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188 新たな仲間
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カルルドは、タンジェントから二つの種類の花を何本かもらった。
今まだアイルムがスートレラ家に常駐しているので、あとはアイルムに任せればきっと増やしてくれる。
「これ、はちみつ採れるほど花が咲くのっていつ頃になるのかな」
独り言だったが、エーメはニヤーッと笑うと
「新しいはちみつって、モルトベーネ嬢へのプレゼントなんだろう?カルディってモルトベーネ嬢のこと、けっこう好きなんだな」
そうからかった。
「すっ、好きとかまだわからないけど、モルトベーネ嬢と一緒だと楽しいから」
「ふうん、政略結婚で相手といるのが楽しいっていいな」
「えっ?兄上はトロイラ様と一緒で楽しくないの?」
カルルドからブーメランが放たれる。
「い、いや。た、楽しいぞすごく」
「そう、よかったね兄上も」
わかっているのかいないのか。
しかしにこにこされるとなんだか胸が痛む。
こういうことでカルルドをからかうのは止めようと、エーメは自分に言い聞かせた。
新しい花をカルルドが探していると聞き、シエルドがハニサックルという細長い花を持って来てくれた。
最近ワルターが出先で見つけてきたもので、知らせを受けたモリエールが採取に向かっているらしい。
ハニサックルと、ゼノが見つけたリンゲイ、クロヴァーも今まで何かに利用されたことがない植物だ。
タンジェントとシエルドの鑑定で、トロンビーが蜜を集めることが可能だったり、フラワーオイルなどが作成可能なものと確認している。
あとはどんな味や、香り、色のはちみつが採れるのか、花がたくさん咲いてからのお楽しみである。
「はちみつの種類も着々と増えてきたが、花もこんなにどんどん植えていると、畑の土地がすぐ足りなくなりそうだな」
そう呟いたエーメは、スートレラ家の所有地で他に花畑が作れそうなところはなかったかと考えを巡らせた。
「なあカルディ、新たな畑を早めに父上に相談しよう」
ハッとしたカルルドは隣りに兄がいてよかったと思った。何故なら、自分ならもっとぎりぎりになるまで畑を増やす相談と思いつかなかっただろうから。
「うん兄上、ありがとうございます」
年の離れたかわいい弟の素直な感謝に、エーメはカルルドの頭をぐりぐりと撫で回した。
「ああ、もっとたくさん畑を作って、もっとはちみつ採って、ざくざく金を稼ごうな!」
今のカルルドにとって、はちみつはトロンビーの研究の成果に過ぎず、高値で売れていることもその結果の一つでしかない。それでも父や兄がこんなにも喜んでくれることを自分が成し遂げているのは誇らしかった。
「はい、もっと稼ぎましょう」
なんとなく兄に同調した答えを返していた。
「カルディのはちみつって本当に美味しいね」
今日はドレイファスの催した茶会である。
名を呼ばれたカルルドとモルトベーネ、シエルドとボルドア、アラミス、トレモル、ルートリアはもちろんだが、エメリーズ・ラスライトも姿を見せた。
「お招き頂きありがとうございます」
兄の醜聞以来すっかりおとなしくなってしまったエメリーズを、なんとなく皆で囲み、なんとなく守っている。
一緒にいることが当たり前になりつつあるこの頃、茶会に呼ぶのも当たり前のように思えたのだ。
「エメリーズはこっちに座って」
念願叶い、初めての茶会にうれしそうな顔でエメリーズが椅子に座ると、ボンディと給仕がやって来てデザートを用意する。ウィーを焼いてクレーメを乗せたもの、ペリルを浮かべた泡の水はほんのりはちみつの味もする。
「おいしい!」
「気に入った?」
「はい、すごく」
「じゃあもっとたくさん食べて」
ドレイファスがボンディに目配せすると、ボンディが腕によりをかけたスイーツが次から次から出され、エメリーズは片っ端から食べては頬を染めていく。
「んんんまぁい」
最早何が出てきても、うまい、おいしいとしか言わなくなったが、その顔は満足度をわかりやすく表して、幸せそうだ。
「よかった、エメリーズが喜んでくれて」
ニコニコするドレイファスに、座り直したエメリーズが真面目な顔をすると頭を下げた。
「あの。本当に本当に、皆さんありがとうございます」
「何、急にどうしたの?」
「兄のことがあったのに、こうして今も仲良くしてくださってすごく感謝しています」
「エメリーズ、やめやめ、そういうの」
「そうだぞ、普通のともだちでいるって約束なんだから」
「あー、泣いてる!」
ドレイファスが行儀悪くエメリーズを指差すと
「なっ、泣いてないっ!」
「なぁんだぁ、泣いたかと思ったのに」
そう笑い出した、少年たちはみんな。
ルートリアとモルトベーネはきょとんとしている。
「あのお話からのこの笑いって、一体どうして?」
令嬢ふたりは小さく囁きあうが、令息たちは何も答えず、肩を組んで気が済むまで笑い転げていた。
「今日もとっても美味しかったですわ」
「ええ、本当に」
「カルルド様のはちみつが大活躍されてましたわね」
ルートリアがはちみつを褒めると、モルトベーネの鼻はほんの少し高くなる。
「カルルド様と婚約なさったのでしょ?」
まだ公表していないことだが、ルートリアはドレイファスから聞いて知っている。
「まっ!なぜご存知なのですか?」
「ドレイファス様からうかがいましたの」
「・・・ルートリア様、いつからドレイファス様とそんなに仲がよくなられたのですか?」
こちらも未公表である。
「えっと」
言ってもよいものか迷った姿に気づいたシエルドが、口を挟んできた。
「あれ?モルトベーネ嬢知らないの?」
「何をですか」
「シエッ」
「婚約してるんだよドルとルートリア嬢」
「・・・・・」という間が空いた。そして
「えええ?うそ?ほんと?いつ?」
噂の二人は真っ赤になった。
「でもっ、すっごいお似合いのふたりですねっ!」
モルトベーネはうれしそうにカルルドに話しかけ、カルルドもうんうんと頷く。
ドレイファスももじもじしているのが可愛らしい。
「ではルートリア様とはずっと一緒ですわね!」
「ええ、これからもよろしくお願いします、モルトベーネ様」
「あの、私ルートリア様にお願いがあるのですけれど。皆さんにも」
急にモルトベーネが話を変えた。
「私のこと、ベーネって呼んでくださいませんか?ね?」
「ベーネ様?」
「いえ、ベーネと」
しばらく前からモルトベーネはルートリアに、そしてカルルドやその仲間たちに親しく愛称を呼んでもらいたいと思っていた。
ドレイファスやカルルドが愛称で呼び合うのを見て憧れていたのだ。
「ベーネ」
「そう、カルルド様ありがとう!」
「ではぼくもカルディと呼んで」
「はい!カルディ」
ひとりひとり、皆で愛称を呼び合っていく。しかし、モルトベーネはシエルドとドレイファスだけは、シエル、ドルとは呼べなかった。
「ねえ、僕のこともドルって呼んでよ」
「いえ、でもそれは流石にちょっと」
「ちょっとって何?僕だけできないなんて狡い!」
「じゃ、じゃあ、ド、ドル様」
「いきなりは無理でも、慣れてくれば自然に呼べるようになると思うわ、ド、ドル」
ルートリアがフォローしつつ、それに乗じて愛称呼びをした。
「うん、そうかもね。ル、ルーティ」
─ほ、本当だ、すごく照れくさいな─
「あれ?エメリーズはなんて呼ばれてるの?」
「エズ」
「うん、じゃあエズ!今日からはエズもドレイファス団に入れてあげよう!」
ドヤったドレイファスに、意味がわかった者は歓声をあげ、ルートリアやエメリーズの顔にはハテナが浮かんでいた。
そんなこんなで茶会が終わった頃、結束を固めた少年たちとそれをあたたかく見守る二人の少女は、ドレイファスにこれでもかというほどの土産を持たされ、それぞれの屋敷へと戻って行った。
エメリーズ・ラスライトは家が近づくほどに陰鬱な顔になる。
兄が失踪し、わけもわからずに、父の伯爵は「兄に騙された」と名乗りをあげた幾人かの貴族に賠償金を払うことになった。
ことの真偽は今も不明だが、相手に力があったため否応なく払うしかなかったと、悔しそうに零す父の背中を見、兄を許さない、そして自分は強くなり兄とは違う道を歩くと心に決めた。
それでもまわりからの冷たい視線を感じれば心は傷つく。
怖くて学院にも行かれなくなっていたが夏休み前日どうしても休めずに学院に行くと。
それまでは纏わりつく自分を、面倒くさそうにあしらっていた公爵令息とその一派が、突然として自分の味方をしてくれるようになった。
同情でも、彼らが守ってくれることで騒がしい視線から遠ざかることができたので、それだけでもありがたかったが、彼らは力強く「ともだちだから」と言い切った。
それがどれほどエメリーズの力となり支えとなったことか。
あれ以来怒りっぽくなり、愚痴しか言わない両親の元に帰らねばならずとも、エメリーズはがんばることができた。
「ドレイファス団?なんだろう」
意味はわからなかったが、少年たちはみな喜んでいた。
楽しそうな彼らに囲まれていた時間を思い出し、エメリーズは束の間の幸せに浸っていた。
今まだアイルムがスートレラ家に常駐しているので、あとはアイルムに任せればきっと増やしてくれる。
「これ、はちみつ採れるほど花が咲くのっていつ頃になるのかな」
独り言だったが、エーメはニヤーッと笑うと
「新しいはちみつって、モルトベーネ嬢へのプレゼントなんだろう?カルディってモルトベーネ嬢のこと、けっこう好きなんだな」
そうからかった。
「すっ、好きとかまだわからないけど、モルトベーネ嬢と一緒だと楽しいから」
「ふうん、政略結婚で相手といるのが楽しいっていいな」
「えっ?兄上はトロイラ様と一緒で楽しくないの?」
カルルドからブーメランが放たれる。
「い、いや。た、楽しいぞすごく」
「そう、よかったね兄上も」
わかっているのかいないのか。
しかしにこにこされるとなんだか胸が痛む。
こういうことでカルルドをからかうのは止めようと、エーメは自分に言い聞かせた。
新しい花をカルルドが探していると聞き、シエルドがハニサックルという細長い花を持って来てくれた。
最近ワルターが出先で見つけてきたもので、知らせを受けたモリエールが採取に向かっているらしい。
ハニサックルと、ゼノが見つけたリンゲイ、クロヴァーも今まで何かに利用されたことがない植物だ。
タンジェントとシエルドの鑑定で、トロンビーが蜜を集めることが可能だったり、フラワーオイルなどが作成可能なものと確認している。
あとはどんな味や、香り、色のはちみつが採れるのか、花がたくさん咲いてからのお楽しみである。
「はちみつの種類も着々と増えてきたが、花もこんなにどんどん植えていると、畑の土地がすぐ足りなくなりそうだな」
そう呟いたエーメは、スートレラ家の所有地で他に花畑が作れそうなところはなかったかと考えを巡らせた。
「なあカルディ、新たな畑を早めに父上に相談しよう」
ハッとしたカルルドは隣りに兄がいてよかったと思った。何故なら、自分ならもっとぎりぎりになるまで畑を増やす相談と思いつかなかっただろうから。
「うん兄上、ありがとうございます」
年の離れたかわいい弟の素直な感謝に、エーメはカルルドの頭をぐりぐりと撫で回した。
「ああ、もっとたくさん畑を作って、もっとはちみつ採って、ざくざく金を稼ごうな!」
今のカルルドにとって、はちみつはトロンビーの研究の成果に過ぎず、高値で売れていることもその結果の一つでしかない。それでも父や兄がこんなにも喜んでくれることを自分が成し遂げているのは誇らしかった。
「はい、もっと稼ぎましょう」
なんとなく兄に同調した答えを返していた。
「カルディのはちみつって本当に美味しいね」
今日はドレイファスの催した茶会である。
名を呼ばれたカルルドとモルトベーネ、シエルドとボルドア、アラミス、トレモル、ルートリアはもちろんだが、エメリーズ・ラスライトも姿を見せた。
「お招き頂きありがとうございます」
兄の醜聞以来すっかりおとなしくなってしまったエメリーズを、なんとなく皆で囲み、なんとなく守っている。
一緒にいることが当たり前になりつつあるこの頃、茶会に呼ぶのも当たり前のように思えたのだ。
「エメリーズはこっちに座って」
念願叶い、初めての茶会にうれしそうな顔でエメリーズが椅子に座ると、ボンディと給仕がやって来てデザートを用意する。ウィーを焼いてクレーメを乗せたもの、ペリルを浮かべた泡の水はほんのりはちみつの味もする。
「おいしい!」
「気に入った?」
「はい、すごく」
「じゃあもっとたくさん食べて」
ドレイファスがボンディに目配せすると、ボンディが腕によりをかけたスイーツが次から次から出され、エメリーズは片っ端から食べては頬を染めていく。
「んんんまぁい」
最早何が出てきても、うまい、おいしいとしか言わなくなったが、その顔は満足度をわかりやすく表して、幸せそうだ。
「よかった、エメリーズが喜んでくれて」
ニコニコするドレイファスに、座り直したエメリーズが真面目な顔をすると頭を下げた。
「あの。本当に本当に、皆さんありがとうございます」
「何、急にどうしたの?」
「兄のことがあったのに、こうして今も仲良くしてくださってすごく感謝しています」
「エメリーズ、やめやめ、そういうの」
「そうだぞ、普通のともだちでいるって約束なんだから」
「あー、泣いてる!」
ドレイファスが行儀悪くエメリーズを指差すと
「なっ、泣いてないっ!」
「なぁんだぁ、泣いたかと思ったのに」
そう笑い出した、少年たちはみんな。
ルートリアとモルトベーネはきょとんとしている。
「あのお話からのこの笑いって、一体どうして?」
令嬢ふたりは小さく囁きあうが、令息たちは何も答えず、肩を組んで気が済むまで笑い転げていた。
「今日もとっても美味しかったですわ」
「ええ、本当に」
「カルルド様のはちみつが大活躍されてましたわね」
ルートリアがはちみつを褒めると、モルトベーネの鼻はほんの少し高くなる。
「カルルド様と婚約なさったのでしょ?」
まだ公表していないことだが、ルートリアはドレイファスから聞いて知っている。
「まっ!なぜご存知なのですか?」
「ドレイファス様からうかがいましたの」
「・・・ルートリア様、いつからドレイファス様とそんなに仲がよくなられたのですか?」
こちらも未公表である。
「えっと」
言ってもよいものか迷った姿に気づいたシエルドが、口を挟んできた。
「あれ?モルトベーネ嬢知らないの?」
「何をですか」
「シエッ」
「婚約してるんだよドルとルートリア嬢」
「・・・・・」という間が空いた。そして
「えええ?うそ?ほんと?いつ?」
噂の二人は真っ赤になった。
「でもっ、すっごいお似合いのふたりですねっ!」
モルトベーネはうれしそうにカルルドに話しかけ、カルルドもうんうんと頷く。
ドレイファスももじもじしているのが可愛らしい。
「ではルートリア様とはずっと一緒ですわね!」
「ええ、これからもよろしくお願いします、モルトベーネ様」
「あの、私ルートリア様にお願いがあるのですけれど。皆さんにも」
急にモルトベーネが話を変えた。
「私のこと、ベーネって呼んでくださいませんか?ね?」
「ベーネ様?」
「いえ、ベーネと」
しばらく前からモルトベーネはルートリアに、そしてカルルドやその仲間たちに親しく愛称を呼んでもらいたいと思っていた。
ドレイファスやカルルドが愛称で呼び合うのを見て憧れていたのだ。
「ベーネ」
「そう、カルルド様ありがとう!」
「ではぼくもカルディと呼んで」
「はい!カルディ」
ひとりひとり、皆で愛称を呼び合っていく。しかし、モルトベーネはシエルドとドレイファスだけは、シエル、ドルとは呼べなかった。
「ねえ、僕のこともドルって呼んでよ」
「いえ、でもそれは流石にちょっと」
「ちょっとって何?僕だけできないなんて狡い!」
「じゃ、じゃあ、ド、ドル様」
「いきなりは無理でも、慣れてくれば自然に呼べるようになると思うわ、ド、ドル」
ルートリアがフォローしつつ、それに乗じて愛称呼びをした。
「うん、そうかもね。ル、ルーティ」
─ほ、本当だ、すごく照れくさいな─
「あれ?エメリーズはなんて呼ばれてるの?」
「エズ」
「うん、じゃあエズ!今日からはエズもドレイファス団に入れてあげよう!」
ドヤったドレイファスに、意味がわかった者は歓声をあげ、ルートリアやエメリーズの顔にはハテナが浮かんでいた。
そんなこんなで茶会が終わった頃、結束を固めた少年たちとそれをあたたかく見守る二人の少女は、ドレイファスにこれでもかというほどの土産を持たされ、それぞれの屋敷へと戻って行った。
エメリーズ・ラスライトは家が近づくほどに陰鬱な顔になる。
兄が失踪し、わけもわからずに、父の伯爵は「兄に騙された」と名乗りをあげた幾人かの貴族に賠償金を払うことになった。
ことの真偽は今も不明だが、相手に力があったため否応なく払うしかなかったと、悔しそうに零す父の背中を見、兄を許さない、そして自分は強くなり兄とは違う道を歩くと心に決めた。
それでもまわりからの冷たい視線を感じれば心は傷つく。
怖くて学院にも行かれなくなっていたが夏休み前日どうしても休めずに学院に行くと。
それまでは纏わりつく自分を、面倒くさそうにあしらっていた公爵令息とその一派が、突然として自分の味方をしてくれるようになった。
同情でも、彼らが守ってくれることで騒がしい視線から遠ざかることができたので、それだけでもありがたかったが、彼らは力強く「ともだちだから」と言い切った。
それがどれほどエメリーズの力となり支えとなったことか。
あれ以来怒りっぽくなり、愚痴しか言わない両親の元に帰らねばならずとも、エメリーズはがんばることができた。
「ドレイファス団?なんだろう」
意味はわからなかったが、少年たちはみな喜んでいた。
楽しそうな彼らに囲まれていた時間を思い出し、エメリーズは束の間の幸せに浸っていた。
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