王子と馬を駆る。
「先に行く、気をつけて参れよ」
後続の侍従たちに気遣いを見せたあと、その背はどんどんと小さく遠ざかって行った。
サルジャンはマーカスの立てた計画を遂行するため、ジュランたちを連れて別邸に来ていた。
侯爵家の緊急避難先として密かに管理されているこの別邸は、領地の森の奥まったところにある。管理人はマーカスの乳兄弟だったパーミル男爵で、森の道は様々な目隠しがあり、初めて来た者にはその道を見つけることはできないだろう。今ここより安全と言えるところはないと考え、ナイジェルス王子を匿う準備に入った。
家族でこのことを知るのは、侯爵のマーカスと後継者のサルジャンのみ。万が一にでもミイヤに察知されてはならぬと、ユートリーにさえ知らせずに動き始めていた。
サルジャンが別邸を整えた頃、ニイズはナイジェルスたちとの合流地点に向かっていた。
ソイスト侯爵家に縁のある商会に幌馬車を引かせ、約束の場所で無事落ち合う。
「お待たせして申し訳こざいませんでした、キイス様」
「ニーザー様!お待ちしておりました。一昨日は良い取引をさせていただき、お礼申し上げます」
町と町の中間にある街道上の広場では
商人同士の取引がよく見受けられる。今のビブラスとニイズは、道中で待ち合わせていたごく普通の商人のやりとりにしか見えない。
と、ビブラスとニイズに緊張が走る。
捜索に当たる騎士団が見えたのだ。
一呼吸すると、商人らしい如才ない笑顔のニイズがよく通る声で言った。
「それでは品物を見せてくださいますか?」
馬に乗った数人の騎士がちらりと視線を寄越したが、荷馬車から粗末な服を着た男が飛び降り、かごに詰め込まれたカボチャや芋を持って運び始めると興味を失ったように通り過ぎた。
「おお、いいですね!色艶も大きさも申し分ない。約束の値段で買い取りましょう。しかし思ったより多いのですが」
「はい、多く収穫できましたので、よろしければこちらもいかかでしょうか」
「この品質ならすぐに売れると思いますが、私どもの馬車は既に荷物があるので、こんなにはとても乗せ切れませんなあ」
近くを通った商人が馬車の速度を落としてじろじろと見ている。
「では私の荷馬車で途中までお送りしましょう。このままついて行かせますので」
視線を送っていた商人は、入る余地がなさそうだとわかると馬に鞭を当てて行ってしまった。
「ではお言葉に甘えてそうさせて頂こう」
騎士団をやり過ごし、ビブラスは無事ナイジェルスが潜む荷馬車をソイスト侯爵家の手に渡すことに成功した。
煌めく容貌が目立ち過ぎるナイジェルスを安全に移動させるために、近くで荷馬車を買い上げ、荷物の中に潜ませていた。ナイジェルスさえ無事であれば、あとの者はバラけてソイスト領で合流すれば良い。
ビブラスは漸く安堵のため息を吐くことができた。
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