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呪われたエザリア
騎士団長の気づき
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イグルスはまずは国王に謁見を申し入れた。
至急報告すべき重大な懸念事項が発生したと認めると、その日の夕方に城に呼ばれた。
それまでにとシュマーとその連れ子ロズリン、サリバー商会やブラス・サリバー男爵、その実子で男爵家と商会の後継者エザリアについても調べさせた。
勿論呪いの話など気取らせず、密告があったので確認のためという名目で。
短い時間では表面的なことしかわからないが、それでもおかしいと思えることをいくつか見つけた。
まずシュマーの出自が不明なこと。
どこで生まれどこで育ってきたのかまったくわからない。
没落貴族、元貴族などなら廃された後でも貴族籍が残るが痕跡も見つからない。ということは生まれついての平民、平民の中でもかなり低い家の生まれと推察できる。
気づいたら居たと、周辺の人間も言うのに誰も指摘されるまで気づかなかったというのは、その時には既に何らかの精神操作が行われていたと考えるべきか。
だとしたらシュマーは、サリバー家に入り込む前に魔導師と出会い、その力によって国内でも指折りのサリバー商会長夫人の座を掴むために、呪術の力を使ったのかもしれない。
しかしサリバー商会はブラスの一人娘エザリアが後継者として認められており、エザリアがいる限り完全な掌握はできない。
「だからエザリア嬢を呪って猫に?しかし何故猫なんだ?」
無意識にイグルスの口から言葉が漏れ出している。
「誘拐して売り払う・・・は追跡可能だな。
直接害すると遺体が残るから、それが見つかれば死因を調べられてしまう。
猫なら本人は生きていながら誰にも探すことはできない。証拠を残すことなく、後継者を排除できる・・・」
「そうだ!」と呟くと、イグルスは部下を呼んだ。
「お呼びでしょうか」
「ああ。商会や裕福な貴族家で後継者が突然失踪した家がないか調べてほしい。書き置きがあったか、義家族がいればその証言で家出と判断されたものがないかもだ」
「承知しました」
「頼んだぞ」
こうして自分の脳裏に浮かぶあらゆる疑問を整理しながら、調査を手配していく。
ニ時間もすると最後に飛び出した者が戻ってきた。
「団長!ありましたよ」
「見せろ」
それはもう半年も前のこと。
国境沿いで大商会を営むパルツカ子爵家嫡男が書き置きもなく家出、義母の連れ子の義妹が嫡子に収まったというもの。
義妹が元の嫡男に酷く虐められており、我慢できなくなって母に相談。
子爵が領地見回りで不在だったため、ふたりで嫡男に注意を与えたところ、己を恥じた嫡男はその翌日には姿を消したという。
「そっくりだ・・・」
呟いたイグルスは沈痛な表情でこめかみを揉んだ。
「そっくり?何がですか?」
「うむ。いや、まだもう少し調べてからだ。おいミネアール、おまえ子爵家の領地に行ってこの件もう少し調べてきてくれ。行く前に他にもあるか、一応調べてからな」
「はい」
ミネアールと呼ばれた中堅の騎士が団長室を出ていくのを見ながら、イグルスは背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
─もし子爵令息がエザリアのように犬や猫にされていたとしたら、どれほどの絶望感に襲われていることだろうか─
勿論本当に家出の可能性だってないわけではない。むしろ家出であってほしいとさえ思う。
しかしエザリアと同じ呪いによるものなら・・・。
この令息は今も無事でいるのか、その姿は人なのか。
答えの出ない問いかけを己にくり返すほど、胸の痛むイグルスだった。
至急報告すべき重大な懸念事項が発生したと認めると、その日の夕方に城に呼ばれた。
それまでにとシュマーとその連れ子ロズリン、サリバー商会やブラス・サリバー男爵、その実子で男爵家と商会の後継者エザリアについても調べさせた。
勿論呪いの話など気取らせず、密告があったので確認のためという名目で。
短い時間では表面的なことしかわからないが、それでもおかしいと思えることをいくつか見つけた。
まずシュマーの出自が不明なこと。
どこで生まれどこで育ってきたのかまったくわからない。
没落貴族、元貴族などなら廃された後でも貴族籍が残るが痕跡も見つからない。ということは生まれついての平民、平民の中でもかなり低い家の生まれと推察できる。
気づいたら居たと、周辺の人間も言うのに誰も指摘されるまで気づかなかったというのは、その時には既に何らかの精神操作が行われていたと考えるべきか。
だとしたらシュマーは、サリバー家に入り込む前に魔導師と出会い、その力によって国内でも指折りのサリバー商会長夫人の座を掴むために、呪術の力を使ったのかもしれない。
しかしサリバー商会はブラスの一人娘エザリアが後継者として認められており、エザリアがいる限り完全な掌握はできない。
「だからエザリア嬢を呪って猫に?しかし何故猫なんだ?」
無意識にイグルスの口から言葉が漏れ出している。
「誘拐して売り払う・・・は追跡可能だな。
直接害すると遺体が残るから、それが見つかれば死因を調べられてしまう。
猫なら本人は生きていながら誰にも探すことはできない。証拠を残すことなく、後継者を排除できる・・・」
「そうだ!」と呟くと、イグルスは部下を呼んだ。
「お呼びでしょうか」
「ああ。商会や裕福な貴族家で後継者が突然失踪した家がないか調べてほしい。書き置きがあったか、義家族がいればその証言で家出と判断されたものがないかもだ」
「承知しました」
「頼んだぞ」
こうして自分の脳裏に浮かぶあらゆる疑問を整理しながら、調査を手配していく。
ニ時間もすると最後に飛び出した者が戻ってきた。
「団長!ありましたよ」
「見せろ」
それはもう半年も前のこと。
国境沿いで大商会を営むパルツカ子爵家嫡男が書き置きもなく家出、義母の連れ子の義妹が嫡子に収まったというもの。
義妹が元の嫡男に酷く虐められており、我慢できなくなって母に相談。
子爵が領地見回りで不在だったため、ふたりで嫡男に注意を与えたところ、己を恥じた嫡男はその翌日には姿を消したという。
「そっくりだ・・・」
呟いたイグルスは沈痛な表情でこめかみを揉んだ。
「そっくり?何がですか?」
「うむ。いや、まだもう少し調べてからだ。おいミネアール、おまえ子爵家の領地に行ってこの件もう少し調べてきてくれ。行く前に他にもあるか、一応調べてからな」
「はい」
ミネアールと呼ばれた中堅の騎士が団長室を出ていくのを見ながら、イグルスは背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
─もし子爵令息がエザリアのように犬や猫にされていたとしたら、どれほどの絶望感に襲われていることだろうか─
勿論本当に家出の可能性だってないわけではない。むしろ家出であってほしいとさえ思う。
しかしエザリアと同じ呪いによるものなら・・・。
この令息は今も無事でいるのか、その姿は人なのか。
答えの出ない問いかけを己にくり返すほど、胸の痛むイグルスだった。
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