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193 あの黄色い液体はなあに?
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予約投稿を忘れました(-_-;)
いつもの時間をお待ちくださった方、申し訳ございません。明日はいつもの朝8時更新です。
今日は少し長めのお話です。よろしくお願い致します。
+++++++++++++++++++++++++++++++
ドレイファスはそのあともしばらく、夢らしきものを見なかった。
ただ不安になる度にルジーに言われたことを思い出してはゆっくり待ち続ける、根気よく。
一月以上経ったある夜、とうとう待望の夢が現れた。
窓から牛が見えるその景色は牧場のようだった。
なみなみと牛乳が入れられた鍋を五徳に乗せて火をつける。
ドレイファスも鍋を覗こうと目を凝らすと。
決してぐつぐつとかボコボコとか煮立たせたりせず、ゆっくり温めているようだ。
何かの棒を鍋に差し込むと文字のようなものが浮き上がる!
─魔道具?─
男はそれを確認してひとり頷いた。
火を止めるとその鍋に、黄色味がかった液体を混ぜ込んで。
ぐるぐると混ぜ込んでいると、さらさらしていた牛乳が固まりを作っていく。
それをざるに上げたのだが、最早牛乳ではなかった。
─何あれ?なんで牛乳から固まりが出てくるの?─
もわもわと湯気を立て、見るからにかなり熱そうな湯にその固まりを落としていく。
そして不思議な、まるでドレイファスの瞳のような色の長い手袋を嵌めた男が、湯の中の固まりを捏ねくり回し、引っ張ったり丸めたりしている!
─何やってるんだ?なんでぐにぐに伸びたりするの?─
散々引っ張ったあと、丸めた。
大きな鍋に水と塩のような白い粒を入れて溶かし、固まりを放り込むと、しばーらく漬け込んでから固まりを引っ張り出し、包丁で切って皿に乗せて一切れを口に入れた!
『うそ、食べられるの?』
男が、キョロキョロとあたりを見回す。
そんなことがあるはずないのだが、まるで思わずこぼれたドレイファスの声が聞こえたかのようであった。
目が覚めたドレイファスは、パッと跳ね起きる。まわりを見れば、間違いなく自分の部屋だ。
「夢、みたんだ!良かったあ!」
どれほど切望したことか。
とにかくほっとしていた。
「そうだ!」
夢の記憶をメモに書いておかなくては!
寝台から抜け出すと机に向かう。
「牛乳あたためる。ボコボコさせていなかった。それから魔道具入れて何か見てから黄色っぽい水を入れ混ぜた。ぐるぐるすると固まって・・・?んっ?なんだっけ?」
目覚める前にみた部分が思い出せない。
うーうーと唸り、首を傾げてみるが、どうもはっきりしないのだ。
「せっかくみたのになんで忘れるかな、もうっ!」
自分に対して腹がたったが、思い出そうとするほどイラつきが募る。
「とりあえず、覚えていることだけ書きとめておいて。そうだ!枕元にペンと紙を置いておくことにしよう」
そう決めると、次に夢をみたときは大丈夫だという気がしてきた。
「ルジーと話したいな」
護衛の当番でなくとも、屋敷の中にいる可能性は高い。
扉を開けると、珍しくマトレイドが立っている。
「おはようございます」
「うん、おはよう。今日ルジーは来る?」
「じきに参りますが、護衛の当番ではございません」
「うん、それはいいんだ。ちょっとルジーに会いたくて」
少しもじもじとしたドレイファスを見て、マトレイドの口元が緩む。
ドレイファスは、マトレイドでさえ羨ましいと思うほどルジーが大好きでわかりやすく甘えるのだ。
「ではのちほど、お部屋に寄るよう手配致しましょう」
その言葉に、ぱあっと笑うのがまた可愛いらしくて、そうドレイファスに言った自分に満足感を覚えたマトレイドであった。
学院に行く前、支度中にルジーがやって来た。
「ドレイファス様」
「ルジー!みたよ、やっとみた」
うれしそうに、制服の上衣を片袖通しただけで飛びついていく。
「そうか!なあ、言った通りだったろう?」
「本当だった!ルジーありがとう!」
満面の笑みのドレイファスを久しぶりに見たのはルジーだけではない。侍女のメルと、マトレイドと交代して学院まで付き添うメルクルも。
─よかった、笑ってる─
そう安堵した。
馬車に乗る前に屋敷で合流したトレモルは、ドレイファスの晴れやかな表情に一山越えたのだと気づいた。
学院に行けばシエルドとカルルドが待ち受けている。ルートリアも。いつもそばにいるトレモルとアラミス、ボルドア。
皆、ここしばらくドレイファスの様子がおかしいと気づいていたが、本人が何も言わないのでしつこくは聞かず、ただ目を離さずに見守っていた。
「おはよう」
その声の明るさに、敏感なシエルドがすぐ気づく。
「なんかスッキリした顔してる」
ドレイファスは、ほわっと微笑んだ。
「何?何かあった?」
「夢をみたんだ」
「へえ!どんなの?」
まだ全部思い出せたわけではないが、シエルドに夢の話をする度その閃きに助けられているから、ドレイファスも話したい。
「でもここじゃ話せないよ」
「あっ、そうか」
「今日離れに来る?」
こくこくとシエルドが頷いている。
ロントンがやってくるまでの僅かな間だが、ルートリアもそっちのけだ。
「先生いらしたわ、ドル様」
気づいていないらしいふたりにルートリアが注意して、ようやくそれぞれの机へと着席した。
ルートリアとドレイファスの会話を見ていたボルドアは、少し羨ましそうな顔を見せると視線を反らして仲間の学生護衛たちに訊ねる。
「アラミスやトリィはまだ婚約者いないの?」
ふたりとも首を横に振る。
「まだ、全然ないね」
「婚約したいと思う?」
「いや、ぼくは騎士になってからでいいな」
トレモルはさらりといった。
伯爵家の嫡男なので、そろそろいても良いのだが。
「いらない」
興味なさそうにはっきりと言うのは、常々令嬢たちに追い回されてうんざりしているアラミスだ。
最近、その令嬢たちの中にルートリアの姉ラライヤも交じるようになり、本気で困っている。
「本当に、いらない」
「アラミスはいた方がむしろいいんじゃない?」
「なんで?いらないってば」
「でも婚約者がいればみんなさすがに諦めるだろうから、楽になるんじゃない?」
ボルドアの何気ない一言は、アラミスにとって天啓だった。
「あ!そう言うことか!・・・お父さまに相談してみようかな」
急にやる気になったアラミスを見て、自分で言っておきながら、そう簡単には見つからないだろうなとぺろりと舌を出したボルドアだ。
授業が終わると、シエルドはドレイファスの馬車に乗り込み、ドレイファスやトレモルとともにルートリアににこやかに手を振った。
シエルドは別にルートリアにドレイファスをとられたと張り合っているわけではないが、公爵家に寄宿するトレモルはともかく、令息たちの中でもっともドレイファスと親しく近しいのは自分だと当たり前に思っていたのに、ルートリアとドレイファスが婚約したことで、バランスが変わってしまった。
以前自分と話していた時間の半分くらいは、今ルートリアと話している気がする。
シエルドの婚約者ノエミはまだ幼すぎて、ドレイファスとルートリアのような関係を築くことはできない。まあ、自分が絶対的な存在だとわかるキラキラの瞳で、とっても可愛らしいノエミに見つめられるのは悪くはないのだが。
ドレイファスとルートリアを見ると、何故かもやもやするシエルドなのだった。
「やっと話せる!ねえドル、早く夢の話をしてよ」
「じゃあ、牛乳に入れた黄色い液体が何かわかれば、それが作れそうっていうこと?」
「うん、たぶんね」
ふたりの話を聞いていたトレモルが口を挟む。
「ボンディさんに牛乳でそうやって作るものがあるかとか、黄色い液体に心当たりがないか聞いてみたら?」
「そうだね。もし知っていたらより早く辿り着けるよ。じゃあアーサにも訊いてみようよ」
護衛のアーサは後続のサンザルブ家の馬車にいる。
「そうだね、アーサ先生なら知っているかも」
シエルドの護衛アーサ・オウサルガは元A級冒険者で、他国もいろいろと旅しており、ドレイファスたちの魔法の先生でもある。
公爵家につくとドレイファスは迎えに出た侍従に荷物を預けて、シエルドと離れに向かう。トレモルは剣の稽古があると、護衛を交代したメルクルと共に鍛錬場へと分かれて。歩きながらシエルドがアーサに訊ねているのが聞こえた。
「ボンディ?」
まずは厨房に行ってボンディを探す。
奥の食料庫から野菜が詰まった籠を抱えて、エプロンをつけたボンディが現れた。
「おかえりなさい、ドレイファス様。おやつ食べたいですか?」
「うん、食べたい!けど、その前に教えてほしいことがあるんだ」
「はい、何でしょう?」
ドレイファスは夢の話を話して聞かせた。シエルドはドレイファスが言い忘れたことを補っていく。
「牛の乳は、旅先で見た限りでも知る限りはそのまま飲むか、ブレッドを浸して乳粥にして食べるくらいでしょう」
「そうですね。ぷるんのような使い方も初めて知りましたから」
「ウィザにも聞いてみてはいかがですか?」
ノエミの護衛についているウィザ・メラニアルも元冒険者で、数多くの旅をしてきた者である。アーサの勧めに応じ、ドレイファスがウィザを呼ぶようにと厨房の外を通りかかった使用人に頼む。
しばらく待つと、ひとりふらりとやって来た。
白狼を連れずに歩いているのは珍しい。
「ウィザ!」
「ドレイファス様、お呼びと伺いました」
「うん、来てくれてありがとう。ちょっと教えてほしいんだ」
アーサに気づいて二度瞬きをし、ドレイファスの話を聞いて小首を傾げた。
「牛の乳の料理ですか?料理というか、温めて飲む物でしたから、こちらに来て料理すると聞いて驚いたくらいで」
ウィザには思い当たることはないようだ。
ボンディも。
「牛乳を固めて食べるもの?聞いたことないと思いますよ」
「では、黄色い透明っぽい液体って見たり聞いたりしたことは?」
「黄色く透明な液体?」
かなり抽象的である。
「それは食べ物?飲み物?それ以外ですか?」
ボンディの言葉に困ったように眉頭を寄せたドレイファスの答えは。
「わからないんだ」
「そうですか、ちょっと思い出せるものがないなあ」
ごまかし笑いを浮かべたボンディが肩を揺する。
「そうだよね、もうちょっと何かわかるといいんだけど」
「では、また新たな夢をご覧になったら、そのときに教えて下さい。私は別途調べておきますのでね」
そういったボンディにアーサもウィザも同意する。
「ありがとう」
「それで、それは食べ物ってことでいいんです」
「たぶんね」
「それは、すごく楽しみですね!」
頬を紅潮させたボンディは言葉に力を込めた。
いつもの時間をお待ちくださった方、申し訳ございません。明日はいつもの朝8時更新です。
今日は少し長めのお話です。よろしくお願い致します。
+++++++++++++++++++++++++++++++
ドレイファスはそのあともしばらく、夢らしきものを見なかった。
ただ不安になる度にルジーに言われたことを思い出してはゆっくり待ち続ける、根気よく。
一月以上経ったある夜、とうとう待望の夢が現れた。
窓から牛が見えるその景色は牧場のようだった。
なみなみと牛乳が入れられた鍋を五徳に乗せて火をつける。
ドレイファスも鍋を覗こうと目を凝らすと。
決してぐつぐつとかボコボコとか煮立たせたりせず、ゆっくり温めているようだ。
何かの棒を鍋に差し込むと文字のようなものが浮き上がる!
─魔道具?─
男はそれを確認してひとり頷いた。
火を止めるとその鍋に、黄色味がかった液体を混ぜ込んで。
ぐるぐると混ぜ込んでいると、さらさらしていた牛乳が固まりを作っていく。
それをざるに上げたのだが、最早牛乳ではなかった。
─何あれ?なんで牛乳から固まりが出てくるの?─
もわもわと湯気を立て、見るからにかなり熱そうな湯にその固まりを落としていく。
そして不思議な、まるでドレイファスの瞳のような色の長い手袋を嵌めた男が、湯の中の固まりを捏ねくり回し、引っ張ったり丸めたりしている!
─何やってるんだ?なんでぐにぐに伸びたりするの?─
散々引っ張ったあと、丸めた。
大きな鍋に水と塩のような白い粒を入れて溶かし、固まりを放り込むと、しばーらく漬け込んでから固まりを引っ張り出し、包丁で切って皿に乗せて一切れを口に入れた!
『うそ、食べられるの?』
男が、キョロキョロとあたりを見回す。
そんなことがあるはずないのだが、まるで思わずこぼれたドレイファスの声が聞こえたかのようであった。
目が覚めたドレイファスは、パッと跳ね起きる。まわりを見れば、間違いなく自分の部屋だ。
「夢、みたんだ!良かったあ!」
どれほど切望したことか。
とにかくほっとしていた。
「そうだ!」
夢の記憶をメモに書いておかなくては!
寝台から抜け出すと机に向かう。
「牛乳あたためる。ボコボコさせていなかった。それから魔道具入れて何か見てから黄色っぽい水を入れ混ぜた。ぐるぐるすると固まって・・・?んっ?なんだっけ?」
目覚める前にみた部分が思い出せない。
うーうーと唸り、首を傾げてみるが、どうもはっきりしないのだ。
「せっかくみたのになんで忘れるかな、もうっ!」
自分に対して腹がたったが、思い出そうとするほどイラつきが募る。
「とりあえず、覚えていることだけ書きとめておいて。そうだ!枕元にペンと紙を置いておくことにしよう」
そう決めると、次に夢をみたときは大丈夫だという気がしてきた。
「ルジーと話したいな」
護衛の当番でなくとも、屋敷の中にいる可能性は高い。
扉を開けると、珍しくマトレイドが立っている。
「おはようございます」
「うん、おはよう。今日ルジーは来る?」
「じきに参りますが、護衛の当番ではございません」
「うん、それはいいんだ。ちょっとルジーに会いたくて」
少しもじもじとしたドレイファスを見て、マトレイドの口元が緩む。
ドレイファスは、マトレイドでさえ羨ましいと思うほどルジーが大好きでわかりやすく甘えるのだ。
「ではのちほど、お部屋に寄るよう手配致しましょう」
その言葉に、ぱあっと笑うのがまた可愛いらしくて、そうドレイファスに言った自分に満足感を覚えたマトレイドであった。
学院に行く前、支度中にルジーがやって来た。
「ドレイファス様」
「ルジー!みたよ、やっとみた」
うれしそうに、制服の上衣を片袖通しただけで飛びついていく。
「そうか!なあ、言った通りだったろう?」
「本当だった!ルジーありがとう!」
満面の笑みのドレイファスを久しぶりに見たのはルジーだけではない。侍女のメルと、マトレイドと交代して学院まで付き添うメルクルも。
─よかった、笑ってる─
そう安堵した。
馬車に乗る前に屋敷で合流したトレモルは、ドレイファスの晴れやかな表情に一山越えたのだと気づいた。
学院に行けばシエルドとカルルドが待ち受けている。ルートリアも。いつもそばにいるトレモルとアラミス、ボルドア。
皆、ここしばらくドレイファスの様子がおかしいと気づいていたが、本人が何も言わないのでしつこくは聞かず、ただ目を離さずに見守っていた。
「おはよう」
その声の明るさに、敏感なシエルドがすぐ気づく。
「なんかスッキリした顔してる」
ドレイファスは、ほわっと微笑んだ。
「何?何かあった?」
「夢をみたんだ」
「へえ!どんなの?」
まだ全部思い出せたわけではないが、シエルドに夢の話をする度その閃きに助けられているから、ドレイファスも話したい。
「でもここじゃ話せないよ」
「あっ、そうか」
「今日離れに来る?」
こくこくとシエルドが頷いている。
ロントンがやってくるまでの僅かな間だが、ルートリアもそっちのけだ。
「先生いらしたわ、ドル様」
気づいていないらしいふたりにルートリアが注意して、ようやくそれぞれの机へと着席した。
ルートリアとドレイファスの会話を見ていたボルドアは、少し羨ましそうな顔を見せると視線を反らして仲間の学生護衛たちに訊ねる。
「アラミスやトリィはまだ婚約者いないの?」
ふたりとも首を横に振る。
「まだ、全然ないね」
「婚約したいと思う?」
「いや、ぼくは騎士になってからでいいな」
トレモルはさらりといった。
伯爵家の嫡男なので、そろそろいても良いのだが。
「いらない」
興味なさそうにはっきりと言うのは、常々令嬢たちに追い回されてうんざりしているアラミスだ。
最近、その令嬢たちの中にルートリアの姉ラライヤも交じるようになり、本気で困っている。
「本当に、いらない」
「アラミスはいた方がむしろいいんじゃない?」
「なんで?いらないってば」
「でも婚約者がいればみんなさすがに諦めるだろうから、楽になるんじゃない?」
ボルドアの何気ない一言は、アラミスにとって天啓だった。
「あ!そう言うことか!・・・お父さまに相談してみようかな」
急にやる気になったアラミスを見て、自分で言っておきながら、そう簡単には見つからないだろうなとぺろりと舌を出したボルドアだ。
授業が終わると、シエルドはドレイファスの馬車に乗り込み、ドレイファスやトレモルとともにルートリアににこやかに手を振った。
シエルドは別にルートリアにドレイファスをとられたと張り合っているわけではないが、公爵家に寄宿するトレモルはともかく、令息たちの中でもっともドレイファスと親しく近しいのは自分だと当たり前に思っていたのに、ルートリアとドレイファスが婚約したことで、バランスが変わってしまった。
以前自分と話していた時間の半分くらいは、今ルートリアと話している気がする。
シエルドの婚約者ノエミはまだ幼すぎて、ドレイファスとルートリアのような関係を築くことはできない。まあ、自分が絶対的な存在だとわかるキラキラの瞳で、とっても可愛らしいノエミに見つめられるのは悪くはないのだが。
ドレイファスとルートリアを見ると、何故かもやもやするシエルドなのだった。
「やっと話せる!ねえドル、早く夢の話をしてよ」
「じゃあ、牛乳に入れた黄色い液体が何かわかれば、それが作れそうっていうこと?」
「うん、たぶんね」
ふたりの話を聞いていたトレモルが口を挟む。
「ボンディさんに牛乳でそうやって作るものがあるかとか、黄色い液体に心当たりがないか聞いてみたら?」
「そうだね。もし知っていたらより早く辿り着けるよ。じゃあアーサにも訊いてみようよ」
護衛のアーサは後続のサンザルブ家の馬車にいる。
「そうだね、アーサ先生なら知っているかも」
シエルドの護衛アーサ・オウサルガは元A級冒険者で、他国もいろいろと旅しており、ドレイファスたちの魔法の先生でもある。
公爵家につくとドレイファスは迎えに出た侍従に荷物を預けて、シエルドと離れに向かう。トレモルは剣の稽古があると、護衛を交代したメルクルと共に鍛錬場へと分かれて。歩きながらシエルドがアーサに訊ねているのが聞こえた。
「ボンディ?」
まずは厨房に行ってボンディを探す。
奥の食料庫から野菜が詰まった籠を抱えて、エプロンをつけたボンディが現れた。
「おかえりなさい、ドレイファス様。おやつ食べたいですか?」
「うん、食べたい!けど、その前に教えてほしいことがあるんだ」
「はい、何でしょう?」
ドレイファスは夢の話を話して聞かせた。シエルドはドレイファスが言い忘れたことを補っていく。
「牛の乳は、旅先で見た限りでも知る限りはそのまま飲むか、ブレッドを浸して乳粥にして食べるくらいでしょう」
「そうですね。ぷるんのような使い方も初めて知りましたから」
「ウィザにも聞いてみてはいかがですか?」
ノエミの護衛についているウィザ・メラニアルも元冒険者で、数多くの旅をしてきた者である。アーサの勧めに応じ、ドレイファスがウィザを呼ぶようにと厨房の外を通りかかった使用人に頼む。
しばらく待つと、ひとりふらりとやって来た。
白狼を連れずに歩いているのは珍しい。
「ウィザ!」
「ドレイファス様、お呼びと伺いました」
「うん、来てくれてありがとう。ちょっと教えてほしいんだ」
アーサに気づいて二度瞬きをし、ドレイファスの話を聞いて小首を傾げた。
「牛の乳の料理ですか?料理というか、温めて飲む物でしたから、こちらに来て料理すると聞いて驚いたくらいで」
ウィザには思い当たることはないようだ。
ボンディも。
「牛乳を固めて食べるもの?聞いたことないと思いますよ」
「では、黄色い透明っぽい液体って見たり聞いたりしたことは?」
「黄色く透明な液体?」
かなり抽象的である。
「それは食べ物?飲み物?それ以外ですか?」
ボンディの言葉に困ったように眉頭を寄せたドレイファスの答えは。
「わからないんだ」
「そうですか、ちょっと思い出せるものがないなあ」
ごまかし笑いを浮かべたボンディが肩を揺する。
「そうだよね、もうちょっと何かわかるといいんだけど」
「では、また新たな夢をご覧になったら、そのときに教えて下さい。私は別途調べておきますのでね」
そういったボンディにアーサもウィザも同意する。
「ありがとう」
「それで、それは食べ物ってことでいいんです」
「たぶんね」
「それは、すごく楽しみですね!」
頬を紅潮させたボンディは言葉に力を込めた。
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