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呪われたエザリア

スミルがやってきた

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 森の日暮れは早い。
 共通の好物、銀の猪亭の猪の角煮の話ですっかりスミルと打ち解けたセインは、家路を急いでいた。

「エザリアただいま」
「ニャッ」

 尻尾をパタッパタッと床に打ち付けるように振り、機嫌が良くないらしい。

 水入れが空っぽだ!

「ごめんよ、喉渇いちゃったね」

 慌てて水魔法を発動し、水を満たす。

「スミルは明後日の休みにここに来るよ」
「ニャッ」
「あと、もう君のお父さんに知らせを出してくれてるそうだ。ただ、事情がわからなかったときで、いなくなったとだけ知らせたと言ってたよ」

(そうなのね。でもよかった。お父様に少しでも事情が伝わっていれば、早く帰ろうとしてくれるかもしれないし)

 背負っていたリュックを下ろし、中から竹の皮に包まれた猪の角煮を取り出したセインは、それを皿に移してテーブルに置いた。
 台所のかごから青菜を取出し、軽く湯掻いてそれに添えると、次にパンを火で炙りバターを乗せた。
パンの熱にとろりと黄色くバターが溶け流れ、吸い込まれていくのを、猫がじっと見ている。

「ニャッ」
「えっ、まさかパンも食べるのかい?」

 こくん。

「ま、まあ、本当は猫じゃないんだからそうなのか・・・な?角煮・・・は?」

 こくん。

 ようはセインが食べるものは全部寄越せと。

「ま、まあ、見かけが猫でも、本当は人だからね、うん。じゃあエザリアの分はこれから湯がいたとり肉じゃなくて僕と同じでいい?」

 こくこく。

「了解した!すぐ支度するから待ってね」

 その家はセインのもので、食料も何もかもセインのものだが、気づくとセインは物言う猫に操られていた。





 一日中仕事を詰め込んで、約束の日。
セインは町外れの食堂までスミルを迎えに行った。

 一緒に猪の角煮定食を食べ、エザリアに角煮を土産にしてもらって、ふたりでセインの荷馬車に乗る。

「スミル、初めに言っておくよ。今のエザリアは君が知るエザリアとは少し見た目が違うんだ」
「ああ、逃げるには変装の一つもしないとならなかっただろうからなあ。でもエザリアお嬢様が無事でほんとによかったよ」

 違う想像をしているようだが、ここでグダグダ説明するより見たほうが早いと、黙って馬車を走らせた。



「ここだ」

 セインはひょいと馬車を飛び降りた。

「魔法医薬師デールの店?セインって魔法医薬師なのか?その若さで?マジか?すげえな」
「そんなことないよ、亡くなった父が魔法医薬師だったから、小さな頃から教え込まれて自然とそうなっただけさ。さあ、中にどうぞ」

 ドアには本日休みとぶら下げてある。



 店の中に入ったスミルはきょろきょろとあたりを見回した。

 棚いっぱいに薬品が並べられた店。
セインがその奥の扉を開けて、手招きする。

「こっちだよ」

 かけられた暖簾を潜り、奥の部屋に入ると猫が一匹テーブルの上にちんまりと座って、スミルを見つめていた。



■□■

 お読み頂きありがとうございます。

当面は6時、12時、18時で一日三話更新しますのでサクサク読み進めて頂けると思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

※【最新話を読む】機能を使うと読み飛ばす可能性がありますので、【しおりから読む】をお勧めします。
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