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呪われたエザリア

秘密の御礼

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 ジョルは護衛に派遣されたロンメルンたちと、かごに入ったエザリアを連れて馬車に乗り込み、サリバー男爵邸に向かっていた。

「さあ。もうじき着くぞ」

 籠の蓋が開けられたと思うと、セインとは違う、もっと大雑把な動きでジョルが白猫の頭をポンポンと撫でる。



 セインはずっと店を休んでいたからと、今日は森の店の前でエザリアを見送った。
馬車のガタガタという音が聞こえなくなるまで、ずっと。

 いままで護衛四人とエザリアと自分が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた小屋は、がらんとして妙に広く感じられ、セインは知らず知らず何度もため息を吐き出している。

「犬か猫でも飼おうかな・・・」

 エザリアの真実を知り、彼女がいつかここを出ていく日が来たらと、最初に考えたことだ。
 賑やかさを知って、もうさみしさに耐える自信がなかった。

「ギルドに行ったときに聞いてみよう」



 振り返ると、いつも白猫が座っていたクッションが主を失い、さみしそうに置かれていた。








 エザリアは今サリバー男爵家に着いたところだ。

 ジョルが恭しくかごを差し出すと、

「お嬢様ーっ!」

あちこちからメイドたちの悲鳴があがる。


 籠を受け取り覗き込んだ執事は、愕然とした顔だ。

「にゃ」

(ゼレード!よかった、戻ったのね)

シュマーに辞めさせられた執事のひとりで、彼の顔を見たことで、エザリアの緊張は急速に緩んでいった。

「お、おじょさま?本当にこの白猫がエザリアお嬢様なのですか?」

 猫とジョルを交互に見て、誰に尋ねるでもなく呟くゼレードに、エザリアはこくりと頷いてみせる。

「うっ、ううう」

 経験豊富な執事だが、感情が溢れて涙がとめどもなくこぼれ落ちる。

「そんな、なんとお可哀想に!」

 執事の涙に、遠巻きにしていた使用人たちも次々にかごを覗き、泣き始めてしまう。


 ジョルたちは不思議な気持ちだった。
 自分たちは事前に聞いていてもこれがエザリア・サリバーだとはなかなか信じられなかったというのに、使用人たちはあっという間にそれを受け入れ、彼女のためにおいおいと泣いているのだから。


「あの」

 どうしたものかとジョルが声をかけると、ゼレードがハッとし、かごをメイドのメルに渡して深々と頭を下げた。

「此の度はエザリアお嬢様をお守りくださり、どれほどのお礼の言葉をお伝えしても足りない程でございます。改めまして当家主のブラス・サリバー男爵より騎士団と魔導師団の皆様方に御礼に伺うと存じますが」

 ゼレードが合図を送ると、使用人が封筒をいくつか持って小走りにやってくる。

「本日は一先ずこちらをお納めくださいませ」
「い、いや、我らはあくまで職務で、こんなものは受け取れない」
「いえ、ほんの気持ちでございます。お受け取り頂けねば、後に主に叱られますゆえ何卒・・・」

 押し付け合う執事と騎士に決着をつけたのは、メイドのメルにかごごと抱かれていた白猫だ。
 前足をかごの縁に乗せで顔を出すと、ジョルに声をかけ、くいっと顎をあげて「持っていけ」と仕草で見せた。

「エザリア?」
「にゃ」

 またくいっくいっと顎をあげる。

 騎士ふたりと魔導師ふたりは微妙な顔になった。
それもそうだ。猫に礼をやるから持っていけと言われる画が、なんとも情けないような。

「にゃっ」

 ともに暮らす中、僅かな猫の鳴き声の違いがわかるようになっていたジョルの視線が泳ぐ。

語尾に苛つきを感じたのだ。

「じゃ、じゃあありがたく頂戴致します」

 魔導師たちは、たった今「職務だから」と断ったその口で、貰うと翻意したジョルに「えっ」と声を漏らす。

(もらうのか?もらっちゃうのか!)

 白猫が今度は魔導師たちを見た。
ジョルにしてみせたように、顎をあげる。

 確かにその仕草は、やるから早く持っていけと言っていた。
水色の瞳からの圧もすごい。

「で、では、我らもあ、ありがたく頂戴致しますっ」

 結局四人の護衛はサリバー男爵家が用意した結構な厚みのある謝礼を受け取り、それは各々が所属する団には秘匿されたのだった。
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