【完結】呪われ令嬢、猫になる

やまぐちこはる

文字の大きさ
上 下
39 / 126
呪われたエザリア

エザリアの気持ち

しおりを挟む
 ジョルの話に耳を澄ませた白猫、エザリア・サリバーは、期待が高まっていた。
 今までにスミルやセインが話したどの話より、具体的に自分が人間に戻れる可能性を感じさせる。

 父が戻ったら大神殿に使いを出してもらい、解呪してもらうか、または騎士団が魔導師を捕まえれば。

 (そうすればこの姿ともお別れだわ!)

 ところが何故か、その考えはエザリアを浮き立たせることはなかった。

 (そうしたらもうここにはいられなくなるのね)

 胸がギュッと締めつけられる。

 やさしく頭を撫でてくれセインの大きな手。
エザリアが好きなものを選んで作ってくれる美味しい料理。
食後に居間でうとうとすると、そっと抱き上げてクッションに乗せてくれる気遣い。

 何よりも、猫の姿から本当の自分を見出し、力になってくれた頼りがいのある男性だ。

 離れなければならないと思うと、たまらなく悲しくなった。



「にゃあん」

「なんだい?どうしたの、眠くなった?」


 腰を曲げてにこにこと水色の瞳を覗き込み、頭を撫でる。

 その仕草のすべてがエザリアは大好きだった。



(だ、い好き?・・・え?)

 気づいてしまったエザリア。

 もし今、人の姿だったら、真っ赤な顔をしていただろう。
思わずきょろきょろと周りを見渡すも、誰もエザリアを見ていなかった。

(や、やだ!うそ、私ったら嘘でしょ?)

 自問自答して身をくねらせるも、否定すればするほど意識してしまうのだ。



(でも私まだ猫だし。うん、猫の姿ならそばにいても大丈夫)

 言い聞かせるように、言葉を飲み込んでいく。

 ふと、セインは付き合っている人や婚約者はいないのだろうかと頭に浮かぶと、エザリアの頭の中はそれでいっぱいになってしまった。
 一緒に暮らしてまだ一月も経たないが、それでもセインに女っ気はなかったと思う。
 気になるがしかし、それをわざわざ文字盤で訊ねるのは不自然だ。

 もし自分の呪いが解けなければこのままそばにいられるかもしれない。

 でも、いつかセインに好きな人ができても自分は猫のままそばにいるのだろうか?

(そんなの悲しすぎる)

 エザリアの耳がぺたんと伏せた。
頭を垂れ、背中を丸めた姿は如何にもしょんぼりしたものだ。


「エザリアどうかしたのかい?」


 その姿に誰よりも早く気づくのもセインだ。

 白猫の隣りに座ると、膝の上に抱き上げ背中を撫でてやる。


 日向のようなセインの匂いと温もりに包まれたエザリアは、さっきまでの鬱々した気持ちは少し薄れ、幸せな眠気に満たされていくのだった。


■□■

いつもありがとうございます!
この週末は各一日4話更新します。
よろしくお願いいたします。

「あなたを忘れたい」
「神の眼を持つ少年です。」

こちらもよろ聞くお願いいたします

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

処理中です...