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190 汚名返上す
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捕らえられたボーガと手下たちは、そのまま公爵家へと運ばれていった。
「ご苦労だった、よくやってくれた」
ドリアンに報告に行ったノーラムは、報奨を出すと言うドリアンから目録を受け取り驚いた。
「こんなに!身に余る光栄です」
「今回ノーラムが進言してくれたおかげで、サンドノブの尾を踏むことができたのだ。泡の水も守ることができたし、足りないくらいかと思っていたのだが」
「いえ、足りないなんてとんでもございません!」
「そうか?それならよかった。これからも励んでくれ。それでサンドノブの倅は今どこに?」
「地下牢にいれてございます」
「うむ、身元を知っているからあまり手荒いこともできぬのが歯がゆいが、ラスライトの息子について訊いてみてくれないか?わかっていると思うが、今のところはサンドノブに返すときのことを考えてくれぐれも無理をするなよ」
ノーラムはこくんと深く頷くと、礼をして退出した。行き先はもちろん地下牢だ。
「こんなところに閉じ込めて、タダじゃおかないからな」
「私は水泥棒を捕まえた、それが貴方だったというだけのことです」
地下牢と言っても、貴族を入れておくためのものなので、寝台もソファもテーブルもそれなりのものが設置されている。
泥棒に座らせるにはふっかりとしたソファに腰を沈めたボーガは、ノーラムを睨みつけた。
「侯爵家の令息ともあろう者が盗みなど恥ずかしくないのですか?」
「・・・・・」
「さっきまでの勢いはどうなさいました?都合悪いことはだんまりですか。まあよろしいでしょう、時間はいくらでもありますからね。腹は空きませんか?私も夕餉を摂ってくるので何か運ばせましょう」
ボーガの食事はなるべく簡素にしたが、使用人の食事としても特産の塩や、ドレイファスが作り出したバター、クレーメなどを使った美味なものばかりだ。
食事を出し入れするための小さな扉が開けられ、トレーごと差し込まれた質素に見える食事に文句を言ったが、腹が減っては戦はできぬと仕方なく匙を取ったボーガは。
「ん!うまい」
一気に食べ始めた。
「うまい、うまい、何だこれ美味すぎる!」
囚われた人間に出すような食事とは、とても思えない。
サンドノブ侯爵家の食事が素晴らしいと思っていたのは何だったのか。食べ終えたボーガはしばらく呆然としていたが、同じ貴族でありながらこの差に腹を立て始めた。
「公爵と侯爵でそんなにも差があるものなのか?公爵ってだけでこんな美味いものを食べるなんて狡いじゃないか!」
広大なゴーナ王国にある公爵家は3家。
フォンブランデイルの他、エンローバールとミレルリアルのみ。侯爵は17家と少し多くなり、辺境伯家が国の四方に4家、伯爵家はかなり増えて70家ほど。新興貴族も多い子爵・男爵以下は文官貴族も入れると数え切れないほどだ。
圧倒的に少ない公爵家とは接点のなかったボーガではわからなくとも仕方がない。いや、エンローバールやミレルリアルだとしてもこの食事は出てこないのだが。
「食べ終えましたか?どうです、美味かったでしょう」
ニヤニヤとノーラムが訊ねる。
「私は王城騎士団にもおり、あちこち回りましたが、ここの食事は本当に最高に特別なんです」
「ここが特別?」
「そうですね、塩が採れるのでしっかりした味付けができるのです」
本当はバターなども入っているが、余計なことは言わない。
「まあお疲れでしょうから、話は明日うかがいますので」
美味い食事とデザートで懐柔するノーラムに、いつしかボーガの警戒心は解れていき、数日後、ドリアンが、そしてラスライト家の皆が知りたいと渇望した情報を得ることができた。
「ドリアン様、これを」
ノーラムが調書を持って現れたので、目を通し、にんまりと笑う。
「ノーラムよくやってくれた!期待以上だ」
「ありがとうございます」
「やはり囚われていたのだな。ラスライトの倅を救出できればよいが・・・、サンドノブに残したまま事を起こすと証拠隠滅に害されることもあるだろう。ラスライトと、いつものメンバーにエライオも呼ぶか」
相談事をしたいときのいつもの顔ぶれと、今回は、姻戚となるハミンバール侯爵家、当事者のラスライト伯爵家に書状を送り、至急の訪問を促した。
ソーメラズ・ラスライト伯爵は、親しいとは言えないフォンブランデイル公爵からの呼び出しに戸惑っていた。
次男エメリーズが公爵家嫡男と学友で、親しくしてもらっているくらいしか付き合いはない。エメリーズが何かやってしまったのだろうかと不安になったが、学院に行っているので確かめようがない。
「フォンブランデイル公爵から呼び出しが来た、出かけてくるよ」
イラサ夫人に告げ、護衛たちと馬に乗った。
公爵家まで二刻ほどの道を駆け抜け、着いてみるとその広大さに圧倒される。
「お待ちしておりました、皆様もうお揃いでございますので、そのままこちらへどうぞ」
執事マドゥーンに案内されるまま、ソーメラズは屋敷の素晴らしい調度品に目をやる時間もなかった。
「ラスライト伯爵ソーメラズにございます」
扉が開くと同時に名乗ったが、室内には顔を見たことがある程度の貴族たちがぞろりと揃っている。
「ラスライト伯爵、よく来てくれた」
ドリアンに声をかけられると、ソーメラズは急に緊張した。
「ここにいるのは私がもっとも信頼する貴族たちだ、心配なさらずに。知らない者もいるだろうから、自己紹介をしよう」
そう促されてひとりづつ、自己紹介をしていった。
「では、まずこれを読んでほしい」
ソーメラズはマドゥーンが持って来た紙綴りに目を通すうち、わなわなと手が震え始め、真っ赤になった。
「これはっ!一体どういうことでしょうか」
「我らが行う事業に手を出してきた者を捕らえたところ、サンドノブの手の者だった。
事態はその者だけを処罰すればよい話ではなく、我らは指示を出したサンドノブ侯爵もともに断罪したいと考えたが、しかし相手は狡猾だ。一つの小さな盗みだけでは刑が軽く済んでしまうだろう。考え倦ね、調査を重ねるうちにこの情報を得た。
我らだけでは些細な盗難事件に過ぎなくとも、ここにラスライト伯爵家の話が絡めば、どうだと思う?」
「重大事件になるかと」
ワルターが口を挟み、それを受けたドリアンがソーメラズの緊張をほぐすようににっこりと笑ったあと、表情を変えて訊ねた。
「サンドノブを断罪するために、我らと手を携えてくれないだろうか」
「も、もちろんです!むしろこちらからお願い致します。私たちではいくら捜索しても辿り着けませんでしたが、これこそ我がラスライトの汚名を晴らす唯一の機会でございましょう、この場にお声がけ下さったこと、心より感謝申し上げます」
「うむ。では相談なのだが」
結局、サンドノブ侯爵邸からラスライトの長男マイクロスを先に救出するのは難しそうだと結論を出し、王城騎士団のクロードゥル・ヤンニルが情報を上にあげて見張りを強化。
根回し後、国王陛下に裁可を仰ぐという、割と普通な手順で断罪することが決められた。
「サンドノブの次男はどうなさいますか?」
「陛下にお預けするのが良いだろう。お目通りする際に連れて行こう」
長く込み入った話が終わると、ちょうど夕餉の頃合いになっていた。
「せっかくだ、運命共同体になったのだからラスライト伯爵もともに夕餉をどうかね?」
ドリアンの誘いに、公爵側近たちに交ざって食堂席に着いた。
運ばれてきたスープの一口目で顔つきが変わる。
「素晴らしい味だ!さすがフォンブランデイル公爵家でございますな」
「気に入られたかね」
満足そうなドリアンである。
「縁ができたのだ、息子たちも仲がよいようだし、この件が片付いたらもっと親しく付き合いたいものだな」
そう公爵に言われて断る者はいないだろう。
ラスライトは鉱物と宝石資源に恵まれた資金力を拠り所に、長らくこれという派閥に属さずにきた。
いままではそれでよかったが、その豊かさと後ろ盾がなかったことが仇となり、サンドノブに目をつけられたと言っても間違いではない。
今後を考えると、せっかく次期公爵と新たな嫡男が親しくしているのだ。この機会を逃すことはない。
ソーメラズもにっこりと、そして真剣な瞳で頷いた。
国王陛下に、ラスライト、フォンブランデイルなどいくつかの貴族から合同の陳情があり、同時に騎士団からもサンドノブ家に監禁された貴族がいるらしいと報告があがる。
さすがにここまで揃うと言い訳もできまいと、国王自ら指示を出し、王城騎士団をサンドノブ家に乗り込ませて監禁された者たちを救出させた。
あろうことかサンドノブ家の地下牢には、マイクロス・ラスライトの他にも出奔したと噂され消息不明になっていた数人の貴族も痩せ細った姿で囚われており、青息吐息で救出された。
皆、サンドノブ侯爵に罪を着せられたり、悪事を目撃したことで囚われていたと後の調査で判明したが。
「殺されなくてよかった」
ワルターの言葉に皆が頷く。
「しかしその方が簡単だ、何故生かしておいたのだろう?」
答えたのは王城騎士のクロードゥル・ヤンニルだ。
「時間をかけてもう助からないというところまで弱らせてから町に捨て、さも逃亡に疲れて行き倒れたように見せていたらしい」
「ええっ!そんな、なんて酷い」
たぶんもっとも善良なランカイド・スートレラが顔を顰めながら呟いている。
「ん?ということは、過去にも?」
「ええ、何人も既に」
重苦しい沈黙が公爵家の応接間を満たしていった。
「陛下はどのように裁かれるだろうな」
「アサルティのような国家転覆を狙ったものとは違い、私利私欲にすぎないから一族連座はさすがにないだろう。もう少し軽いのでは?」
ダルスラ・ロンドリンが言うと、ヌレイグ・モンガルが首を振る。
「しかしサンドノブ侯爵はダメだろうな」
「そうだな、いくらなんでもこれはやり過ぎた。・・・愚かな親に育てられた愚かな息子たちはどうなるのだろうな」
「関わりの深さにより・・・しかし、どちらにしても家は取り潰し、財産は取り上げられて被害者へ弁済される。今助かっても、修道院にでも入らない限り生き残れはしまいて」
ワルターの言葉にドリアンは、王城に連行されるときにちらりと見かけたボーガを思い出すとため息をついた。
「ご苦労だった、よくやってくれた」
ドリアンに報告に行ったノーラムは、報奨を出すと言うドリアンから目録を受け取り驚いた。
「こんなに!身に余る光栄です」
「今回ノーラムが進言してくれたおかげで、サンドノブの尾を踏むことができたのだ。泡の水も守ることができたし、足りないくらいかと思っていたのだが」
「いえ、足りないなんてとんでもございません!」
「そうか?それならよかった。これからも励んでくれ。それでサンドノブの倅は今どこに?」
「地下牢にいれてございます」
「うむ、身元を知っているからあまり手荒いこともできぬのが歯がゆいが、ラスライトの息子について訊いてみてくれないか?わかっていると思うが、今のところはサンドノブに返すときのことを考えてくれぐれも無理をするなよ」
ノーラムはこくんと深く頷くと、礼をして退出した。行き先はもちろん地下牢だ。
「こんなところに閉じ込めて、タダじゃおかないからな」
「私は水泥棒を捕まえた、それが貴方だったというだけのことです」
地下牢と言っても、貴族を入れておくためのものなので、寝台もソファもテーブルもそれなりのものが設置されている。
泥棒に座らせるにはふっかりとしたソファに腰を沈めたボーガは、ノーラムを睨みつけた。
「侯爵家の令息ともあろう者が盗みなど恥ずかしくないのですか?」
「・・・・・」
「さっきまでの勢いはどうなさいました?都合悪いことはだんまりですか。まあよろしいでしょう、時間はいくらでもありますからね。腹は空きませんか?私も夕餉を摂ってくるので何か運ばせましょう」
ボーガの食事はなるべく簡素にしたが、使用人の食事としても特産の塩や、ドレイファスが作り出したバター、クレーメなどを使った美味なものばかりだ。
食事を出し入れするための小さな扉が開けられ、トレーごと差し込まれた質素に見える食事に文句を言ったが、腹が減っては戦はできぬと仕方なく匙を取ったボーガは。
「ん!うまい」
一気に食べ始めた。
「うまい、うまい、何だこれ美味すぎる!」
囚われた人間に出すような食事とは、とても思えない。
サンドノブ侯爵家の食事が素晴らしいと思っていたのは何だったのか。食べ終えたボーガはしばらく呆然としていたが、同じ貴族でありながらこの差に腹を立て始めた。
「公爵と侯爵でそんなにも差があるものなのか?公爵ってだけでこんな美味いものを食べるなんて狡いじゃないか!」
広大なゴーナ王国にある公爵家は3家。
フォンブランデイルの他、エンローバールとミレルリアルのみ。侯爵は17家と少し多くなり、辺境伯家が国の四方に4家、伯爵家はかなり増えて70家ほど。新興貴族も多い子爵・男爵以下は文官貴族も入れると数え切れないほどだ。
圧倒的に少ない公爵家とは接点のなかったボーガではわからなくとも仕方がない。いや、エンローバールやミレルリアルだとしてもこの食事は出てこないのだが。
「食べ終えましたか?どうです、美味かったでしょう」
ニヤニヤとノーラムが訊ねる。
「私は王城騎士団にもおり、あちこち回りましたが、ここの食事は本当に最高に特別なんです」
「ここが特別?」
「そうですね、塩が採れるのでしっかりした味付けができるのです」
本当はバターなども入っているが、余計なことは言わない。
「まあお疲れでしょうから、話は明日うかがいますので」
美味い食事とデザートで懐柔するノーラムに、いつしかボーガの警戒心は解れていき、数日後、ドリアンが、そしてラスライト家の皆が知りたいと渇望した情報を得ることができた。
「ドリアン様、これを」
ノーラムが調書を持って現れたので、目を通し、にんまりと笑う。
「ノーラムよくやってくれた!期待以上だ」
「ありがとうございます」
「やはり囚われていたのだな。ラスライトの倅を救出できればよいが・・・、サンドノブに残したまま事を起こすと証拠隠滅に害されることもあるだろう。ラスライトと、いつものメンバーにエライオも呼ぶか」
相談事をしたいときのいつもの顔ぶれと、今回は、姻戚となるハミンバール侯爵家、当事者のラスライト伯爵家に書状を送り、至急の訪問を促した。
ソーメラズ・ラスライト伯爵は、親しいとは言えないフォンブランデイル公爵からの呼び出しに戸惑っていた。
次男エメリーズが公爵家嫡男と学友で、親しくしてもらっているくらいしか付き合いはない。エメリーズが何かやってしまったのだろうかと不安になったが、学院に行っているので確かめようがない。
「フォンブランデイル公爵から呼び出しが来た、出かけてくるよ」
イラサ夫人に告げ、護衛たちと馬に乗った。
公爵家まで二刻ほどの道を駆け抜け、着いてみるとその広大さに圧倒される。
「お待ちしておりました、皆様もうお揃いでございますので、そのままこちらへどうぞ」
執事マドゥーンに案内されるまま、ソーメラズは屋敷の素晴らしい調度品に目をやる時間もなかった。
「ラスライト伯爵ソーメラズにございます」
扉が開くと同時に名乗ったが、室内には顔を見たことがある程度の貴族たちがぞろりと揃っている。
「ラスライト伯爵、よく来てくれた」
ドリアンに声をかけられると、ソーメラズは急に緊張した。
「ここにいるのは私がもっとも信頼する貴族たちだ、心配なさらずに。知らない者もいるだろうから、自己紹介をしよう」
そう促されてひとりづつ、自己紹介をしていった。
「では、まずこれを読んでほしい」
ソーメラズはマドゥーンが持って来た紙綴りに目を通すうち、わなわなと手が震え始め、真っ赤になった。
「これはっ!一体どういうことでしょうか」
「我らが行う事業に手を出してきた者を捕らえたところ、サンドノブの手の者だった。
事態はその者だけを処罰すればよい話ではなく、我らは指示を出したサンドノブ侯爵もともに断罪したいと考えたが、しかし相手は狡猾だ。一つの小さな盗みだけでは刑が軽く済んでしまうだろう。考え倦ね、調査を重ねるうちにこの情報を得た。
我らだけでは些細な盗難事件に過ぎなくとも、ここにラスライト伯爵家の話が絡めば、どうだと思う?」
「重大事件になるかと」
ワルターが口を挟み、それを受けたドリアンがソーメラズの緊張をほぐすようににっこりと笑ったあと、表情を変えて訊ねた。
「サンドノブを断罪するために、我らと手を携えてくれないだろうか」
「も、もちろんです!むしろこちらからお願い致します。私たちではいくら捜索しても辿り着けませんでしたが、これこそ我がラスライトの汚名を晴らす唯一の機会でございましょう、この場にお声がけ下さったこと、心より感謝申し上げます」
「うむ。では相談なのだが」
結局、サンドノブ侯爵邸からラスライトの長男マイクロスを先に救出するのは難しそうだと結論を出し、王城騎士団のクロードゥル・ヤンニルが情報を上にあげて見張りを強化。
根回し後、国王陛下に裁可を仰ぐという、割と普通な手順で断罪することが決められた。
「サンドノブの次男はどうなさいますか?」
「陛下にお預けするのが良いだろう。お目通りする際に連れて行こう」
長く込み入った話が終わると、ちょうど夕餉の頃合いになっていた。
「せっかくだ、運命共同体になったのだからラスライト伯爵もともに夕餉をどうかね?」
ドリアンの誘いに、公爵側近たちに交ざって食堂席に着いた。
運ばれてきたスープの一口目で顔つきが変わる。
「素晴らしい味だ!さすがフォンブランデイル公爵家でございますな」
「気に入られたかね」
満足そうなドリアンである。
「縁ができたのだ、息子たちも仲がよいようだし、この件が片付いたらもっと親しく付き合いたいものだな」
そう公爵に言われて断る者はいないだろう。
ラスライトは鉱物と宝石資源に恵まれた資金力を拠り所に、長らくこれという派閥に属さずにきた。
いままではそれでよかったが、その豊かさと後ろ盾がなかったことが仇となり、サンドノブに目をつけられたと言っても間違いではない。
今後を考えると、せっかく次期公爵と新たな嫡男が親しくしているのだ。この機会を逃すことはない。
ソーメラズもにっこりと、そして真剣な瞳で頷いた。
国王陛下に、ラスライト、フォンブランデイルなどいくつかの貴族から合同の陳情があり、同時に騎士団からもサンドノブ家に監禁された貴族がいるらしいと報告があがる。
さすがにここまで揃うと言い訳もできまいと、国王自ら指示を出し、王城騎士団をサンドノブ家に乗り込ませて監禁された者たちを救出させた。
あろうことかサンドノブ家の地下牢には、マイクロス・ラスライトの他にも出奔したと噂され消息不明になっていた数人の貴族も痩せ細った姿で囚われており、青息吐息で救出された。
皆、サンドノブ侯爵に罪を着せられたり、悪事を目撃したことで囚われていたと後の調査で判明したが。
「殺されなくてよかった」
ワルターの言葉に皆が頷く。
「しかしその方が簡単だ、何故生かしておいたのだろう?」
答えたのは王城騎士のクロードゥル・ヤンニルだ。
「時間をかけてもう助からないというところまで弱らせてから町に捨て、さも逃亡に疲れて行き倒れたように見せていたらしい」
「ええっ!そんな、なんて酷い」
たぶんもっとも善良なランカイド・スートレラが顔を顰めながら呟いている。
「ん?ということは、過去にも?」
「ええ、何人も既に」
重苦しい沈黙が公爵家の応接間を満たしていった。
「陛下はどのように裁かれるだろうな」
「アサルティのような国家転覆を狙ったものとは違い、私利私欲にすぎないから一族連座はさすがにないだろう。もう少し軽いのでは?」
ダルスラ・ロンドリンが言うと、ヌレイグ・モンガルが首を振る。
「しかしサンドノブ侯爵はダメだろうな」
「そうだな、いくらなんでもこれはやり過ぎた。・・・愚かな親に育てられた愚かな息子たちはどうなるのだろうな」
「関わりの深さにより・・・しかし、どちらにしても家は取り潰し、財産は取り上げられて被害者へ弁済される。今助かっても、修道院にでも入らない限り生き残れはしまいて」
ワルターの言葉にドリアンは、王城に連行されるときにちらりと見かけたボーガを思い出すとため息をついた。
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