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恋は迷路の中

最終話

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半年はあっという間に過ぎ去った。

サリバー商会が金と力を使いまくった豪華な結婚式をやると言うと、セインが半泣きでそんなことやめてくれと頼み込み、しかたなくサリバー家としてはだいぶささやかな結婚式を行った。

その後、サリバー邸には新たに調合室が作られ、セインは森の家とサリバー邸を行ったり来たりしている。
実は今若夫婦が暮らしているのは森の小屋である。
ブラスがサリバー邸に越してくることを勧めたが、気持ち的に森の小屋で過ごす時間が必要だと、なんとエザリアも一緒に森の小屋に住んでいるのだ。

「あんな小屋では狭いだろう!」
「いいえ。むしろ掃除が簡単で助かるわ」

そう言う始末である。

あんな小屋とブラスは言ったが、実際のところはセインがしっかりと結界魔法をかけているので、見かけ以上に安全性が高い。
スミルも使用人として住み込んでいるので、ダメとも言えず。

時折小屋に来ては、不便だからとか狭いからとか、いろいろと御託を並べて屋敷に戻ろうと誘うのだが、答えはいつも同じ。
ブラスも素直に、屋敷でエザリアとセインと住むのを楽しみにしていたと言えばいいのだが、結局しょぼくれて屋敷に戻って行く。

「家を継ぐときはしかたないけれど、今はまだここがいいの!」
「わかるんだけど、可哀想だなあブラス様」

スミルの声にエザリアが睨みつける。

「なんでよ!可哀想だったのは私よ。少しはお父様も心細さを味わえばいいの。もう二度とつまらない女に引っかからないように、心してもらいたいわ」
「えっ、いやいや!寂しくなっちゃって余計変なのに釣られちゃうんじゃないですか?」

不吉なことを言うスミルに、それもそうかとエザリアは・・・思い直したりはしない。
ナレスに父を厳重に見張らせて、女が近づいたら徹底的に排除!と命令してあるのだ。


「お義父さんもまだ若いんだから気の毒だよ」

セインまで父の味方をするのかと、エザリアが不貞腐れると、まるで猫をあやすように、セインが頭を撫でてくる。

それが実に頭に馴染み、エザリアはすぐ眠くなってしまうのだ。






すよすよと眠るエザリア。
丸まっているところを見ると、不思議と猫のエザリアが目に浮かぶ。

いなくなったんじゃない。
こうして柔らかな髪に触れれば、いつでも瞼の裏に思い浮かぶのだ。
にゃあとは言わないが、今も好奇心に満ち溢れた水色の瞳が変わらずセインを見つめている。
ぷくぷくとした前足は、白魚のような小さな手になったが、しっかりセインと手を繋ぐことができるようになった。

セインを孤独から救ってくれた小さな白猫は、最愛の女性に姿を変え、これからも柔らかな日差しが降り注ぐ森の小屋で暮らしたいと言うのだ。

「エザリア」

セインが優しく愛おしげにその髪を撫でた。



■□■


本編はこれにて完結です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

閑話2話「パルツカ子爵令息ミヒエルのその後」と「王家vs神殿」を同時更新して終わりとなります。
どちらもエザリアやセインは出てきませんが、あれ気になってたんだよねという回収の回です。
よろしくお願いいたします。
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感想 6

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