神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

文字の大きさ
上 下
161 / 272

162 しゅわしゅわの水は売れますか?

しおりを挟む
 ドレイファスが湖から持ち帰ったしゅわしゅわ水を使い、ボンディが夕餉に合わせて作った飲み物をドリアンとマーリアルの前に置いた。

「これは新しい飲み物でございます」

 不審なほどにこにことしているボンディに、どうぞどうぞとしつこく促されてドリアンが口にする。

「ん?なんだこの・・・口の中が」
「しゅわしゅわして、爽やか?」
「私も飲んでみますわ」

 マーリアルはとてもわかりやすい。

「ほんと!なんだか不思議だけどすごくおいしいわ」
「お気に召しましたら、あとはドレイファス様にお伺いください」

 ドリアンの目がドレイファスを見つめると、トレモルたちと一緒にコップを覗いている。
 ボンディがこどもたちにも新しい飲み物を出してやったようだと気づき、こどもたちの反応を見守った。

「うわっ、なにこれー!口の中でパチパチする」
「でもなんかすっきりするよ」
「おいしくって、くせになる!」

 口々に感想を言っているが、概ね好評のようだ。

「これはどうやって作られたんだ?」
「さあ、ドレイファス様がどこかでこのしゅわしゅわした水を汲んでいらっしゃいまして。それにはちみつやオレルの絞り汁を入れると教えてくださったので、私が少しアレンジさせていただいたのですが」
「うむ、わかった。あとはドレイファスに訊ねるほうが早そうだ」

 お辞儀をしてボンディが辞すると、ドリアンがドレイファスを呼んだ。

「お父さま?あっ!」
「ドレイファスが作らせたのだろう?これは何か教えてもらいたいのだが」
「これ、ノースロップ湖に泡が含まれた水が出ているところがあって、そこで汲んだ水にいろいろと足してみたのです」
「ノースロップ湖の水なのか、これが?」
「はい。でも湖のまわりを歩いても、あるところとないところがあって」
「それはどうやって見つけたのだね?」
「朝、散歩していて偶然です」

 これはドリアンのほうがびっくりした。

「偶然?」
「・・・ん、あの、夢を見て、なんとなくこの湖で見つけられそうな気がしたから」

 その一言でスキルが神がかってきているのではないかとドリアンは不安を覚えたが、先を続ける。

「これを作って、ドレイファスはどうしたいのだ?」
「ノースロップの人の仕事になれるかなって。湖の水をとって味付けたらみんな喜ぶと思うから」

 この前自分がドレイファスに話したことだ。しっかりと理解してくれていたことがわかり、頬が緩む。

「よし、では商品化できるか精査するから、まずはどこから水を汲んできたかなどを教えてくれるかな」


 ドリアンはすぐ、自らドレイファスとボートで現場に向かった。
昼の漁から戻った漁師を捕まえ、謝礼を握らせてもう一度出してもらう。
ドレイファスの言う「この辺」というのがなかなか見つからずに探し回るうち、ドリアンは船酔いを起こして湖面に顔を向けた。
 すると、底の方から小さな泡が浮き上がって湖面で弾けて消えるのが見えたのだ。

「あった!」
「あっ、本当だ!ここだ」

 ドリアンは気分が悪いことも忘れて叫んだ。
彼にしては珍しいほどに興奮して。

「やったー!見つけたぞっ!」
「お・・と・・・さま?」

 つい叫んだ父に驚き、目を瞠ったドレイファスを見て、カーッと赤くなったドリアンは

「あ、いや、驚かせてすまない。あ、あの、貴族は常に冷静にな。さっきのおとうさまは良くない例だった」

 ドリアンの誤魔化さず、正直に謝るところはドレイファスにも受け継がれている。
外見や性格からマーリアルにそっくりだと言われることの多いドレイファスだが、公爵家の使用人たちにはドリアンにもよく似ていると思われていた。



「えーっと、ではあの水を採取するのだよな?」
「は、はい」
「この前はどうやった?」
「縄を繋いだ桶を落として汲みました」
「なるほど!」

 妙にやる気のドリアン自らが桶を落としてみるが、桶の半分ほどしか水は入らず、なかなか難しい。

「思ったほど上手く水が入らないな。湖面より高さがあるから直接汲むのはこの船では無理・・・。もっと楽に量が汲めないと商品化は難しいか」

 船をアレンジするか、水を汲みあげる道具をローザリオ殿に相談するか?あれ?泡の水はそもそも飲んで大丈夫なものか確認したのだろうか?

「なあ、この泡の水は飲んでも大丈夫なものか誰か確認したのだろうか?」
「え?」
「え、してません」
「も、申し訳ありませんっっ!」

 皆が青褪めて謝り始めたとき、船を動かしていた漁師が声をかけた。

「あー、大丈夫っすよ。食べすぎて腹が重いときなんか、これ飲んでスッキリしてっから」

ドリアンがすぐ反応した。

「スッキリするのか?水で?」
「気のせいかもしれねえんですけど。俺は昔から飲んでまさぁ」

 漁師の側に行くと、もう一つ訊ねた。

「この水を汲んで売り物にすると私が言ったとしたら、この地の者は困るだろうかね?」
「ええ?この水を売るんですかい?これ長もちさすのが難しいんですぜ、泡が立たなくなっちまうんでさぁ。でも水が売れるなら俺らはうれしいです。ノースロップ湖の水源は枯れたことがないって伝説があるくらい、水が豊富なんでさ」

 ドリアンは、いくつかの大切なことを漁師から教わった。

「メート!予定を変更してぎりぎりまでこちらに滞在する。そのように手配を」

 水を汲み終えると別邸に戻り、本宅より小さな執務室で伝言鳥を飛ばし始めた。

『マドゥーン、新しい事業をノースロップで起こすことにしたので暫く戻らない。変更できるものは来月に、できないものは断るように。それとローザリオ殿に協力を賜りたいのでノースロップに来てもらえないかと依頼してほしい。不明点あれば伝言鳥にて』

 光の鳥が目の前に現れたときは驚かなかったマドゥーンだが、どうも夏の間帰らないつもりのような伝言に「はあ?嘘だろう?」と珍しく愚痴をこぼし、さらに、あの多忙で知られるローザリオ・シズルスにノースロップまで来いと伝えろと光の鳥が言ったときには、とっても珍しいことに、ダン!と足を踏み鳴らしていた。

「しかたない、行きますよ。行けばよろしいんでしょう!ふんっ」




 マドゥーンはすぐ、ローザリオに先触れを出し、追いかけるようにシズルス邸を訪ねた。

「執事殿がいらっしゃるとは珍しいな」

 鷹揚に構えたローザリオに迎えられ、マドゥーンは恐る恐るドリアンからの依頼を伝えてみる。

「ノースロップに来い?私にか?」
「はい、ご多忙と存じますが、新しい事業をノースロップで始めるために御助力頂きたく」
「ノースロップで新事業?はて、そんな話し聞いたことあっただろうか?」
「いえ。私の知る限りなかったはずですので、急に思いつかれたことかと」
「私もそろそろ避暑に出かける予定なのだよ」
「は、はあ。ですよね・・・ご無理を申しまして・・・」

 困り果てて、汗を垂らしているマドゥーンを見て、急に笑い声をあげる。

「ははは。まあそんなに困った顔をしなさんな。避暑に行くつもりなのは本当だが、シズルスの別邸にでも行くかなと考えていたくらいでね。それをノースロップに変えても構わないのだよ。費用は」
「はい、もちろん旅費はご用意致しますし、我がノースロップ別邸にご滞在頂くようご準備致します」
「うん、それは私だけ?シエルドが行けるようなら連れて行っても大丈夫だろうか?」
「あ、はい。客間も余裕がございますので」

 そろそろ避暑にでも行きたいと思っていたのは本当のこと。ただ予定はまったくなく、いつでも出られるようにとたまった仕事を片付け終えたところだった。

 ─面白くなってきた─

『シエルド』

 伝言鳥を愛弟子に飛ばすとすぐに返事が返ってくる。

『師匠、お呼びですか』
『夏休みの予定は?避暑に行ったりするのか?』
『今のところ避暑の予定はありません。師匠が仕事あるって言ったんじゃないですか』
『ああ、まあな。公爵家から呼ばれてノースロップ別邸に行くが一緒に行くか?』
『え?ノースロップ?行きたいですっ』
『ワルター殿に了解をとりなさい。夏休みめいっぱいまであちらにいるかもしれないからな』


 すぐにサンザルブ侯爵ワルターに許可を取ったシエルドとアーサは、ローザリオと彼が採取用に改造した乗り心地抜群の馬車に乗り込み、ノースロップへと出発した。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

処理中です...