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13話
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貴族学院で。
リリはマリエンザの父である辺境伯からの依頼で、学内の噂をせっせと集めてはまとめて辺境伯に送っている。
マリエンザからときどき届く手紙を読む限り、元気にしているようだ。それはよいが、一体いつになったら帰ってくるのかと、皆やきもきしていた。
「ねえ、リリ様もうお聞きになった?」
「何かありましたの?」
ロリエラがニッと笑って声を潜めた。
「ツィータード様がね、昨日教室であのご令嬢に・・・っておっしゃったのですって」
耳の早いロリエラは、よく何学年の誰がどうだと教えてくれるのだが、それはいままでに聞いたどれより良い噂だった。
「彼女、お顔を真っ赤にされて、大騒ぎされていたそうよ」
「大騒ぎ?」
「ええ。なんておっしゃっていたかしら?ツィータード様は私と想い合っていらっしゃるのに、親が決めた婚約者と別れられずにああ言うしかないなんておかわいそうとかなんとか」
「え?ツィータード様と想い合っていたら、当の本人が触らないでなんておっしゃるかしら?」
リリの疑問に、美しい人さし指をピンと立てたロリエラがくすっと楽しそうに笑う。
「ねえ、おかしいと思うわよね?
実は三日ほど前からかしら?いままでは、ツィータード様とお付き合いされているという噂がまことしやかに囁かれていたけれど、同じクラスの皆様が、ご令嬢が勝手に入れあげて追いかけ回しているだけなんじゃないかというお声も聞かれるようになったそうなのよ。さて、真実はいかに?」
くすくすと、笑いが止まらない。
「ああ!彼女がツィータード様に、触らないでと言われた瞬間を私も見たかったですわあ」
笑い続けるロリエラをよそに、リリはひとり考え込んだ。
てっきりツィータードは本当にマリエンザを裏切ったと思っていたのだが、そうではないのならあの時、もう少し違う対応ができたかもしれないのに。
「私、幼馴染があのクラスにおりましてね、詳しい話を聞いたんですの」
ロリエラの話は尽きない。
「その幼馴染が言うには、あのご令嬢ってすごくきつくてクラスでも揉め事が多かったそうなのよ。しかもホラ!壊し屋なんて呼ばれるようなご令嬢とは誰も付き合いたくございませんでしょう?」
リリもそれには深く頷く。
「それでね。クラスの誰も相手をしたがらず、委員だった幼馴染とツィータード様がお世話係にさせられていたようなのですわ」
ハッとして、ロリエラを見るとリリの反応に満足したような笑みを浮かべる。
「幼馴染は酷い言いがかりをつけられてご遠慮したそうなのですけど、なにかにつけ問題を起こされるので、お人好しのツィータード様と接する機会が自然と増えたと」
そのとき始業のベルが鳴り響いた。
「ねえ、ロリエラ様!その話は続きがあるの?」
ニーっと笑って「ええ、たっくさん」と言う。
「よかったら今日私の家でお茶でも飲みませんこと?美味しいお菓子を用意させるわ」
「ええ、もちろんよろしくてよ」
「その幼馴染の方もご一緒いただけないかしら?」
「訊いてみますわ」
その日の授業を終えるとリリは迎えの馬車に、ロリエラの馬車で自宅へ戻ることと、三人で茶会をするので菓子を用意しておくことを伝えて先に戻らせ、ロリエラが幼馴染カーラ・チトア子爵令嬢を連れてくるのを車寄せで待っていた。
向こうから黒髪の美しい令嬢がひとり、歩いてくるのが見える。噂のダーマ・エスカだ。
リリは見ていることが相手に気取られないよう注意しながら観察していると、もうひとり見かけない令息がやって来て、ダーマに声をかけた。
「なあ、ツィータードなんかやめて、俺と王都で遊んでいかないか」
声が大きいおかげで、少し離れたところにいるリリにもよく聞こえてくる。
「はあっ?何言ってるの?あんたなんかツィータード様と比べ物にならないわ。ふざけないで」
「ふざけてるのはそっちだろう?そのツィータード様は、れっきとした婚約者様がいらっしゃるぞ」
「ツィータード様は、親に押し付けられた婚約なんてお嫌なのよ。私が本当の真実の相手。いつかあんたにもわかるわ」
フンっと鼻を鳴らして、振り切るとエスカ家の馬車に乗り込んで行ってしまったが。
「ふむ、令嬢のほうは本気らしいな」
さっきの軽口がガラリと変わり、何かをメモして立ち去った。
なに、あの人?何か調べているような。
リリの目に間違いはなかった。
ムリエルガ家が送り込んだ調査員ベルディは、学生ではない。卒業して間もないため卒業生として堂々と潜入している。制服と似たような格好で、学内をぶらぶらしても誰にも見咎められない。
辺境伯家ではリリと同じように何人か、マリエンザに近い生徒から情報を集めているが、それとは別に調査員も動かして偏りなく調べているのだ。
「リリ様」
ロリエラがカーラを伴いやって来る。その声に気づいたベルディは、リリに見られていることに気づき、すぅっと姿を消した。
リリはマリエンザの父である辺境伯からの依頼で、学内の噂をせっせと集めてはまとめて辺境伯に送っている。
マリエンザからときどき届く手紙を読む限り、元気にしているようだ。それはよいが、一体いつになったら帰ってくるのかと、皆やきもきしていた。
「ねえ、リリ様もうお聞きになった?」
「何かありましたの?」
ロリエラがニッと笑って声を潜めた。
「ツィータード様がね、昨日教室であのご令嬢に・・・っておっしゃったのですって」
耳の早いロリエラは、よく何学年の誰がどうだと教えてくれるのだが、それはいままでに聞いたどれより良い噂だった。
「彼女、お顔を真っ赤にされて、大騒ぎされていたそうよ」
「大騒ぎ?」
「ええ。なんておっしゃっていたかしら?ツィータード様は私と想い合っていらっしゃるのに、親が決めた婚約者と別れられずにああ言うしかないなんておかわいそうとかなんとか」
「え?ツィータード様と想い合っていたら、当の本人が触らないでなんておっしゃるかしら?」
リリの疑問に、美しい人さし指をピンと立てたロリエラがくすっと楽しそうに笑う。
「ねえ、おかしいと思うわよね?
実は三日ほど前からかしら?いままでは、ツィータード様とお付き合いされているという噂がまことしやかに囁かれていたけれど、同じクラスの皆様が、ご令嬢が勝手に入れあげて追いかけ回しているだけなんじゃないかというお声も聞かれるようになったそうなのよ。さて、真実はいかに?」
くすくすと、笑いが止まらない。
「ああ!彼女がツィータード様に、触らないでと言われた瞬間を私も見たかったですわあ」
笑い続けるロリエラをよそに、リリはひとり考え込んだ。
てっきりツィータードは本当にマリエンザを裏切ったと思っていたのだが、そうではないのならあの時、もう少し違う対応ができたかもしれないのに。
「私、幼馴染があのクラスにおりましてね、詳しい話を聞いたんですの」
ロリエラの話は尽きない。
「その幼馴染が言うには、あのご令嬢ってすごくきつくてクラスでも揉め事が多かったそうなのよ。しかもホラ!壊し屋なんて呼ばれるようなご令嬢とは誰も付き合いたくございませんでしょう?」
リリもそれには深く頷く。
「それでね。クラスの誰も相手をしたがらず、委員だった幼馴染とツィータード様がお世話係にさせられていたようなのですわ」
ハッとして、ロリエラを見るとリリの反応に満足したような笑みを浮かべる。
「幼馴染は酷い言いがかりをつけられてご遠慮したそうなのですけど、なにかにつけ問題を起こされるので、お人好しのツィータード様と接する機会が自然と増えたと」
そのとき始業のベルが鳴り響いた。
「ねえ、ロリエラ様!その話は続きがあるの?」
ニーっと笑って「ええ、たっくさん」と言う。
「よかったら今日私の家でお茶でも飲みませんこと?美味しいお菓子を用意させるわ」
「ええ、もちろんよろしくてよ」
「その幼馴染の方もご一緒いただけないかしら?」
「訊いてみますわ」
その日の授業を終えるとリリは迎えの馬車に、ロリエラの馬車で自宅へ戻ることと、三人で茶会をするので菓子を用意しておくことを伝えて先に戻らせ、ロリエラが幼馴染カーラ・チトア子爵令嬢を連れてくるのを車寄せで待っていた。
向こうから黒髪の美しい令嬢がひとり、歩いてくるのが見える。噂のダーマ・エスカだ。
リリは見ていることが相手に気取られないよう注意しながら観察していると、もうひとり見かけない令息がやって来て、ダーマに声をかけた。
「なあ、ツィータードなんかやめて、俺と王都で遊んでいかないか」
声が大きいおかげで、少し離れたところにいるリリにもよく聞こえてくる。
「はあっ?何言ってるの?あんたなんかツィータード様と比べ物にならないわ。ふざけないで」
「ふざけてるのはそっちだろう?そのツィータード様は、れっきとした婚約者様がいらっしゃるぞ」
「ツィータード様は、親に押し付けられた婚約なんてお嫌なのよ。私が本当の真実の相手。いつかあんたにもわかるわ」
フンっと鼻を鳴らして、振り切るとエスカ家の馬車に乗り込んで行ってしまったが。
「ふむ、令嬢のほうは本気らしいな」
さっきの軽口がガラリと変わり、何かをメモして立ち去った。
なに、あの人?何か調べているような。
リリの目に間違いはなかった。
ムリエルガ家が送り込んだ調査員ベルディは、学生ではない。卒業して間もないため卒業生として堂々と潜入している。制服と似たような格好で、学内をぶらぶらしても誰にも見咎められない。
辺境伯家ではリリと同じように何人か、マリエンザに近い生徒から情報を集めているが、それとは別に調査員も動かして偏りなく調べているのだ。
「リリ様」
ロリエラがカーラを伴いやって来る。その声に気づいたベルディは、リリに見られていることに気づき、すぅっと姿を消した。
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