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呪われたエザリア
トラップ
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スミルは簡単に手紙の補足をすると、まだ混乱していて、話しを聞き足りないと喚くルフリックを置いて騎士団へ向かった。
何度も騎士団に顔を出しているので、門番たちともすっかり親しくなり、今は顔パスでゲートを通れるほどである。
「こんにちは。約束はしていないが、至急団長様に面会したい。至急の用件だ」
「今確認させる」
一分も経たずに奥からイグルスが顔を出し、手招きした。
「至急と聞いたがどうした」
スミルを執務室に入れると、厚い扉をイグルスが閉じる。
「まずはこれを」
ブラスがスミル宛てに書いた手紙だ。
しかしそれには騎士団に知らせてほしいことがいくつか書かれていたので、躊躇うことなくイグルスに渡した。
読み終えたイグルスに、スミルは話を続ける。
「今日シュマーが店に来て、実権渡せみたいなことを言い出したんですが」
「え?まさか渡してないだろうな?」
「大丈夫です。うちの副商会長が撃退しましたから。それよりその時シュマーが言ったんです」
「ロリンが戻ってきたら」というシュマーの捨て台詞である。
イグルスの眉が上がる。
「ロリン?それはメイドじゃなかったか?」
屋敷も商会も、すべての使用人は調査済である。
「そうです。それも古くからいるメイドではありません。なのにロリンが戻ってきたらみていろなんて、まるでロリンが誰かを酷い目にあわせるようじゃないですか?」
「たしかにそう聞こえるな」
イグルスはロリンの調査資料を引き出しから探し出し、目を通す。
「リルケ出身、地元の男爵の紹介状で半年前にサリバー男爵家に雇われた。黒髪茶目。リルケには両親と弟がおり、皆健在」
身上書にはおかしなところはない。
だが聞いた話から鑑みるに、このどこかに偽りが潜んでいるはずだ。
そもそも入って半年ほどのメイド如きが、商会の使用人に歯を剥けるわけがない。
使用人たちを調べたのは騎士団なので、担当した者を呼び出すと、すぐにノックの音が響いた。
「コフィ・デルです」
「入れ」
机の上に書類が並んでいる。
「これを調べたのはコフィだな?何か気づいたことはなかったか?」
「失礼します」
書類を手にしたコフィが、読み進めるうちに表情が変化していくことにイグルスは気がついた。
「コフィ?」
「はい」
「どうかしたか?」
「それが、よく思い出せなくて」
「はっ?」
イグルスは耳を疑う。
つい先日、責任を持って調べたはずのことがよく思い出せないなどと、誉れ高い王立騎士団の騎士にあり得ることではない。
「そこに座って、何が思い出せないのか、よく考えてみてくれ。リルケには行ったんだな?」
「はい。リルケのキュームという町に行き、ロリン一家が住んでいたという家を訪ねました」
「うむ、ではロリンの両親や弟に会うことが出来たのだろう?どんな人たちだった?」
「・・・・・」
コフィはこめかみを揉みながら考え込んでいる。
「だめだ。どうしても思い出せないんです」
「コフィ、おまえ調査のときに状態異常の魔道具を持って行っただろうな?」
「え?」
顔を上げたコフィは、バツの悪そうな顔を見せた。
「おいまさか、何の準備もなく行ったなんて言わないだろうな?」
「あの・・・」
最後まで待つことなく、イグルスが執務室のドアを開け、一際大きな声で叫ぶ。
「誰か!魔導師団に行って魔導師を呼んできてくれ、大至急だっ」
振り返ると今度はコフィに告げた。
「おまえは命令違反により拘束される」
目の前で怒涛のようにことが動くのを見ていたスミルは、目を白黒している。
「あの、これは一体」
「あのバカ、あれほど言ったのに呪術除けもしないで乗り込みやがった!たぶんリルケのロリンの家と言われる所に踏み込むと、何らかの術が発動するトラップがあるんだろう。
それでまるで調査したかのような報告をあげたと考えられる」
スミルは背中に冷たいものが流れていくのを感じた。
何度も騎士団に顔を出しているので、門番たちともすっかり親しくなり、今は顔パスでゲートを通れるほどである。
「こんにちは。約束はしていないが、至急団長様に面会したい。至急の用件だ」
「今確認させる」
一分も経たずに奥からイグルスが顔を出し、手招きした。
「至急と聞いたがどうした」
スミルを執務室に入れると、厚い扉をイグルスが閉じる。
「まずはこれを」
ブラスがスミル宛てに書いた手紙だ。
しかしそれには騎士団に知らせてほしいことがいくつか書かれていたので、躊躇うことなくイグルスに渡した。
読み終えたイグルスに、スミルは話を続ける。
「今日シュマーが店に来て、実権渡せみたいなことを言い出したんですが」
「え?まさか渡してないだろうな?」
「大丈夫です。うちの副商会長が撃退しましたから。それよりその時シュマーが言ったんです」
「ロリンが戻ってきたら」というシュマーの捨て台詞である。
イグルスの眉が上がる。
「ロリン?それはメイドじゃなかったか?」
屋敷も商会も、すべての使用人は調査済である。
「そうです。それも古くからいるメイドではありません。なのにロリンが戻ってきたらみていろなんて、まるでロリンが誰かを酷い目にあわせるようじゃないですか?」
「たしかにそう聞こえるな」
イグルスはロリンの調査資料を引き出しから探し出し、目を通す。
「リルケ出身、地元の男爵の紹介状で半年前にサリバー男爵家に雇われた。黒髪茶目。リルケには両親と弟がおり、皆健在」
身上書にはおかしなところはない。
だが聞いた話から鑑みるに、このどこかに偽りが潜んでいるはずだ。
そもそも入って半年ほどのメイド如きが、商会の使用人に歯を剥けるわけがない。
使用人たちを調べたのは騎士団なので、担当した者を呼び出すと、すぐにノックの音が響いた。
「コフィ・デルです」
「入れ」
机の上に書類が並んでいる。
「これを調べたのはコフィだな?何か気づいたことはなかったか?」
「失礼します」
書類を手にしたコフィが、読み進めるうちに表情が変化していくことにイグルスは気がついた。
「コフィ?」
「はい」
「どうかしたか?」
「それが、よく思い出せなくて」
「はっ?」
イグルスは耳を疑う。
つい先日、責任を持って調べたはずのことがよく思い出せないなどと、誉れ高い王立騎士団の騎士にあり得ることではない。
「そこに座って、何が思い出せないのか、よく考えてみてくれ。リルケには行ったんだな?」
「はい。リルケのキュームという町に行き、ロリン一家が住んでいたという家を訪ねました」
「うむ、ではロリンの両親や弟に会うことが出来たのだろう?どんな人たちだった?」
「・・・・・」
コフィはこめかみを揉みながら考え込んでいる。
「だめだ。どうしても思い出せないんです」
「コフィ、おまえ調査のときに状態異常の魔道具を持って行っただろうな?」
「え?」
顔を上げたコフィは、バツの悪そうな顔を見せた。
「おいまさか、何の準備もなく行ったなんて言わないだろうな?」
「あの・・・」
最後まで待つことなく、イグルスが執務室のドアを開け、一際大きな声で叫ぶ。
「誰か!魔導師団に行って魔導師を呼んできてくれ、大至急だっ」
振り返ると今度はコフィに告げた。
「おまえは命令違反により拘束される」
目の前で怒涛のようにことが動くのを見ていたスミルは、目を白黒している。
「あの、これは一体」
「あのバカ、あれほど言ったのに呪術除けもしないで乗り込みやがった!たぶんリルケのロリンの家と言われる所に踏み込むと、何らかの術が発動するトラップがあるんだろう。
それでまるで調査したかのような報告をあげたと考えられる」
スミルは背中に冷たいものが流れていくのを感じた。
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