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甘くなるふたり
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「ソンドール様?ソンドール様が欲しい装備は、ドレスよりお高いのかしら?」
ブンッブンッブンッと、首を左右に振ったソンドールの妙にこどもっぽい仕草に、リーリルハのキュンと胸が鳴る。
(やだ、ど、動悸が・・・)
どきどきと大きな音が聞こえてしまうのではないか、しかしソンドールの前で胸を押さえたら心配させるし、恥ずかしくて本当の理由は話せない。
落ち着け落ち着けと心の中で自分に言い聞かせながら、平静を保つため口角を上げた。
「ぼんやりしてすまない。ドレスがそんなに高いとは思わなかったから」
お金がないコイント子爵家では、唯一の女性である母のドレスもリメイクしながら着回し続けていたので、今どきのオーダードレスがそんなに高いとソンドールは知らなかったのだ。
「ピンからキリね。たまたまジュルガー様が、お値段高めのドレスを私のお金で不貞相手に贈ろうとしたから明るみになったけど、そんなことに使われるくらいなら、ソンドール様のお役に立つことに使いたいわ」
ニッと悪そうに笑ったつもりだろうが、それすらもリーリルハを可愛く見せてしまう。
ソンドールは目が眩んだ。
ふたりとも自分の婚約者の新たな顔を見つける度にドキドキして、どんどん大好きになってしまうのだが、何故かそれを相手に気取られぬよう必死で隠している。
ソンドールをチラチラと盗み見ては、フッとため息をつくリーリルハが可愛いのは勿論だが、リーリルハと言葉を交わす度に、耳まで真っ赤に染めて俯いてしまうソンドールが、ふたりを見守るシューリンヒ侯爵家の侍女やメイドたちを萌えさせていた。
さて。
リーリルハはソンドールの誕生プレゼントを無事決めることができて満足している。
何か言うことがあったはず・・・!
「あ!そうだったわ」
「何かあったのか?」
「さっきの公開練習のお話だけど、騎士の皆さんは優先的にチケットを買えたりしないのかしら」
「買えるぞ。というより、騎士も売ることができる」
ソンドールと過ごすようになって、以前より格段に金に目敏くなったリーリルハの頭が冴える。
「・・・・それって売った分いくらかもらえるとかかしら?」
「よくわかったな。俺は売ったことないけど、それを小遣いにしてる奴も多い」
女性と付き合いのなかったソンドールには、買ってくれる知人がいなかった。
金のないソンドールだが、見ず知らずの女性たちに声をかけてまでチケットを売る気にはなれなかったのだ。
「まあ!ソニー姉様は公開練習に通っているのに、それを知らずにいるのかしら」
直接騎士に声をかけて訊ねればすぐに買えるのだが、距離を置いてきゃあきゃあ言っているだけでは、それを知ることもできないだろう。
ソニアラは馬鹿正直に、発売日に窓口に並んで買っていた。
「ソニー姉様っていうのか、その人」
「ええ。いつもチケットを買うのに苦労しているらしいの」
チラッと見ると、ソンドールの口が尖っている。自分に強請れと言っているような顔だ。
だからリーリルハは遠慮なく上目遣いでお願いした。
「ソンドール様にお願いできる?次の第一騎士団の公開練習のが欲しいそうなのだけど」
「第一?いいけど、何枚欲しいんだ?」
「あとで聞いてくるわ!」
「そ、それはリーリルハ嬢も行くのか?」
そう訊ねたソンドールの口が拗ねたように尖っているのが可笑しい。
騎士団ではビシッとかっこいい騎士様なのに、リーリルハといるときの彼は時折こどもっぽい顔や仕草を見せることがあり、それがリーリルハの心を揺さぶった。
第一騎士団は騎士団の中でも伯爵家以上の家門でなければ所属が許されず、近衛に次ぐ花形である。城中を担当しており、公開練習に通い詰めでもしない限りはなかなか出会うことができない騎士たちだ。
因みにソンドールは王都の南を担当する第三騎士団に所属している。
「私は行かないわ。第一騎士団なんて興味ないし」
「じゃあ次のうちのは見に来る?」
「ソンドール様の勇姿が見られるなら行きたいわ」
つい何気なく溢れた本音に、顔を赤らめたリーリルハは自分の目を擦った。
というのも、とてもうれしそうな顔をしたソンドールに、勢いよく振られた黒い犬の尻尾が見えたから。
もちろん気のせいの筈だが、それは暫く消えることがなかった。
ブンッブンッブンッと、首を左右に振ったソンドールの妙にこどもっぽい仕草に、リーリルハのキュンと胸が鳴る。
(やだ、ど、動悸が・・・)
どきどきと大きな音が聞こえてしまうのではないか、しかしソンドールの前で胸を押さえたら心配させるし、恥ずかしくて本当の理由は話せない。
落ち着け落ち着けと心の中で自分に言い聞かせながら、平静を保つため口角を上げた。
「ぼんやりしてすまない。ドレスがそんなに高いとは思わなかったから」
お金がないコイント子爵家では、唯一の女性である母のドレスもリメイクしながら着回し続けていたので、今どきのオーダードレスがそんなに高いとソンドールは知らなかったのだ。
「ピンからキリね。たまたまジュルガー様が、お値段高めのドレスを私のお金で不貞相手に贈ろうとしたから明るみになったけど、そんなことに使われるくらいなら、ソンドール様のお役に立つことに使いたいわ」
ニッと悪そうに笑ったつもりだろうが、それすらもリーリルハを可愛く見せてしまう。
ソンドールは目が眩んだ。
ふたりとも自分の婚約者の新たな顔を見つける度にドキドキして、どんどん大好きになってしまうのだが、何故かそれを相手に気取られぬよう必死で隠している。
ソンドールをチラチラと盗み見ては、フッとため息をつくリーリルハが可愛いのは勿論だが、リーリルハと言葉を交わす度に、耳まで真っ赤に染めて俯いてしまうソンドールが、ふたりを見守るシューリンヒ侯爵家の侍女やメイドたちを萌えさせていた。
さて。
リーリルハはソンドールの誕生プレゼントを無事決めることができて満足している。
何か言うことがあったはず・・・!
「あ!そうだったわ」
「何かあったのか?」
「さっきの公開練習のお話だけど、騎士の皆さんは優先的にチケットを買えたりしないのかしら」
「買えるぞ。というより、騎士も売ることができる」
ソンドールと過ごすようになって、以前より格段に金に目敏くなったリーリルハの頭が冴える。
「・・・・それって売った分いくらかもらえるとかかしら?」
「よくわかったな。俺は売ったことないけど、それを小遣いにしてる奴も多い」
女性と付き合いのなかったソンドールには、買ってくれる知人がいなかった。
金のないソンドールだが、見ず知らずの女性たちに声をかけてまでチケットを売る気にはなれなかったのだ。
「まあ!ソニー姉様は公開練習に通っているのに、それを知らずにいるのかしら」
直接騎士に声をかけて訊ねればすぐに買えるのだが、距離を置いてきゃあきゃあ言っているだけでは、それを知ることもできないだろう。
ソニアラは馬鹿正直に、発売日に窓口に並んで買っていた。
「ソニー姉様っていうのか、その人」
「ええ。いつもチケットを買うのに苦労しているらしいの」
チラッと見ると、ソンドールの口が尖っている。自分に強請れと言っているような顔だ。
だからリーリルハは遠慮なく上目遣いでお願いした。
「ソンドール様にお願いできる?次の第一騎士団の公開練習のが欲しいそうなのだけど」
「第一?いいけど、何枚欲しいんだ?」
「あとで聞いてくるわ!」
「そ、それはリーリルハ嬢も行くのか?」
そう訊ねたソンドールの口が拗ねたように尖っているのが可笑しい。
騎士団ではビシッとかっこいい騎士様なのに、リーリルハといるときの彼は時折こどもっぽい顔や仕草を見せることがあり、それがリーリルハの心を揺さぶった。
第一騎士団は騎士団の中でも伯爵家以上の家門でなければ所属が許されず、近衛に次ぐ花形である。城中を担当しており、公開練習に通い詰めでもしない限りはなかなか出会うことができない騎士たちだ。
因みにソンドールは王都の南を担当する第三騎士団に所属している。
「私は行かないわ。第一騎士団なんて興味ないし」
「じゃあ次のうちのは見に来る?」
「ソンドール様の勇姿が見られるなら行きたいわ」
つい何気なく溢れた本音に、顔を赤らめたリーリルハは自分の目を擦った。
というのも、とてもうれしそうな顔をしたソンドールに、勢いよく振られた黒い犬の尻尾が見えたから。
もちろん気のせいの筈だが、それは暫く消えることがなかった。
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