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呪われたエザリア

モヤモヤするのは何故?

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 遠く離れた国ではエザリアの父ブラス・サリバー男爵が、スミルからの手紙に目を通していた。

「一体何があったんだ?」
「スミルはただエザリア様がいなくなられたとしか書いておりませんね?これでは心配がつのるだけではありませんか!
あいつの報告書はいつも、何か大切なことが足りないんだ!帰ったら厳しく指導しなくてはいけませんな」
「それはナレスに任せよう。今はエザリアが心配だ、こんなときに商談で戻れぬとは。誰が捜索に当たっているかも書いてない!ナレス、確認して指示を送ってくれ。しかし何故シュマーはこれほどの重大事に何の連絡もしてこないのだ?」

 ナレスと呼ばれた者はサリバー商会長ブラスの片腕だが、怪訝な顔を浮かべた。

「ブラス様、それ本気で言ってますか?」
「ああ何故だ?」
「・・・お気づきではないと?お嬢様と夫人はなさぬ仲です。あの、今までプライベートなことだからと聞かずにおりましたが。ブラス様は何故シュ・・夫人・・と結婚したのです?」
「何故?何故だと?・・・」

 随分と踏み込んだことを聞いたものである。
しかしブラスは考え込んだ。

「何故?そういえば何故私はシュマーと結婚したのだろう?」

 その一言はブラス本人とナレスに大きな衝撃を与えた。

「え・・・ご冗談を・・?」
「たぶん、愛情というよりはエザリアに母がいたほうがいいと思ったのではないだろうか?」
「しかし再婚相手なら他にいくらでもおりましたよ。それが屋敷の下働きとはどうにも」

 ついナレスの口から不満が漏れ出ると、ブラスは首を傾げる。

「・・・・なんだか頭の中がモヤモヤしてきた、すまん。少し休ませてくれ」



 長期滞在のため、拠点に家を借り、寝室もブラス好みに調えてある。

 ナレスはカーテンを閉め、ブラスが横になったのを確認するとブランケットをかけて、足音を立てないように部屋を出た。



「それにしても、さっきのブラス様のあれは一体どういうことだ?」

 結婚した相手だというのに、何故結婚したのかわからないなどとあるのだろうか?
顔が気に入ったでも、声が好きでも何でもいいというのに、考えてもなお思い出せないなんておかしいではないか。

「頭がモヤモヤしている?シュマー夫人との婚姻から解せないことばかりが続く。一度調べてみたほうがいいかもしれないな」

 ナレスはエザリアのことはスミルたちに頼み、まず、ブラスのような症状が起こり得るのか調べることにした。

 具合が悪いようだとなれば、医師、薬師そして神殿に尋ねるのが早い。
そう考え、どの町にも必ずあり、場所がわかりやすい神殿に足を向けた。



「本日はどうされましたか?」

 受付の神職が訊ねるので、ナレスは答えようとしたのだが、はて?
どう訊ねたら良いものかと首をかしげてしまう。

「あの、私の主の具合が悪いかも知れなくて」
「はい、どのようにお悪いのでしょう」
「頭がモヤモヤすると申しまして、記憶も定かではないことがあるようです」

 神職は訊ねた。

「その方のご年齢は?」
「40歳です」
「ああ、それでしたら年齢的にそろそろそういうことも起きやすい頃ですね」
「えっ?年齢的なこと?」
「ええ。それは神殿でもどうしようもございません」

 にこやかにそう言われると、ナレスもそれ以上食らいつくわけにもいかず。

 しかし40歳でそうなりやすいか?とナレスは呆然としながら神殿をあとにした。

 ブラス様から目を離さないようにしようと決めて。
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