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第1章

第10話 潜む護衛

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 ユートリーとタラは、ジュランに守られながら、先ほどサルジャンに注意されたいくつかを覚えこんでいるところだ。
 タラが思いついたように言う。

「蓋付きの空き瓶や入れ物を多めに部屋に隠しておきませんか?水や食べ物を捨てずにサルジャン様にお渡しするにしても、移し替える容器が必要ですし、毎回出し入れしては目立ちます。掃除のメイドが触らないようなところに」
「そうね、メイドが触らないところはクローゼットかしら」

 ふたりの会話にジュランが口を挟んだ。

「いいことを思いつきましたよ。クローゼットの床に隠し扉とポケットを作らせましょう!」
「そんなことができるの?」
「はいユートリー様。その隠し扉に入れていただければ、たぶん暗部がそのまま回収できるでしょう」

 ニヤーっと笑うが、癖のない顔のせいかあまり迫力がない。

「ねえジュラン、クローゼットの床下に入れたものをどうやって回収するの?」
「ええ、あとでお教えいたしますね」

 そんな話をしていたら、どこからともなくコンコンと音がして。

 タラが扉を開けたが誰もいない。
またもコンコンと音がする。

「ユートリー様、暗部から護衛が来たようです」
「え?どうして?ジュランにはわかるの?」
「はい、見ていてください」

 つま先で床をコツコツ、コツコツコツと突付くと、同じく韻を踏んだように、コンコン、コンコンコンと音がする。

「わかりましたね?先ほどの答えも。これでもうお二人だけで部屋にいらしても大丈夫です。まずはいくつか合図を覚えてください。もちろん非常時は叫ぶこと!それ以外の、例えばこの相手は警戒をというときはこうして」

 つま先か、または壁をコツっと叩く。

「こんな小さな音で聞こえるの?」
「聞こえますよ、床下に天井の低い隠し部屋があって、そこは特に部屋の音が大きく響いて聞こえるように作られているんです」
「「え!隠し部屋?」」
「あれ、てっきりもうおわかりだと思っていましたよ。部屋によっては壁裏や天井裏にも潜めるスペースがあります」

 なるほど言われてみれば、3階建ての屋敷と言うのに非常に屋根が高いと思っていたと、納得したユートリーが肩を竦めてタラを見ると、タラは両手をあげて降参したようにしてみせた。

「私もタラも何も知らなかったわ。でも屋敷の中でたくさんの私の味方が、あらゆるところから手を伸ばして守ってくれているということを知れたから、とてもうれしく思ってる。
あ!そうだわ、この合図にありがとうはないの?ないなら作ってくれない?」

 その言葉に床下にいたニイズの部下、エルジェはびっくりした。

「じゃあ、こんなのはどうでしょうね」

 ジュランがまたつま先でモールス信号のように音を立てる。

「いいわ、覚えやすくて。それでそちらもよろしいかしら?」

 ユートリーがつま先で音を立ててみると、同じように小さく床下からコンコンと音が聞こえた。

「ねえ、床下にしては何かあったときに間に合わないのではありませんか?」

 タラが疑問を口にすると、ジュランはにっこりと笑いながら首を横に振り

「ちゃんと間に合うように対処がされているから心配はいりませんよ」

そうとだけ告げた。
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