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215 父からの報せ
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※これから数話は虫嫌いな方はご注意下さい。
作者も好きではありませんので、なるべく具体的な描写は避けておりますが
・・・・
∈∈∈ 以下本文 ∈∈∈
─やっぱり畑はいいなあ─
ミロンを切ってもらって堪能したドレイファスは、日が落ちていく様子をログハウス前のテーブルから眺めている。
真っ暗になる前に庭師たちが戻ってきて、みんなはボンディのいる食堂に行くらしい。
「じゃあぼ・・わたしも、屋敷に戻る」
ドレイファスが、自分の呼び方や言葉遣いを変えようとしていることに、勿論庭師も気づいているが、庭師はシエルドたちとは違い、皆大人だ。
その成長をほんの少しだけ寂しく思いながら、暖かな目で見守っていた。
ドレイファスは三年前から日記をつけ始めた。
いつか領主となったら、毎日記録をつけなくてはならなくなる。今のうちから習慣をつけておくようにとドリアンから言われたから。
『今日ヨルトラ爺から大きなペリルの実がなる株があることを教えてもらった。今までのペリルは一体何だったのだと思うほど大きくて!味も甘かった!
・・・本当のことを言うと、夢の世界のペリルはあの二倍くらいあったけど、でもヨルトラたちが作ったペリルは、絶対にこの世界で一番大きなペリルに間違いない!!
ぼくは、いやわたしはだ、最近ミロンに夢中でペリルのことを忘れていたかもしれない。
それなのにヨルトラ爺たちは、コツコツと何年間もかけてやり遂げてくれたんだ。
ぼくはぼくの、いやわたしの庭師たちを尊敬する!そして僕も、いやわたしも小さなことに腐らず、目標を決めたらまっすぐ地道に取り組むことにする!
絶対!』
その日記を認めたドレイファスは、小さく「絶対だ!」と確かめるように呟いた。
とりあえずの目標は、サボらずに毎日畑に行くということ。そしてまんべんなく畑を見回る!
ミロンだけ見て帰るとかは、もうしないぞ!と、それも日記に書き込んだ。
翌朝、学院は休みだったが早くに目を覚ましたドレイファスは、侍女ロアラが揃えていた服に着替えると部屋を出る。
眠そうに目を擦るレイドと、行く先は初心貫徹の畑であった。
「おはようっ!」
畑に響き渡る大きな声で庭師たちに挨拶すると、繁みのあちこちから顔がひょこりと現れ、おはようございますと声がかかる。
うん、と誰に言うでもなく答えたあと、ドレイファスはレイドをログハウスの前に残し、畑に潜り込んだ。
昨日見たばかりの愛しいペリルの実やその株が植わる畝を、細かくチェックして歩く。
そういえば小さな頃はこうして一株一株、丁寧に見て歩いていたと、数年前の小さかった自分を思い出しながら。
隅から隅まで歩き回っているとお腹がキュゥッと鳴った。
「そういえば朝食、食べ損ねた!」
ドレイファスが気づいた時には、本館の朝食の時間からかなり経っていた。
「そうですね、私もですよ」
恨めしそうなレイドを見て、タンジェントが笑う。
「レイドもそんな顔するんだな、朝飯はボンディのところに行けば食べられるから心配するな」
「そうそう、ボンディに美味しいものを作ってもらおう!」
レイドの視線を物ともせず、好きなものを作ってくれるボンディに何を強請ろうかと、ドレイファスはうきうきと厨房に足を向けた。
「ボンディおはよう!」
「おや!ドレイファス様お珍しいですね」
「早くに畑に来てたからご飯食べそこねたんだ。何か食べさせてくれないかな、レイドも一緒に」
テヘッと笑うドレイファスは、ボンディにとっていつまでも愛らしい小さな主のままである。
ボンディはドレイファスのリクエストに答え、柔らかいブレッドに燻した肉を乗せたサンドをササッと作ってやる。
さらにデザートにカットしたミロンを出すと、ドレイファスとレイドは勿論全てくまなく平らげて、ふぅっとため息をつく。
「あーっ美味しかった!」
幸せそうな欠伸を残したドレイファスは、漸く屋敷に戻って行った。
地下通路を抜けて屋敷に戻ったドレイファスは、部屋に戻るところで偶然ドリアンと出くわした。
「おはようございます、お父さ、お父上」
恥ずかしそうに呼び方を改めたドレイファスに、ドリアンはオヤ?という顔を見せたが、すぐ表情を戻し、いつもの声音でおはようと返す。
「今朝は朝食を摂らなかったのか?」
「いえ、畑に行っていたので離れで食べてきました」
「そうだったか」
「大粒のペリルの株ができたんです!」
そう言って指二本の爪先をくっつけて、輪を作って見せる。
「ほお、そんなに大きいのか?それはすごいな」
そうは言ったが。
ドレイファスの示した大きさのペリルは有り得ないものだったので、話半分くらいに聞いているが。
「まだ一株しかないので、実を持ってこられなかったのですが、そのうち本当にみんなをびっくりさせてみせます!」
ドヤ顔の息子はこの頃急に背が伸びて、丸みのあった頬もすっきりとし始めている。
しかし幾つになってもドリアンにとっては可愛いこども。
遠慮なく、ドレイファスの柔らかな金髪をぐりぐりと撫で回した。
「おと、おちちうえ」
「うん、呼び方を変えたのだな。いいと思うぞ」
「はいっ!」
戸惑いながらも口調を変えようと頑張っていることを、まず褒めて。
別れ際にドリアンがふとドレイファスを引き留めた。
「そうだ、ドレイファスにも話しておこう。5分でいい、一緒に執務室へ」
ドリアンはそう言うとドレイファスの背に手をやって、有無を言わさずに歩き出した。
「座りなさい。早速だがドレイファスは蝗害を知っているかな?」
「コウガイ?なんですか?」
「滅多にないことではあるが、イナゴールの凄まじい大群が押し寄せて、あらゆる植物を食べ尽くしてしまうというヤツだ」
イナゴールは大人の中指ほどの魔虫だ。
食欲旺盛で大群は数億匹になるという。
ドレイファスは青褪めた。
「食べ尽く・・す?」
「ああ、あいつらが通った後は、道っ端の野草すら残さず食い尽くすと言われている」
「そ、そんな・・それで、それが?」
父がわざわざ呼び留めてまでの話だ。
何かあるに違いないと深堀りする。
「ああ、実はエリンバーでイナゴールの群れが発生したのだ」
エリンバーはフォンブランデイル領からかなり遠い。公爵領は王都の西側に位置するが、エリンバーは東側に位置し、一部が国境に接している。
「じゃあ大丈夫ですね」
「いや、そうは言えないだろう。奴らの飛行距離は渡り鳥並みだからな」
深刻そうな父の顔を見て、ドレイファスも不安を感じ始めた。
「取り急ぎ、いつもの面々には私から連絡を入れるが、明日学院に行ったらクラスメートにも話してやるといい。エリンバー出身の者はいないか?」
「うちのクラスにはいないです」
「先生たちにも、ああ、ほらカルルドと虫の研究している、知っているかもしれんが話してやるといい」
それを聞いて、ドレイファスは閃いた。
「あの、そのイナゴールってカルルドにテイムしてもらうのは駄目ですか?」
いいアイデアだと思ったのだが。
「イナゴールの大群は小さなもので数万、巨大なものは数億匹と言われるほどで、見たことがある者によると、それこそ空は真っ黒に埋め尽くされ、奴らが去った後は草木の一本も残らないほどなんだ。一人二人のテイマーではどうしようもない」
ドリアンは丁寧にイナゴールの大群についてドレイファスに説明するが、ドリアン自身も見たことはない。
幸いにもフォンブランデイル領ではイナゴールの被害に遭ったことがなかったから。
「エリンバーにいるとしたら、ハミンバールが心配だな」
ドリアンの呟きに顔を上げると、
「ハミンバール?防ぐ手立てはないんですか?」
「なかなか難しいらしいのだ。風魔法使いや火魔法使いが居合わせ、暴風で落としたり燃やしたりしたことがあると聞くが、それも数が多すぎて何十人もの魔法使いがそれこそ死ぬほど魔法を繰り出し続けて漸く太刀打ちできるようなんだ」
「そんな・・・。もしイナゴールの大群が来たら、僕の畑も」
「・・・ああ。もし万一フォンブランデイルに奴らが来たら、食べ尽くされるだろう」
さっきまでのご機嫌が吹き飛んでしまうほど、ドレイファスに衝撃を与えた。
作者も好きではありませんので、なるべく具体的な描写は避けておりますが
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─やっぱり畑はいいなあ─
ミロンを切ってもらって堪能したドレイファスは、日が落ちていく様子をログハウス前のテーブルから眺めている。
真っ暗になる前に庭師たちが戻ってきて、みんなはボンディのいる食堂に行くらしい。
「じゃあぼ・・わたしも、屋敷に戻る」
ドレイファスが、自分の呼び方や言葉遣いを変えようとしていることに、勿論庭師も気づいているが、庭師はシエルドたちとは違い、皆大人だ。
その成長をほんの少しだけ寂しく思いながら、暖かな目で見守っていた。
ドレイファスは三年前から日記をつけ始めた。
いつか領主となったら、毎日記録をつけなくてはならなくなる。今のうちから習慣をつけておくようにとドリアンから言われたから。
『今日ヨルトラ爺から大きなペリルの実がなる株があることを教えてもらった。今までのペリルは一体何だったのだと思うほど大きくて!味も甘かった!
・・・本当のことを言うと、夢の世界のペリルはあの二倍くらいあったけど、でもヨルトラたちが作ったペリルは、絶対にこの世界で一番大きなペリルに間違いない!!
ぼくは、いやわたしはだ、最近ミロンに夢中でペリルのことを忘れていたかもしれない。
それなのにヨルトラ爺たちは、コツコツと何年間もかけてやり遂げてくれたんだ。
ぼくはぼくの、いやわたしの庭師たちを尊敬する!そして僕も、いやわたしも小さなことに腐らず、目標を決めたらまっすぐ地道に取り組むことにする!
絶対!』
その日記を認めたドレイファスは、小さく「絶対だ!」と確かめるように呟いた。
とりあえずの目標は、サボらずに毎日畑に行くということ。そしてまんべんなく畑を見回る!
ミロンだけ見て帰るとかは、もうしないぞ!と、それも日記に書き込んだ。
翌朝、学院は休みだったが早くに目を覚ましたドレイファスは、侍女ロアラが揃えていた服に着替えると部屋を出る。
眠そうに目を擦るレイドと、行く先は初心貫徹の畑であった。
「おはようっ!」
畑に響き渡る大きな声で庭師たちに挨拶すると、繁みのあちこちから顔がひょこりと現れ、おはようございますと声がかかる。
うん、と誰に言うでもなく答えたあと、ドレイファスはレイドをログハウスの前に残し、畑に潜り込んだ。
昨日見たばかりの愛しいペリルの実やその株が植わる畝を、細かくチェックして歩く。
そういえば小さな頃はこうして一株一株、丁寧に見て歩いていたと、数年前の小さかった自分を思い出しながら。
隅から隅まで歩き回っているとお腹がキュゥッと鳴った。
「そういえば朝食、食べ損ねた!」
ドレイファスが気づいた時には、本館の朝食の時間からかなり経っていた。
「そうですね、私もですよ」
恨めしそうなレイドを見て、タンジェントが笑う。
「レイドもそんな顔するんだな、朝飯はボンディのところに行けば食べられるから心配するな」
「そうそう、ボンディに美味しいものを作ってもらおう!」
レイドの視線を物ともせず、好きなものを作ってくれるボンディに何を強請ろうかと、ドレイファスはうきうきと厨房に足を向けた。
「ボンディおはよう!」
「おや!ドレイファス様お珍しいですね」
「早くに畑に来てたからご飯食べそこねたんだ。何か食べさせてくれないかな、レイドも一緒に」
テヘッと笑うドレイファスは、ボンディにとっていつまでも愛らしい小さな主のままである。
ボンディはドレイファスのリクエストに答え、柔らかいブレッドに燻した肉を乗せたサンドをササッと作ってやる。
さらにデザートにカットしたミロンを出すと、ドレイファスとレイドは勿論全てくまなく平らげて、ふぅっとため息をつく。
「あーっ美味しかった!」
幸せそうな欠伸を残したドレイファスは、漸く屋敷に戻って行った。
地下通路を抜けて屋敷に戻ったドレイファスは、部屋に戻るところで偶然ドリアンと出くわした。
「おはようございます、お父さ、お父上」
恥ずかしそうに呼び方を改めたドレイファスに、ドリアンはオヤ?という顔を見せたが、すぐ表情を戻し、いつもの声音でおはようと返す。
「今朝は朝食を摂らなかったのか?」
「いえ、畑に行っていたので離れで食べてきました」
「そうだったか」
「大粒のペリルの株ができたんです!」
そう言って指二本の爪先をくっつけて、輪を作って見せる。
「ほお、そんなに大きいのか?それはすごいな」
そうは言ったが。
ドレイファスの示した大きさのペリルは有り得ないものだったので、話半分くらいに聞いているが。
「まだ一株しかないので、実を持ってこられなかったのですが、そのうち本当にみんなをびっくりさせてみせます!」
ドヤ顔の息子はこの頃急に背が伸びて、丸みのあった頬もすっきりとし始めている。
しかし幾つになってもドリアンにとっては可愛いこども。
遠慮なく、ドレイファスの柔らかな金髪をぐりぐりと撫で回した。
「おと、おちちうえ」
「うん、呼び方を変えたのだな。いいと思うぞ」
「はいっ!」
戸惑いながらも口調を変えようと頑張っていることを、まず褒めて。
別れ際にドリアンがふとドレイファスを引き留めた。
「そうだ、ドレイファスにも話しておこう。5分でいい、一緒に執務室へ」
ドリアンはそう言うとドレイファスの背に手をやって、有無を言わさずに歩き出した。
「座りなさい。早速だがドレイファスは蝗害を知っているかな?」
「コウガイ?なんですか?」
「滅多にないことではあるが、イナゴールの凄まじい大群が押し寄せて、あらゆる植物を食べ尽くしてしまうというヤツだ」
イナゴールは大人の中指ほどの魔虫だ。
食欲旺盛で大群は数億匹になるという。
ドレイファスは青褪めた。
「食べ尽く・・す?」
「ああ、あいつらが通った後は、道っ端の野草すら残さず食い尽くすと言われている」
「そ、そんな・・それで、それが?」
父がわざわざ呼び留めてまでの話だ。
何かあるに違いないと深堀りする。
「ああ、実はエリンバーでイナゴールの群れが発生したのだ」
エリンバーはフォンブランデイル領からかなり遠い。公爵領は王都の西側に位置するが、エリンバーは東側に位置し、一部が国境に接している。
「じゃあ大丈夫ですね」
「いや、そうは言えないだろう。奴らの飛行距離は渡り鳥並みだからな」
深刻そうな父の顔を見て、ドレイファスも不安を感じ始めた。
「取り急ぎ、いつもの面々には私から連絡を入れるが、明日学院に行ったらクラスメートにも話してやるといい。エリンバー出身の者はいないか?」
「うちのクラスにはいないです」
「先生たちにも、ああ、ほらカルルドと虫の研究している、知っているかもしれんが話してやるといい」
それを聞いて、ドレイファスは閃いた。
「あの、そのイナゴールってカルルドにテイムしてもらうのは駄目ですか?」
いいアイデアだと思ったのだが。
「イナゴールの大群は小さなもので数万、巨大なものは数億匹と言われるほどで、見たことがある者によると、それこそ空は真っ黒に埋め尽くされ、奴らが去った後は草木の一本も残らないほどなんだ。一人二人のテイマーではどうしようもない」
ドリアンは丁寧にイナゴールの大群についてドレイファスに説明するが、ドリアン自身も見たことはない。
幸いにもフォンブランデイル領ではイナゴールの被害に遭ったことがなかったから。
「エリンバーにいるとしたら、ハミンバールが心配だな」
ドリアンの呟きに顔を上げると、
「ハミンバール?防ぐ手立てはないんですか?」
「なかなか難しいらしいのだ。風魔法使いや火魔法使いが居合わせ、暴風で落としたり燃やしたりしたことがあると聞くが、それも数が多すぎて何十人もの魔法使いがそれこそ死ぬほど魔法を繰り出し続けて漸く太刀打ちできるようなんだ」
「そんな・・・。もしイナゴールの大群が来たら、僕の畑も」
「・・・ああ。もし万一フォンブランデイルに奴らが来たら、食べ尽くされるだろう」
さっきまでのご機嫌が吹き飛んでしまうほど、ドレイファスに衝撃を与えた。
応援ありがとうございます!
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