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第1章

第21話 王子救援計画

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「ナイジェルス殿下の無事が確認できたと?」

 今話しを聞いたばかりのサルジャンが驚いて聞き返す。

「ああ、襲われた際に賊を返り討ちにして、馬車を捨てたそうだ」
「なるほど、死んだと見せかけて形勢逆転する準備をしたわけですね」
「それより敵が誰かが未だ不明だ。安全に保護し、探らねばならん」
「ユートリーの件も繋がっているなら」

 マーカスとサルジャンは顔を見合わせる。




 昨夜もユートリーの部屋に現れた女は、予想通りミイヤ付きのメイドだった。
またもユートリーの水差しに毒を入れて部屋を出たあと、ミイヤの部屋へと入って行った。

 既にミイヤの部屋の床下にも暗部の者が張り付いている。

「セル。あれ、入れてきたわね?」
「もちろんです。ご指示どおりに水差しに入れてきましたよ。いくら毒の耐性があるといっても、何度も飲めば」
「そうよね。明日の分を先に渡しておくわ」

 そう言って、アクセサリーケースの中底を外し、小さな紙包みを取り出し、手渡す。
床下から写し鏡で見られているとも知らずに。





 マーカスはその報告に、できることなら今すぐにでもミイヤを手打ちにしてやりたいとさえ思ったが。

「いや、お待ち下さい父上。ミイヤが珍しい毒を手に入れられるわけがないのですから、やはりもっと力のある共犯者がいるはずです。ここは忍耐で泳がせて調べましょう。きっとそれこそがナイジェルス殿下を襲った者に違いない」

 サルジャンに諌められて冷静になったマーカスは、キイスと名乗ったナイジェルス王子の使いに返事をしたため、ニイズに走らせた。

 宿屋でキイスの部屋を聞くと、いつもの癖で足音を立てずに階段を上り、ノックをする。

「昼にお会いした庭師でございます」

 ドアを開けたビブラスは、すぐ部屋にニイズを招き入れると、互いに挨拶も名乗りもせず、いきなり用件を切り出す。

「こちらがマーカス・ソイスト侯爵様からの書状です」
「ありがたい!確かめさせて頂く」

 急いで目を走らせると満足そうなホッとした顔を見せ、慌ただしく地図を書き始めた。

「我が主は一度大捜索が済んだ所にいれば、比較的安全とお考えです。ここで落ち合いましょう」
「承知しました。帰館してすぐ準備を整えますので、そうですね、今からだとここにお迎えにあがるのは、どんなに早くともニ日後の夜半になるかと」
「大丈夫です。今は別のところに潜伏しており、私たちにも移動の時間がいりますから」
「敵については、こちらでも調査を始めています。時間があれば良かったのですが、合流してからマーカス様からご説明申し上げるとのことです」
「では二日後に」

地図に落ち合う日時も書き込んで、互いに確認し合う。

「はい、二日後に。くれぐれもお気をつけて」



 キイスと名乗った農夫は、訪ねて来た客を袂を分ったように部屋から追い出すと、商談が成立しなかったからすぐに帰ると宿代を精算して夜も遅いというのに馬車に飛び乗り行ってしまった。

「こんな時間に出ていかなくともねえ」
「宿代をケチるなんてろくなことがないぞ、あいつ」

 宿屋の夫婦に悪態をつかれながら。
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