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新しい仲間
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先代ムイード公爵とユードリンの父は仲の良い従兄弟同士で、ユードリンが幼い頃は父たちが互いに行き来していたので、現当主ノルザードとは又従兄弟であり幼馴染でもあった。
「ノルデ!久しぶりだな。結婚式でと言っていたのに、急に呼び出してすまなかった」
「会えてうれしいんだから謝るな。ユディも元気そうで何よりだ」
母親も呼んでいなかった愛称で互いを呼び合うほど親しいとはと、リーリルハが目を丸くする。
「リーリルハ!美しい令嬢になったな。私が会ったのはまだこんな頃で」
腰ほどの高さに手をやり、以前会ったリーリルハが如何に小さかったかを表して見せる。
「互いにまったく行き来出来なかったからなぁ」
ユードリンの妻と息子が馬車の事故で亡くなって以来、時間的にも精神的にも余裕がなくなったが。
ノルザードも怪我が原因で息子を亡くしている。息子の怪我を防げなかったと夫人は塞ぎがちになり、目を離せなくなった。
使用人を信じていないわけではなかったが、自分が目を離した僅かな間に息子が亡くなったので後悔したくなかった。
しかし、実はそれは夫人にとっては監視されているようで、針の筵のようなものだった。
修道院に入りたいと言われるまで、互いに消耗し続けて。
どうしようもないほど拗れたことを受け入れたノルザードは離縁に応じ、完全とは言えないが自由を取り戻したところなのだ
「それで、手紙にはかけないこととはなんだ?」
メイガーとソンドールは、ユードリンとノルザードが話すのをじっと聞いていた。
ソンドールの相談から思いついたのはメイガーだが、主導権はユードリンが握っている。
「なるほどカジューン王子か」
「リュスティリア王女が言うように婚約者が重態というのは本当か?」
「それは、正直私も知らないんだが、噂はある」
「噂?」
長く話し続けて喉が渇いたらしいノルザードが、ティーカップを手に茶を飲み干した。
「臥せっていて、どうやら症状がかなり重いらしいこと。そして」
息を吸ってから大きく吐いた。
「誰かが婚約者に毒を盛ったのではないかと」
「「「えっ!」」」
「そう驚くことでもないだろう。王族とそれに列なるものは狙われるものだ」
「そうだが・・・」
「犯人の目星はついているのですか?」
たまらずソンドールが口を挟んだ。
まさかリュスティリア王女が?と一瞬考えたから。
「証拠はまだないが、第一王子派の貴族だと言われている」
「何故ですか?第一王子が王太子になることは確定では?」
メイガーも黙ってみているのはやめたらしい。身を乗り出して、疑問をぶつけ始めた。
「第一王子の婚約者の弟が不祥事を起こして、今婚約者の実家は立場が微妙なんだ。王妃には子がなく、王子はふたりとも第一、第二側妃のこどもで、単に先に生まれたとか、婚約者の実家が多少家格が上だったという程度の差だ。もともとパワーバランスが微妙だったところに不祥事が起きて、第二王子派が俄然勢いづいてきた」
ふむふむと皆頷きながら話を聞き終えたところで、ユードリンが訊ねた。
「それでノルデはどっちの派閥なんだ?」
「私は中立さ。王子たちに年齢の近いこどもがいない時点で、どちらに与しても二番手以降にしかなれん。時間と金と労力が無駄になるだけだからな。強いて言うなら立太子の可能性がない第一王女派ってところだ。さっきまではだが」
「さっきまでは?」
「ああ。今私たちは伸るか反るかだろう?」
「そうだ。決めてくれたか?」
ニヤッと笑うノルザードとユードリンはどちらともなく握手を交わした。
「気の毒だが第二王子の婚約者はたとえ生還しても、もう王子との結婚は難しいだろう。そこに私がリュスティリア王女との婚約を持ち込めば、第二王子派はもちろん第一王子を蹴落としにかかり、立太子させるに違いない」
ソンドールはワクワクもしていたが、反面話が大きくなりすぎて寒気を覚えている。
この先ずっとリーリルハに恩着せがましくされたら鬱陶しい、何処かへ行ってくれればいいと思っていたリュスティリア王女を、メットリアの王妃にする話になるとは。
しかし、自分とリーリルハ以外は目をギラギラと輝かせ、声を潜めて相談し始めた。
「ノルデ!久しぶりだな。結婚式でと言っていたのに、急に呼び出してすまなかった」
「会えてうれしいんだから謝るな。ユディも元気そうで何よりだ」
母親も呼んでいなかった愛称で互いを呼び合うほど親しいとはと、リーリルハが目を丸くする。
「リーリルハ!美しい令嬢になったな。私が会ったのはまだこんな頃で」
腰ほどの高さに手をやり、以前会ったリーリルハが如何に小さかったかを表して見せる。
「互いにまったく行き来出来なかったからなぁ」
ユードリンの妻と息子が馬車の事故で亡くなって以来、時間的にも精神的にも余裕がなくなったが。
ノルザードも怪我が原因で息子を亡くしている。息子の怪我を防げなかったと夫人は塞ぎがちになり、目を離せなくなった。
使用人を信じていないわけではなかったが、自分が目を離した僅かな間に息子が亡くなったので後悔したくなかった。
しかし、実はそれは夫人にとっては監視されているようで、針の筵のようなものだった。
修道院に入りたいと言われるまで、互いに消耗し続けて。
どうしようもないほど拗れたことを受け入れたノルザードは離縁に応じ、完全とは言えないが自由を取り戻したところなのだ
「それで、手紙にはかけないこととはなんだ?」
メイガーとソンドールは、ユードリンとノルザードが話すのをじっと聞いていた。
ソンドールの相談から思いついたのはメイガーだが、主導権はユードリンが握っている。
「なるほどカジューン王子か」
「リュスティリア王女が言うように婚約者が重態というのは本当か?」
「それは、正直私も知らないんだが、噂はある」
「噂?」
長く話し続けて喉が渇いたらしいノルザードが、ティーカップを手に茶を飲み干した。
「臥せっていて、どうやら症状がかなり重いらしいこと。そして」
息を吸ってから大きく吐いた。
「誰かが婚約者に毒を盛ったのではないかと」
「「「えっ!」」」
「そう驚くことでもないだろう。王族とそれに列なるものは狙われるものだ」
「そうだが・・・」
「犯人の目星はついているのですか?」
たまらずソンドールが口を挟んだ。
まさかリュスティリア王女が?と一瞬考えたから。
「証拠はまだないが、第一王子派の貴族だと言われている」
「何故ですか?第一王子が王太子になることは確定では?」
メイガーも黙ってみているのはやめたらしい。身を乗り出して、疑問をぶつけ始めた。
「第一王子の婚約者の弟が不祥事を起こして、今婚約者の実家は立場が微妙なんだ。王妃には子がなく、王子はふたりとも第一、第二側妃のこどもで、単に先に生まれたとか、婚約者の実家が多少家格が上だったという程度の差だ。もともとパワーバランスが微妙だったところに不祥事が起きて、第二王子派が俄然勢いづいてきた」
ふむふむと皆頷きながら話を聞き終えたところで、ユードリンが訊ねた。
「それでノルデはどっちの派閥なんだ?」
「私は中立さ。王子たちに年齢の近いこどもがいない時点で、どちらに与しても二番手以降にしかなれん。時間と金と労力が無駄になるだけだからな。強いて言うなら立太子の可能性がない第一王女派ってところだ。さっきまではだが」
「さっきまでは?」
「ああ。今私たちは伸るか反るかだろう?」
「そうだ。決めてくれたか?」
ニヤッと笑うノルザードとユードリンはどちらともなく握手を交わした。
「気の毒だが第二王子の婚約者はたとえ生還しても、もう王子との結婚は難しいだろう。そこに私がリュスティリア王女との婚約を持ち込めば、第二王子派はもちろん第一王子を蹴落としにかかり、立太子させるに違いない」
ソンドールはワクワクもしていたが、反面話が大きくなりすぎて寒気を覚えている。
この先ずっとリーリルハに恩着せがましくされたら鬱陶しい、何処かへ行ってくれればいいと思っていたリュスティリア王女を、メットリアの王妃にする話になるとは。
しかし、自分とリーリルハ以外は目をギラギラと輝かせ、声を潜めて相談し始めた。
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