124 / 126
恋は迷路の中
最終話
しおりを挟む
半年はあっという間に過ぎ去った。
サリバー商会が金と力を使いまくった豪華な結婚式をやると言うと、セインが半泣きでそんなことやめてくれと頼み込み、しかたなくサリバー家としてはだいぶささやかな結婚式を行った。
その後、サリバー邸には新たに調合室が作られ、セインは森の家とサリバー邸を行ったり来たりしている。
実は今若夫婦が暮らしているのは森の小屋である。
ブラスがサリバー邸に越してくることを勧めたが、気持ち的に森の小屋で過ごす時間が必要だと、なんとエザリアも一緒に森の小屋に住んでいるのだ。
「あんな小屋では狭いだろう!」
「いいえ。むしろ掃除が簡単で助かるわ」
そう言う始末である。
あんな小屋とブラスは言ったが、実際のところはセインがしっかりと結界魔法をかけているので、見かけ以上に安全性が高い。
スミルも使用人として住み込んでいるので、ダメとも言えず。
時折小屋に来ては、不便だからとか狭いからとか、いろいろと御託を並べて屋敷に戻ろうと誘うのだが、答えはいつも同じ。
ブラスも素直に、屋敷でエザリアとセインと住むのを楽しみにしていたと言えばいいのだが、結局しょぼくれて屋敷に戻って行く。
「家を継ぐときはしかたないけれど、今はまだここがいいの!」
「わかるんだけど、可哀想だなあブラス様」
スミルの声にエザリアが睨みつける。
「なんでよ!可哀想だったのは私よ。少しはお父様も心細さを味わえばいいの。もう二度とつまらない女に引っかからないように、心してもらいたいわ」
「えっ、いやいや!寂しくなっちゃって余計変なのに釣られちゃうんじゃないですか?」
不吉なことを言うスミルに、それもそうかとエザリアは・・・思い直したりはしない。
ナレスに父を厳重に見張らせて、女が近づいたら徹底的に排除!と命令してあるのだ。
「お義父さんもまだ若いんだから気の毒だよ」
セインまで父の味方をするのかと、エザリアが不貞腐れると、まるで猫をあやすように、セインが頭を撫でてくる。
それが実に頭に馴染み、エザリアはすぐ眠くなってしまうのだ。
すよすよと眠るエザリア。
丸まっているところを見ると、不思議と猫のエザリアが目に浮かぶ。
いなくなったんじゃない。
こうして柔らかな髪に触れれば、いつでも瞼の裏に思い浮かぶのだ。
にゃあとは言わないが、今も好奇心に満ち溢れた水色の瞳が変わらずセインを見つめている。
ぷくぷくとした前足は、白魚のような小さな手になったが、しっかりセインと手を繋ぐことができるようになった。
セインを孤独から救ってくれた小さな白猫は、最愛の女性に姿を変え、これからも柔らかな日差しが降り注ぐ森の小屋で暮らしたいと言うのだ。
「エザリア」
セインが優しく愛おしげにその髪を撫でた。
■□■
本編はこれにて完結です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
閑話2話「パルツカ子爵令息ミヒエルのその後」と「王家vs神殿」を同時更新して終わりとなります。
どちらもエザリアやセインは出てきませんが、あれ気になってたんだよねという回収の回です。
よろしくお願いいたします。
サリバー商会が金と力を使いまくった豪華な結婚式をやると言うと、セインが半泣きでそんなことやめてくれと頼み込み、しかたなくサリバー家としてはだいぶささやかな結婚式を行った。
その後、サリバー邸には新たに調合室が作られ、セインは森の家とサリバー邸を行ったり来たりしている。
実は今若夫婦が暮らしているのは森の小屋である。
ブラスがサリバー邸に越してくることを勧めたが、気持ち的に森の小屋で過ごす時間が必要だと、なんとエザリアも一緒に森の小屋に住んでいるのだ。
「あんな小屋では狭いだろう!」
「いいえ。むしろ掃除が簡単で助かるわ」
そう言う始末である。
あんな小屋とブラスは言ったが、実際のところはセインがしっかりと結界魔法をかけているので、見かけ以上に安全性が高い。
スミルも使用人として住み込んでいるので、ダメとも言えず。
時折小屋に来ては、不便だからとか狭いからとか、いろいろと御託を並べて屋敷に戻ろうと誘うのだが、答えはいつも同じ。
ブラスも素直に、屋敷でエザリアとセインと住むのを楽しみにしていたと言えばいいのだが、結局しょぼくれて屋敷に戻って行く。
「家を継ぐときはしかたないけれど、今はまだここがいいの!」
「わかるんだけど、可哀想だなあブラス様」
スミルの声にエザリアが睨みつける。
「なんでよ!可哀想だったのは私よ。少しはお父様も心細さを味わえばいいの。もう二度とつまらない女に引っかからないように、心してもらいたいわ」
「えっ、いやいや!寂しくなっちゃって余計変なのに釣られちゃうんじゃないですか?」
不吉なことを言うスミルに、それもそうかとエザリアは・・・思い直したりはしない。
ナレスに父を厳重に見張らせて、女が近づいたら徹底的に排除!と命令してあるのだ。
「お義父さんもまだ若いんだから気の毒だよ」
セインまで父の味方をするのかと、エザリアが不貞腐れると、まるで猫をあやすように、セインが頭を撫でてくる。
それが実に頭に馴染み、エザリアはすぐ眠くなってしまうのだ。
すよすよと眠るエザリア。
丸まっているところを見ると、不思議と猫のエザリアが目に浮かぶ。
いなくなったんじゃない。
こうして柔らかな髪に触れれば、いつでも瞼の裏に思い浮かぶのだ。
にゃあとは言わないが、今も好奇心に満ち溢れた水色の瞳が変わらずセインを見つめている。
ぷくぷくとした前足は、白魚のような小さな手になったが、しっかりセインと手を繋ぐことができるようになった。
セインを孤独から救ってくれた小さな白猫は、最愛の女性に姿を変え、これからも柔らかな日差しが降り注ぐ森の小屋で暮らしたいと言うのだ。
「エザリア」
セインが優しく愛おしげにその髪を撫でた。
■□■
本編はこれにて完結です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
閑話2話「パルツカ子爵令息ミヒエルのその後」と「王家vs神殿」を同時更新して終わりとなります。
どちらもエザリアやセインは出てきませんが、あれ気になってたんだよねという回収の回です。
よろしくお願いいたします。
10
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説
元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)
モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。
そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!?
「わん!」(なんでよ!)
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」後妻はいつもそう言っていましたが……。
四季
恋愛
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」
父と結婚した後妻エルヴィリアはいつもそう言っていましたが……。
私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです
風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。
婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。
そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!?
え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!?
※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。
※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる