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205 祝!開店
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王城にほど近いメインストリートにどーんと3階建ての建物が建っている。
マーリアルが購入したそれを、1階2階は店と厨房、3階は店員の寮にミルケラが作り変えた。
イエローに明るいグリーンのストライプの壁紙が貼られ、春の芽吹きのような心躍る意匠になっている。
「へーえ!ピンクではないんだな」
プレオープンの試食会にやってきたローザリオが意外そうにボンディに言うと、
「スイーツの店だから最初はピンクにしようと思ったんだが、ミルケラから男女どちらとも誰でも入りやすい明るい店のほうがいいんじゃないかと言われて」
ローザリオはまったく気にしないが、確かにピンクでかわいらしい店構えは男性一人では入りづらいだろう。老若男女が受け入れやすい仕上がりだ。
「ミルケラは手先が器用なだけではなく、センスもいいのだな」
しかし称賛されるべきミルケラは、今日は来ていない。ロプモス山の畑で突風被害があり、スライム小屋の修復に向かっているとか。
「ローザリオ様、いらっしゃいませ」
「マーリアル様、ご招待ありがとうございます。素晴らしい店ですね」
「菓子も素晴らしいんですの。楽しみになさっていてね」
パティシエ以外の店員たちは、全員グゥザヴィ商会から来た者たちで、よく訓練されててきぱきと動き回っており、その動きをみれば明日の開店もまったく不安はないと思える。
この店員たちを率いるのは、グゥザヴィ商会長モーダの妻サリラだ。彼女の父トロワ・ユルグがグゥザヴィ商会に合流したことで仕事の負担が軽くなったサリラは、拡張を続ける商会のために子を背負いながら人材育成に力を注いできた。
今、パティスリーブランデイルで働いている者はすべて、サリラが指導して育てた者ばかりである。
今日はサリラとモーダ、トロワももちろん呼ばれて、商会の若者たちが教えられたとおりに隅々まで気を配り、働く姿に満足していた。
ドレイファスももちろん来ている。
いつもの顔ぶれの令息令嬢たちとその家族、メイベルたちサイルズ男爵家などが入り乱れて。
「ドル、これ少しづつ味が違う」
ドレイファスとシエルドがテーブルに大量に置かれたぷるんを全部試して、くすくすと笑い合う。
「これ、ペリルを濾したのが入ってるから赤いんだよ」
学院から戻ると離れの厨房に入り浸りのドレイファスは、まるで自分が作っているように説明してやっている。
「ここにこうやって、ほら食べてみて」
自らの手でホイップしたクレーメやチージュクレーメを乗せ、シエルドに渡してやる。
「あ!いいねこれ。ほんのちょっとなのにずいぶん変わるんだな」
クレーメ好きなシエルドは匙に残ったクレーメをこっそりと舐めとる。
「シエル、お行儀悪いよ」
囁いたドレイファスだが、そのドレイファスも匙を舐めていた。
ボンディとパティシエたちはてんてこまいでビスキュイカップにクレーメを詰めたり、チージュを入れて焼いたりをくり返している。
「おお!これは女性に喜ばれそうな意匠だな」
新しい物が大好きなワルター・サンザルブ侯爵が、立食で気軽に食べられるようにトレーに置かれたケークを片っ端から手にとって口に入れていく。
「うーん!うまいな。私はこのチージュケークみたいなのが好きだ」
妻に声をかけたつもりが、振り向くとダルスラ・ロンドリン伯爵が同じものを口に押し込むところだった。
「うむ、本当にうまいな!しかも食べやすいし見た目もよい」
「これは登城のたびに強請られそうだな」
「ああ、だがぷるんを持ち帰れるようにしたのはありがたい」
小さなカップを取って見せたダルスラに、
「我が家のパティシエはぷるんを作れるから、屋敷でもいつでも食べられる」
ドヤ顔でうふふと笑うワルターに、ダルスラは肩をすくめた。
試食会は大盛況に終わり、翌日華々しく開店したパティスリーブランデイルは毎日長い行列に囲まれている。
公爵家から送られたパティシエたちが蜂の子を突いたように菓子を焼き続けているにも関わらず、どんどん売れてしまうためにいくら作っても足りない。毎日用意した材料を使い尽くしてしまうのに、それでもまだ菓子を買おうと客が並ぶほどなのだ。
最初の数日は新し物好きな通りすがりと、過去に公爵家の茶会や夜会で菓子を食べた者が来ていたが、固い食べ物が多いこの世界で、それまでにないふんわりやとろとろの食感が評判になり、あっという間に広まっていった。
「パティシエ四人では足りないのではないか?予想以上の人気だな」
ボンディは総料理長シズルに呼ばれて、店に応援を出そうと相談していた。
実はぷるんを入れる陶器のカップも、準備していたものを使い切りそうな勢いで、ミルケラ率いる合同ギルドに追加の作製を急ぐよう依頼したところだ。
「そういう発注もボンディがやっているのか?商会ではなく?」
「ああ、慣れてきたら材料なども商会の者がやることになっていますが、まだそこまでは」
「なるほど。・・・そうか、では本館から菓子も作れる者を一人と下働きを応援に出そう。しかし、新たに雇って育てることも考えないと、こちらも足りなくなりかねんぞ」
「そうですね・・・。マトレイドに探してくれるよう頼んでみます」
「ということなんだが、マティ誰かパティシエになりたいという者を探してくれないか?」
「あー、パティシエには心当たりはまったくこれっぽっちもないな。すぐ欲しいのか?」
「ああ、なるべく早くだ」
「レシピを共有しているドレイファス団の貴族家から借りたらどうだ?マーリアル様のことだ、どうせそのうち他の領地でもやるようになるだろう?先駆けというか、研修がてらとか言ってマーリアル様に相談してみたら?」
マトレイドは自分が動かずに済む代替案を提示した。
ドレイファス団と言われる貴族家は、使用人たちもすべて神殿契約を済ませているはずなので、もしそこから借りられれば迅速に信用のおける、しかも貴族の屋敷で仕事が務まるレベルのパティシエを手配できる。
「いいな!マーリアル様にご相談してくる」
そこからの話は早かった。
王都の店の騒乱ぶりを見た誰もが、あの店を自分の領地にも開店したいと思ったから。
パティシエを応援に出せば、その領地から優先して支店を出すと公爵夫妻が褒美をぶら下げたので、人員に余裕があったサンザルブとロンドリン、ハミンバールから即日パティシエが送り出されて来た。
「各家から一人ないし二人の応援を頂き、本当にありがたいです」
「よかったわ、マトレイドもよいことを思いついてくれましたわ」
「しかし、支店もお考えで?」
「上手くいくとは思っていたけど、想像以上に殺到しているでしょう?早めに他にも作れば少し分散できるのではないかしら。いくら何でもあれは忙しすぎでしょう?ボンディはそう思わない?」
「はい、確かに。殺人的でございました」
「まさにそうね。レシピだけでなく素材も秘匿されているのだからそう簡単に模倣できるものでもないし、当分一人勝ちが続くと思うの。それが皆王都に集中したら、働く者も体がもたないと思うから」
もちろん、相当な利益が見込めるのは間違いないのだが、マーリアルが店の様子を見に行った際、すでに売り切れとなったと知った客が逆上しているのを見かけたのだ。
すぐ店に常駐する護衛の増員を手配したが、長く並んでやっとと思ったら、もう買えないと言われたら怒っても仕方ない気もした。
こんな過熱した状態など数日も過ぎればそのうち収まると思っていたが、一月経ってもその気配はなく、むしろ人気は高まるばかり。
「各家にどんどん人を出させて、何人か経験を積ませたら早めに出すつもりよ。ボンディもそのつもりでよろしくね」
マーリアルの店の評判は、甘い物好きな王宮の女官によりあっという間に皇后陛下まで届き、献上を求められて王家のお気に入りにもなってしまった。
実は新たな菓子を大変に気に入った皇后から、筆頭パティシエを王宮に引き抜きたいと言われたのだが、商品を開発している者がいなくなったら始めたばかりの商売が傾いてしまうとマーリアルが泣き落としたほど執着もされた。
そんな騒ぎが面倒くさくなったボンディは公爵家から出なくなり、いつしか幻のパティシエとか、本当は実在しないのではなどと噂になったが、離れに出入りする者たちはボンディが王家に盗られずに済んだことにほっとするとともに、・・・皇后陛下に渾身の演技でまさかの泣き落としをかけ、ボンディを守ったマーリアルの胆力にド肝を抜かれたのだった。
さて。
ドレイファスがビスキュイカップに入れた黄色いクレーメはキャスタード、カップにクレーメやキャスタードをいれて仕上げる菓子をトルトと名付けた頃、レシピの秘匿を確実なものにするため公爵家は新たな神殿契約を仲間貴族や使用人と結んだ。
今後一定期間は神殿の契約魔法により王家からのお召し上げであっても守られることになったのだ。
もちろん守られるものの中にはボンディも含まれる。
公爵家とボンディとの間で使用人の地位について契約を結び、契約魔法で定めた期間は双方解除の意思がない限り、他家に行くことは許されないと。
そんな縛りのきつい契約!とマトレイドに驚かれたが、ドレイファスあっての自分だとからりと返す。
「いや、辞める気ないし。ドレイファス様と離れたら私に新しい菓子は作れない、一生何が何でもここにというか、ドレイファス様にしがみつこうと思っているからな!そんな私には願ってもない契約だろう?」
言われてみれば、マトレイドも辞める気はさらさらない。ドリアンにずっとここにいろと言われたらむしろうれしいかもしれない。
ボンディが淹れたレッドティーと甘さを控えめにしたチージュケークを二人で食べながら、マトレイドは情報部の分室長になり、使用人の身上調査や新しいレシピが本当に新しいものかを調べたり、またワルターがあちこちで手に入れてきた植物の繁殖地を探したりする今の生活がとても幸せなものだと改めて感じていた。
情報部でありながら、分室では危険な仕事というのがほとんどないのだ。
長期の潜入もないのでロイダルには物足りなかったようだが、妻帯者には誠にありがたい。この暮らしがずっと続くと約束されたら、それは束縛ではなく幸せなのかもしれないとフーっと大きく息を吐いた。
マーリアルが購入したそれを、1階2階は店と厨房、3階は店員の寮にミルケラが作り変えた。
イエローに明るいグリーンのストライプの壁紙が貼られ、春の芽吹きのような心躍る意匠になっている。
「へーえ!ピンクではないんだな」
プレオープンの試食会にやってきたローザリオが意外そうにボンディに言うと、
「スイーツの店だから最初はピンクにしようと思ったんだが、ミルケラから男女どちらとも誰でも入りやすい明るい店のほうがいいんじゃないかと言われて」
ローザリオはまったく気にしないが、確かにピンクでかわいらしい店構えは男性一人では入りづらいだろう。老若男女が受け入れやすい仕上がりだ。
「ミルケラは手先が器用なだけではなく、センスもいいのだな」
しかし称賛されるべきミルケラは、今日は来ていない。ロプモス山の畑で突風被害があり、スライム小屋の修復に向かっているとか。
「ローザリオ様、いらっしゃいませ」
「マーリアル様、ご招待ありがとうございます。素晴らしい店ですね」
「菓子も素晴らしいんですの。楽しみになさっていてね」
パティシエ以外の店員たちは、全員グゥザヴィ商会から来た者たちで、よく訓練されててきぱきと動き回っており、その動きをみれば明日の開店もまったく不安はないと思える。
この店員たちを率いるのは、グゥザヴィ商会長モーダの妻サリラだ。彼女の父トロワ・ユルグがグゥザヴィ商会に合流したことで仕事の負担が軽くなったサリラは、拡張を続ける商会のために子を背負いながら人材育成に力を注いできた。
今、パティスリーブランデイルで働いている者はすべて、サリラが指導して育てた者ばかりである。
今日はサリラとモーダ、トロワももちろん呼ばれて、商会の若者たちが教えられたとおりに隅々まで気を配り、働く姿に満足していた。
ドレイファスももちろん来ている。
いつもの顔ぶれの令息令嬢たちとその家族、メイベルたちサイルズ男爵家などが入り乱れて。
「ドル、これ少しづつ味が違う」
ドレイファスとシエルドがテーブルに大量に置かれたぷるんを全部試して、くすくすと笑い合う。
「これ、ペリルを濾したのが入ってるから赤いんだよ」
学院から戻ると離れの厨房に入り浸りのドレイファスは、まるで自分が作っているように説明してやっている。
「ここにこうやって、ほら食べてみて」
自らの手でホイップしたクレーメやチージュクレーメを乗せ、シエルドに渡してやる。
「あ!いいねこれ。ほんのちょっとなのにずいぶん変わるんだな」
クレーメ好きなシエルドは匙に残ったクレーメをこっそりと舐めとる。
「シエル、お行儀悪いよ」
囁いたドレイファスだが、そのドレイファスも匙を舐めていた。
ボンディとパティシエたちはてんてこまいでビスキュイカップにクレーメを詰めたり、チージュを入れて焼いたりをくり返している。
「おお!これは女性に喜ばれそうな意匠だな」
新しい物が大好きなワルター・サンザルブ侯爵が、立食で気軽に食べられるようにトレーに置かれたケークを片っ端から手にとって口に入れていく。
「うーん!うまいな。私はこのチージュケークみたいなのが好きだ」
妻に声をかけたつもりが、振り向くとダルスラ・ロンドリン伯爵が同じものを口に押し込むところだった。
「うむ、本当にうまいな!しかも食べやすいし見た目もよい」
「これは登城のたびに強請られそうだな」
「ああ、だがぷるんを持ち帰れるようにしたのはありがたい」
小さなカップを取って見せたダルスラに、
「我が家のパティシエはぷるんを作れるから、屋敷でもいつでも食べられる」
ドヤ顔でうふふと笑うワルターに、ダルスラは肩をすくめた。
試食会は大盛況に終わり、翌日華々しく開店したパティスリーブランデイルは毎日長い行列に囲まれている。
公爵家から送られたパティシエたちが蜂の子を突いたように菓子を焼き続けているにも関わらず、どんどん売れてしまうためにいくら作っても足りない。毎日用意した材料を使い尽くしてしまうのに、それでもまだ菓子を買おうと客が並ぶほどなのだ。
最初の数日は新し物好きな通りすがりと、過去に公爵家の茶会や夜会で菓子を食べた者が来ていたが、固い食べ物が多いこの世界で、それまでにないふんわりやとろとろの食感が評判になり、あっという間に広まっていった。
「パティシエ四人では足りないのではないか?予想以上の人気だな」
ボンディは総料理長シズルに呼ばれて、店に応援を出そうと相談していた。
実はぷるんを入れる陶器のカップも、準備していたものを使い切りそうな勢いで、ミルケラ率いる合同ギルドに追加の作製を急ぐよう依頼したところだ。
「そういう発注もボンディがやっているのか?商会ではなく?」
「ああ、慣れてきたら材料なども商会の者がやることになっていますが、まだそこまでは」
「なるほど。・・・そうか、では本館から菓子も作れる者を一人と下働きを応援に出そう。しかし、新たに雇って育てることも考えないと、こちらも足りなくなりかねんぞ」
「そうですね・・・。マトレイドに探してくれるよう頼んでみます」
「ということなんだが、マティ誰かパティシエになりたいという者を探してくれないか?」
「あー、パティシエには心当たりはまったくこれっぽっちもないな。すぐ欲しいのか?」
「ああ、なるべく早くだ」
「レシピを共有しているドレイファス団の貴族家から借りたらどうだ?マーリアル様のことだ、どうせそのうち他の領地でもやるようになるだろう?先駆けというか、研修がてらとか言ってマーリアル様に相談してみたら?」
マトレイドは自分が動かずに済む代替案を提示した。
ドレイファス団と言われる貴族家は、使用人たちもすべて神殿契約を済ませているはずなので、もしそこから借りられれば迅速に信用のおける、しかも貴族の屋敷で仕事が務まるレベルのパティシエを手配できる。
「いいな!マーリアル様にご相談してくる」
そこからの話は早かった。
王都の店の騒乱ぶりを見た誰もが、あの店を自分の領地にも開店したいと思ったから。
パティシエを応援に出せば、その領地から優先して支店を出すと公爵夫妻が褒美をぶら下げたので、人員に余裕があったサンザルブとロンドリン、ハミンバールから即日パティシエが送り出されて来た。
「各家から一人ないし二人の応援を頂き、本当にありがたいです」
「よかったわ、マトレイドもよいことを思いついてくれましたわ」
「しかし、支店もお考えで?」
「上手くいくとは思っていたけど、想像以上に殺到しているでしょう?早めに他にも作れば少し分散できるのではないかしら。いくら何でもあれは忙しすぎでしょう?ボンディはそう思わない?」
「はい、確かに。殺人的でございました」
「まさにそうね。レシピだけでなく素材も秘匿されているのだからそう簡単に模倣できるものでもないし、当分一人勝ちが続くと思うの。それが皆王都に集中したら、働く者も体がもたないと思うから」
もちろん、相当な利益が見込めるのは間違いないのだが、マーリアルが店の様子を見に行った際、すでに売り切れとなったと知った客が逆上しているのを見かけたのだ。
すぐ店に常駐する護衛の増員を手配したが、長く並んでやっとと思ったら、もう買えないと言われたら怒っても仕方ない気もした。
こんな過熱した状態など数日も過ぎればそのうち収まると思っていたが、一月経ってもその気配はなく、むしろ人気は高まるばかり。
「各家にどんどん人を出させて、何人か経験を積ませたら早めに出すつもりよ。ボンディもそのつもりでよろしくね」
マーリアルの店の評判は、甘い物好きな王宮の女官によりあっという間に皇后陛下まで届き、献上を求められて王家のお気に入りにもなってしまった。
実は新たな菓子を大変に気に入った皇后から、筆頭パティシエを王宮に引き抜きたいと言われたのだが、商品を開発している者がいなくなったら始めたばかりの商売が傾いてしまうとマーリアルが泣き落としたほど執着もされた。
そんな騒ぎが面倒くさくなったボンディは公爵家から出なくなり、いつしか幻のパティシエとか、本当は実在しないのではなどと噂になったが、離れに出入りする者たちはボンディが王家に盗られずに済んだことにほっとするとともに、・・・皇后陛下に渾身の演技でまさかの泣き落としをかけ、ボンディを守ったマーリアルの胆力にド肝を抜かれたのだった。
さて。
ドレイファスがビスキュイカップに入れた黄色いクレーメはキャスタード、カップにクレーメやキャスタードをいれて仕上げる菓子をトルトと名付けた頃、レシピの秘匿を確実なものにするため公爵家は新たな神殿契約を仲間貴族や使用人と結んだ。
今後一定期間は神殿の契約魔法により王家からのお召し上げであっても守られることになったのだ。
もちろん守られるものの中にはボンディも含まれる。
公爵家とボンディとの間で使用人の地位について契約を結び、契約魔法で定めた期間は双方解除の意思がない限り、他家に行くことは許されないと。
そんな縛りのきつい契約!とマトレイドに驚かれたが、ドレイファスあっての自分だとからりと返す。
「いや、辞める気ないし。ドレイファス様と離れたら私に新しい菓子は作れない、一生何が何でもここにというか、ドレイファス様にしがみつこうと思っているからな!そんな私には願ってもない契約だろう?」
言われてみれば、マトレイドも辞める気はさらさらない。ドリアンにずっとここにいろと言われたらむしろうれしいかもしれない。
ボンディが淹れたレッドティーと甘さを控えめにしたチージュケークを二人で食べながら、マトレイドは情報部の分室長になり、使用人の身上調査や新しいレシピが本当に新しいものかを調べたり、またワルターがあちこちで手に入れてきた植物の繁殖地を探したりする今の生活がとても幸せなものだと改めて感じていた。
情報部でありながら、分室では危険な仕事というのがほとんどないのだ。
長期の潜入もないのでロイダルには物足りなかったようだが、妻帯者には誠にありがたい。この暮らしがずっと続くと約束されたら、それは束縛ではなく幸せなのかもしれないとフーっと大きく息を吐いた。
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